思っていた以上に嫌な予感のするトラブルとの遭遇
「……流石にもう冒険者の店に行こうよ?」
クレンからの何度目かの提案。
『ブラムリア魔工房』を出た俺達は北のキャンプ広場を出て、マリーからの紹介状を早く渡し終えたい俺に対し、いい加減宿を押さえて少し休憩するべきと言われていた。
サティシヤは何も言わない。しかし、彼女の表情からも疲れの色は見えていた。
「そうだね。俺もお腹が減ったし……」
冒険者の店に行こうと言おうとした時、視界の隅でフードを目深に被った人を男女の2人組が追いかけている姿を目撃した。それは俺だけでなく2人も見ていて。
「これは流石に……戻るしかないね。サティさんは追いかけるのが難しそうだし、先に冒険者の店に行く?」
「ううん。一緒に行きます」
しかし、北のキャンプ広場まで戻ると、目標の姿は見えず。
「とりあえず、手分けして探そう。……そこに見張りがいるから、絶対この中にいる」
北のキャンプ広場の出入り口に男が立っている。つまり、もう1人の女の方が探しているということか。
クレンの提案に頷き、それぞれ別れて追われている人を探す。確認すべきは最初に容姿的特徴。金の瞳に桜色の髪。そして容姿が一致しているならば、名前を聞いてマオルクスという名を確認。できれば身分証を確認して、逃げたいだけの別人だった場合に備えたい。
そんなことを考えながら、周りを見回しながら外壁沿いを歩く。
ドンッ!!
背後に強めの衝撃。
「ご、ごめんなさい! ……あっ、ちょっと協力して!」
目的の追われている人。声から女性であることを確認。そして、フードから覗いた瞳の色は金色だった。
彼女は俺の首に両腕を回し壁際の死角に引っ張り込み、俺の背に隠れる形で追手から隠れた。
「えーっと……んっ」
……いきなり何を? と言うつもりだったのに、強引に唇で唇を塞がれた。……え? 何? どういう状況? 何がどうなってる??
必死に混乱する中、背後に足音。一瞬止まり、急いで離れる様子が耳から伝わって来た。
「……急にごめんなさい。説明する時間が無かった」
彼女は俺から視線を逸らし、頬を赤く染めつつ、申し訳なさそうに謝罪してきたが、多分普通の男なら喜ぶところだろう。……普通なら。
この時、フードの中から覗く桜色の髪を確認。……容姿は一致している。
「男女の2人組から逃げていた。見つかりそうだったから、姿を隠すために利用した。……で、間違いない?」
「うん」
驚きつつも俺の言った内容を肯定。
「こちらからも……」
「待って。移動しながら話して良い? 止まっていると気づかれるから」
そう言って、俺の言葉をさえぎって、強引に手を引いて歩きだす。
「それで……」
「ごめん。もう少し待って。……あっ!」
何処かのテントの横に置いてあった人がギリギリ入れそうな空樽。そこに彼女は入る。
「早く入って。聞きたい事あるんでしょ?」
「う、うん」
……俺、入らなくても良くない?
内心そんなことを思いながら、樽の中に入り、樽の蓋を被せる。
「それで、聞きたい事って?」
「俺は人を探している。だから君の名を教えてほしい」
彼女は少し考えて、ひとりで納得したようだった。
「マオルクスだよ」
「本当に? 身分証ある?」
「ごめん。今は持ち合わせないけれど、マリーっていう方に会わせてくれれば彼女が証明してくれると思う……多分」
彼女の言い回しは気になったが、容姿と名前が一致して、彼女の目的がマリーさんに会う事であれば、きっと間違いないだろう。……何故なら、こちらから情報を出していないから。
「教えてくれてありがとう。俺の名は……」
「サクリウス君だよね?」
その一言で緊張が走る。
……俺の名前を知っている? 何故? 既に俺がマリーさんに頼まれた人材であれば、わざとマリーさんの名前を出した可能性がある?
一瞬でいろんな可能性を考えると、多分表情に出ていたのだろう。
「驚かせてごめんなさい。わたし、天職が占い師系統なんです。今日、わたしが貴方と会えたのは偶然ではなく、占いの結果を信じて貴方に会いに来ました」
占いか……この世界にも水晶占いやダイス占いなど、色々な種類の占いが存在する。もちろん、『竜騎幻想』のゲームの中に占いのシーンなど存在しない。
しかし、この世界の占いの特徴は所謂『当たるも八卦~、信じる者は~』的な適当なものでは無く、どちらかというと神託や予言に近い、占い系天職によるスキルである。
だから、彼女が占いで俺の事を知っていると言われても、その可能性はあるとしか言えない。ただ、精度に関してはレベルに依存する。彼女のレベルが判らないから本当に占いの結果で知ったのか、それとも別の手段で得た情報なのか判断が難しい。
「お、おぅ……えーっと、何で俺?」
「わたしの運命を変えるため」
……運命と来ましたか。いや、つい数日前に運命変えてきたけれども。
「どういうこと?」
「わたし、ほぼ監禁された状態で過ごしてきたの。こうして隙を見て逃げることはこれまでも可能だったとは思うけれど、当然追われる身になることは解ってた。だから、様子をずっと伺い、天職を賜ってからは占いで自由になる方法を探っていたの」
「監禁って、それは穏やかじゃない……」
「そんなわたしを救えるのはサクリウス君の天職【念動士】しか存在しないの」
言葉が出なかった。……彼女が知るはずの無い俺の天職を知っていた。
「……改めて、サクリウス君にお願いがあります。わたしをマリーって方の元に連れて行って貰えないでしょうか?」
……うーん。どうしたものか……悩んでいるのは連れて行くことではない。こちらとしても彼女をマリーさんに会わせることは目的でもあるので問題ない。そして、聞く限り彼女の境遇には同情するものがある。だが……。
「2つ質問がある」
「何でしょう?」
「1つは、どうして俺がサクリウスだと判ったの? それとも占いで俺の顔や姿まで判るもんなの?」
「流石に映像は無理です。知っていたのは飴色の髪と瞳。その色は珍しい色なんですよ。多くの人が茶色と勘違いするかもしれないですけど……そんな人が国内にいる確率を考えれば、貴方がサクリウス君だって確信してたの」
……つまるところ、俺と同じ状況だったってことか。むしろ、彼女からすれば俺の髪と瞳の色は別人を引き当てる可能性が低い事から自信があったってことなんだろうな。
「もう1つは、マリーさんのところへ向かう手段。計画はある?」
「いえ。過去に何度も1人でマリーさんのところへ行く方法を占ったことがあったんです。ですが、サクリウス君に頼まない場合は全て辿り着く前に追手に捕まる運命しか見えませんでした。なので、サクリウス君が逃がす方法を思いつくのではないかと思っていました」
……なるほどなぁ。丸投げかよーって思うところだけど、幸い手段が1つ思い浮かんでいるんだよな。
「じゃあ、行こうか? この環境が続くのは俺の理性的もあまり良くないから」
長時間、狭い場所に密着しての完全ではないにしろ密封空間は息苦しくて宜しくなかった。
樽の中から抜け出した俺達は、急いで『ブラムリア魔工房』へ向かう。
「いらっしゃ……あら?」
ユミウルカは俺達の姿を見ると露骨にガッカリしていた。
「何か忘れ物?」
「頼みがある。さっきのイヤリングを借りたい。とりあえず1日」
単刀直入。もし、移動中に見つかって追いかけられたら終わる。
「本来はダメっていうところだけど、サクリさんを信じて貸してあげる。絶対無くさないようにね」
「助かる! マオルクスさん、これを付けて」
急いで借りると、それを彼女に付けさせる。付けてさえくれればゆっくりと話す事もできるというもの。
「……キャッ、何これ?」
マオルクスもちゃんと幼くなって、どうみても子供にしか見えない。
「良い? このイヤリングを装着すると実年齢の半分の容姿になるわ。でも、身体能力も当時のモノに戻ってしまうから注意して。それと、魔道具だから魔力切れしたら姿戻るからね?」
「本当に助かった。ありがとう!」
……あ~、これでユミウルカからの提案をますます断り難くなってしまった。
8歳児になったマオルクスは服装をアレンジして応急的に身に付けると工房を出て、堂々とクレンとサティシヤの2人と合流した。特にクレンは8歳児になった彼女の姿に驚いていて。
「……なぁ、その子……マリアン……」
「いいから。……行こう?」
言われなくても直ぐに気付いたよ。マリアンジュにそっくりだってことくらい。
「お兄ちゃん、抱っこ~」
悪ノリかと思ったが、追手が近づいて来るので不安から誤魔化そうとしているのだろう。
「ありがと、サクリ君」
抱っこしてあげると耳元で彼女が囁く。その呼び方に若干の違和を感じた。
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