捨てられる冒険者と冒険者ランクの仕組み
「……何か疲れた……」
「お疲れ様」
店を出て一言ボヤくとクレンが労いの言葉を言ってはくれるが、サティシヤも機嫌悪そうなのがよく解らない。
「何かあった?」
「何もないよ……次はナッツリブア冒険者支援組合だっけ?」
「うん、多分この辺にあるらしいんだけど」
店を出る前にマリーさんに大体の位置を教えて貰った。雑貨屋で地図を買えば憶えられるだろうけど、暗記してしまった方が良いと教えて貰った。理由は街の外から来たばかりとバレてしまうからだという。
「アレじゃないですか?」
メイン通りから横に少し入った場所。知っていれば通りから看板を見る事ができるかもしれないが、場所を知らなかった俺達は見事にスルーしていた。話していたからというのもあるかもしれないが、結果無言で歩いていたサティシヤが見つけてくれた。
「ありがと、サティ」
俺が礼を言うとニパッと嬉しそうに微笑む。……可愛い。
「行こうよ」
クレンがそう言うと先に歩いて行ってしまった。当然ながら俺達も彼の後を追ってビルのような建物の中に入る。
「いらっしゃいませ」
中に客は居ない。とても静かな空間だった。許容人数は150人くらいだろうか? 数字の基準は冒険者チームの最大人数が150人というだけ。椅子の数はどう見ても足りないけど、最大数が来ることも無いだろうし、充分な広さだとも思う。
中はカウンターで従業員と冒険者が一応隔たれており、何となくスマホ会社のショップに似ていると思った。
従業員は見えるところに若い女性が1人。多分奥には従業員専用スペースがあるのだろう。客が居なければ店頭に出ている理由もない。……まぁ、組合を店と表現するのも正しいか微妙だが。
「こんにちは。冒険者登録したいのですが」
そう言って、指示された通りマリーさんの紹介状を差し出す。
「はーい。……って、少々お待ちください!」
女性は紹介状の差出人の名前を確認した途端、慌てて店の裏に入って行ってしまった。
「ねぇ、マリーさんってかなり凄い人?」
「多分ね」
クレンの問いに同意しつつも、内心は俺も驚いていた。
戻って来た女性は色々書類を持ってきてアタフタしており、気の毒に思えた。
「お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。こちらこそ、驚かせて申し訳ありません」
「滅相もありません。王族の方からの紹介状など初めて見ましたので段取りを確認して参りました。もしご不明な点があれば遠慮なくお尋ね下さい」
……うん、俺は王族じゃないのだから恐縮しなくても良いと思うよ? ……っていうか、マリーさんって王族なの?!
「では、えーっとサクリウス=サイファリオ様は?」
「あっ、俺です」
「では、サクリウス様から冒険者カードを作る際に必要とされる情報の確認と撮影、測定を行いますね。こちらの用紙の必要事項をご確認下さい。お待ちの方もどうぞ、こちらの用紙への記入をお願いしますね」
容姿には既に名前、性別、年齢、保証人、保証人の住所が記載されており、書くべき場所が無い。そういえば、天職の記入する場所もない。
「あの、天職の記入は?」
「不要ですよ。実力の世界ですので仲間内で虚偽の申告をした場合、仲間から戦力外として外されるだけですので。それに冒険者カードは身分証としての役目もあります。天職を記載することで問題が発生するかもしれませんから」
……具体例を言わないのも、悪用防止の1つかな。
「間違いありませんでしたか?」
「大丈夫です」
彼女は用紙を回収するとペンを持つ。
「それではサクリ様。能力値測定をしたいと思うのですが……」
……測定! あれだ。異世界モノでお約束のクリスタルに手をかざしたり、何か人形のような物を殴ったりするアレだろ?
ワクワクしながら次の言葉を待つ。
「見させて頂いても宜しいですか」
「もちろんです」
「では、失礼しますね。……〈アナライズ〉」
……え?
俺が戸惑う中、彼女は黙々と用紙にカリカリとペンで記入している。
「はい、終わりました。ありがとうございました」
「えーっと……何かで測定するんじゃ?」
「あぁ、いえいえ。わたしの天職は学者ですので、スキルを使って確認させて頂きました」
……あ~、そうですか。まぁ、「俺、何かやっちゃいました?」的なことはできないから良いんだけど、やってみたかったんだよなぁ……。
「ボク達も終わったんだけど」
「はーい。確認させて頂きますね。ついでに能力値測定もさせて頂きます」
ちょっと期待外れだったが、2人も測定が終わり、お姉さんは再び奥へ入って行った。
……ん、あれ? 〈アナライズ〉って……?
そのスキルは『竜騎幻想』にもある。学者ユニットのスキルで主に敵ユニットのステータスや装備、弱点などのステータスを確認するスキルである。
……天職も見られた……。
戻って来たお姉さんは魔道具を持っており、俺達のバストアップを隔離された場所で順番に撮影する。それが終わると再び裏に戻って、直ぐに戻って来た。
「それでは、冒険者カードが完成するまで、冒険者として必要な情報について説明しますね」
お姉さんはカウンターの上に説明用のイラストが描かれた紙を広げる。
「冒険者には階級が存在します。そして全員が最初はアイアン級からスタートされます。それは誰であっても例外ではありません。ですが、次のカッパー級の条件が揃っていればカッパー級からのスタートとなります」
「その、カッパー級の条件って?」
「仲間を6人以上にすることですね」
……実績いらず? つまり人数を揃えろってことか。
クレンの問いにお姉さんは答えるが、クレンは何故か渋い表情をしている。
「多分、皆さんにとって一番の関心事だと思うのですが、アイアン級は依頼を紹介して貰えません。ですので、ご自身で依頼を取りに行ってくださいね」
……マジか。異世界モノなら、薬草拾いとか、素材収集とか、雑魚討伐とかありそうなのに、現実はそんなもんですか。……早く人数集めないと……。
「話を戻しますね。冒険者カードは身分証として扱うと先程説明させて頂きましたが、冒険者支援組合加盟店をご利用の際にカードを提示するとお値段の割引があります。ですが、買取りの際に割増し価格になることはございませんのでご了承下さい」
これはゲームと一緒か。『竜騎幻想』の主人公は冒険者ではないが、身分証を提示することにより割引価格で装備が購入できるって説明があったんだよな。買取りは何処でも関係なく同じ金額だったけど。
「その加盟店の中に冒険者の店と呼ばれる宿屋兼酒場が町以上の都市には確実に存在します。村になると無いところも多いかもですが。その冒険者の店ですが、冒険者の階級別で利用できる店が違います。斡旋される仕事内容も違います。当然ながらアイアン級の冒険者の店には仕事の依頼は来ません」
……でしょうね。なら、普段から空いているかもしれない。
「ちなみにブライタニアにはアイアン級の冒険者の店は1軒しかございません。なので、店内で仲間をスカウトするのも良いかもしれません」
「1軒しかないのは、そういう意味でってことですか?」
「それもありますが、実際のところ需要があまりないんですよね。アイアン級は直ぐにカッパー級になれてしまいますから。ちなみに一番需要のある冒険者の店はブロンズ級ですね」
そう言って、彼女は冒険者の階級リストを指さして説明してくれる。
「なるほど」
階級は一番下のアイアンからシルバーまで説明が書かれている。シルバー級になる条件というのが『ウルトラレア職の仲間が所属』だから、実際にシルバー級になるのは難しい。
「ご存知だと思いますが、レア職がレベルクラウンになった際に10人に1人がスーパーレア職となる可能性があります。また、スーパーレア職がレベルクラウンになった際、10人に1人がウルトラレア職へと至る可能性があります。ですので、ブロンズからシルバー級に至るのは難しく、ブロンズ級の冒険者が溢れるといった具合になっているのです」
……いや、全然ご存知ではないが?
「な、なるほど?」
「これにて説明は一通り終わりましたが、何かご質問などありますか?」
お姉さんの説明は完璧でとても理解できたのだが、その説明があまりにも『竜騎幻想』からは離れているんだよなぁ。まぁ、主人公が冒険者じゃないからって事が大きいんだと思うんだけど。
2人の様子を確認し、質問は無いと確認する。……「大丈夫です」と返事しようとした。
ガチャ。
不意に扉が開かれる。
「いらっしゃいませ、少々お待ちください」
彼女は急いで奥に行く。
振り返ると冒険者と思われる一団が中に入って来るところだった。年齢は同世代……ちょっと上だろうか? 多分、たいして変わらない。少しだけ先輩といった感じだろう。
男性3人、女性5人のグループで全体的に態度のデカいという印象を持ったが、人間見た目で判断してはいけない。人数は最低でも6人以上いるのだから間違いなくカッパー級の冒険者のはず。もしかしたらシャドウ級の可能性だってある。
そんなことを思っていると、後ろからお姉さんとは別に男性も出てきた。ムキッとした感じでスキンヘッドのお兄さんだが、表情は至って優しい笑みを浮かべている。
「おまた……」
「今日はこいつをクビにしたいんだ」
お姉さんの声をかき消すように、リーダーと思われる男性がお兄さんに話す。聞こえてしまうのだから、つい耳を傾けてしまう。
「失礼します……確認しました。シオリエル様のパーティ解雇ということですね? それでは解除金の支払いをお願いします……確かに3万ナンスを確認しました」
「じゃあな! ……そっちの新人達、邪魔して悪かったな」
そう一方的に言うと出て行って、クビになった1人を残して嵐のような時間は過ぎ去り、再び静かな空間が訪れた。
……パーティから外すのに3万ナンスだと? 解除金って??
「ビックリされましたよね。でも、よくある話なんですよ。ご存知の通り、冒険者はどのような天職の方でもなることができます。ですが、階級が上がると依頼の難易度も上がります。その結果、ノーマル職の冒険者の方は戦力的に非常に厳しいというのが現実でございます。依頼料というのは人数単位ではなく、仕事単位で用意されます。よって、より少ない人数で仕事をした方が収入は増える。……つまり、お金を支払って辞めて頂くのが効率良く、生存確率も上げる結果となります。ですので、その……天職を偽るリスク、お解りでしょう?」
「よく解りました。ちなみに、解除金はそのまま解除された方に支払われるんですよね? 3万ナンスって聞こえましたが?」
「そうですね。あの方はカッパー級だったので3万ナンスですね。階級が上がる度に0が増えていきますので、お気をつけて」
……おおぅ、軽い気持ちで仲間にしたら危険すぎる。
「……それでは、こちらが新しいアイアン級の冒険者カードになります」
あっちではお兄さんがクビにされた人に新しいカードを発行していた。更新は1から作るより早いのか?
「どうもです。それでは、失礼します……あの、騒がしくして済みませんでした」
こちらに一言謝罪してから彼女は店を出ていく。この時に初めて彼女が泣いていたことに気づいた。
「……お疲れ様でした」
何故か、その背中にそう言ってしまった。……もちろん、リアクションは無かった。
何となく、『天職進化の儀』をする直前のノーマル職でも冒険者になるって思っていた自分を思い出し、重ねて見てしまったからかもしれない。
確かに、数分前の俺は仲間が増えれば仕事ができると思っていたけど、どうも違ったようだ。
冒険者達の相手をしていたお兄さんは後ろに戻ったかと思ったら、お姉さんにトレイを渡しに戻って来た。
「あっ、先輩。ありがとうございます」
その先輩と呼ばれたお兄さんはこちらにお辞儀をして再び裏に戻っていった。
「お待たせしました。こちらが冒険者カードになります」
お兄さんが後ろから持ってきたトレイには俺達の冒険者カード3枚が並んでいた。すると、クレンが慌てて自分の分を取る。
「それでは、冒険者登録費と冒険者カードの発行を含めまして、合計で3千ナンスとなります」
……思ったより良い値段……そんなことを思いつつ、銀貨を1枚払う。
「青銅貨1枚のお返しになります。ご利用ありがとうございました」
最後までお姉さんは誰の天職のことを話さなかった辺り、流石プロと思ってしまった。
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