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魔道具店“ファンタジアン”の主、マリー

 イーベルロマを出て、近隣の町まで徒歩3日。そこから乗合馬車で、町から町までもだいたい3日。こんな感じで国内に等間隔で町や村が存在している。おかげで王都ブライタニアまでの日数も逆算可能で、大きなトラブルも無く予定通りに9日間掛けて到着した。


「出発前から判っていたけれど、思った以上に遠かったね」


 ブライタニアの街外れ。乗合馬車の乗り場で軽く伸びをしながらクレンがボヤくが、その感想には同意しかない。


「久しぶりでお尻が少し痛いです」


 ……むしろ、少しで僥倖。俺は多分尻が割れた。確認こそしていないが、きっとそう。


 イーベルロマを出た頃とはまるで清潔感が違う銀髪少女は新しい革鎧やマントを身に付けおり、何処から見ても新人冒険者である。……登録はまだだが。


 ちなみに、サティシヤの匂い問題だけはまだ解決をしていない。長い事納屋で暮らしていたため、身体に匂いが染みついているようで、乗合馬車に乗るために町で購入した匂い消しの消耗品であるデオドライザーという香水を今は身に纏って無臭を付与している。


 ……早く不要になると良いのだが……。


「やっと着いたな……あれが有名な王城“フォーカスライト”か。思っていた以上にデカい」


「知ってるの?」


「あ~、少しね」


 思わず素直な感想が漏れたが、隣にいたサティシヤに聞かれて言葉を濁す。……俺が知っているのはゲームでの話だからな。


 とりあえず話を深掘りされると困るから2人と少し離れ、近くにいた同世代と思われる若い2人組の男……新人と思われる兵士に尋ねる。


「あの、すみません。マリー=C=ファンタズマって方をご存知ですか?」


 兵士達は顔を見合わせ頷き合う。


「あぁ、知っている」


「ただ、俺達は最近物忘れが激しくてね……もう少しで思い出せそうなんだが……」


 そう話して中々教えてくれない。……あぁ、金をくれって事か?


「やめときなさい。誰でも知っている人よ。……貴方達、あの方を敵に回すつもり?」


 お金の入った袋に手を伸ばすのを止める……どうやら彼女は有名人のようで、女性兵が衛兵の2人を注意すると逃げるように去ってしまった。




「貴方、運が悪かったね。同期が本当に失礼しました」


「いや、助かった。ありがとう」


 なるほど、同期の兵士だったから注意できたわけか。……って、あれ? この子……?


「宜しければ、ご案内しましょうか?」


「お願いします……みんな、行くよ!」


 クレンとサティシヤはどうやら宿をとるか食事に行くか話し合っていたみたいだが、お構いなしで行き先を決める。……最初に行かなきゃいけないって言われていたし、大事な預かり物を持って不慣れな土地をフラフラできるようなメンタルは無い。


「何処に行くの?」


「手紙を届けにだよ」


 クレンの問いに短く答えると、2人は慌てて先を歩く俺達の後を追ってきた。


 ……というか、彼女は俺が会いたかった推しユニットの1人だ。


 腰まである淡い橙のロングヘアーに深い橙の瞳。そして聞き覚えのある可愛い声。間違いない……と思う。超自信あるけども、ゲームだと会えるのはもうちょっと先なんだよな……。


「ここですね」


「ありがとうございました。……あの、俺はサクリウス=サイファリオです。お名前を伺っても?」


「わたしは新人兵のアミュアルナ=リップルトです。それでは失礼します」


 ……やべぇ、本物だ……。


「サクリさん、鼻の下伸びてない?」


「そ、ソンナコトハナイヨ。……さぁ、行こうか?」


 サティシヤのジト目をスルーして店に入る。


「ファンタジアンだって。……何のお店だろ?」


「魔道具のお店ですよ。いらっしゃいませ。何をお求めですか?」


 続けて入ったクレンに女性の店員さんが答えた。『竜騎幻想』では見た事無いキャラではあるが、少し年上の可愛いお姉さんだ。


「あっ、いえ。実はマリーさんって方に手紙を預かっていまして」


「あら? それを見せて頂いても?」


 まぁ、店員さんだし問題ないかな。あまり警戒心丸出しでも話は進まないかもしれないし、印象が悪くなるのは避けた方が良いか。


「はい、どうぞ」


「……これは……お客様、ご案内しますね。どうぞこちらへ」


 店員さんの雰囲気が変わり、従業員スペースへと案内される。かなり不安なんだが??


 ……ヴォルリックさん、この手紙って大丈夫だよね?




 通されたのは応接間。でも、明らかに店の雰囲気とは異なっていて、見るからに高そうなソファーや調度品が並ぶ、『お金持ち』という感じの部屋だった。


「どうぞ、お座りになって下さい」


 店員さんが座るべき席を案内して、座るよう促すので素直に言う事を聞くと、店員さんは向かいの上座に座る。


「それじゃ、改めまして。わたしがこの魔道具店の店長のマリー=C=ファンタズマと申します。改めまして、お手紙を確認させて頂きますね」


「え? ……あ、はい」


 お姉さんだったから店員だと思っていたけど、店長さんだった。


「……ふむふむ。なるほど……貴方がサクリウスさんで間違いない?」


「そうです」


「では、残りはお仲間ということね。ヴォルリック様はお元気?」


「はい。9日前まで一緒でしたが元気でしたよ」


 確認するだけ確認すると、手紙を封筒に戻し、彼女は大きく深呼吸をする。


「ちなみに、ここに来る前に何処かへ寄りましたか?」


「いえ、到着して直ぐに来ました」


「……それは良い判断でしたね。色々見て回りたいでしょうが、まずは最低限のことをした後が良いですね。そうでないと足元を見られてしまいます。まずはナッツリブア冒険者支援組合に行って登録し、冒険者カードを貰わないと直ぐに身分証の提示をさせられるわよ?」


 身分証の提示……つまるところ、何か絡まれて衛兵の世話になったらって話かな?


「……で、冒険者ガードを手に入れたら、次は冒険者の店ね。普通の宿屋と違って長期間滞在に対し安く泊めてくれるけれど、お店選びは慎重にね。これで大荷物を持ち歩かずに済むようになるから……あっ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、彼女は席を外して部屋を出て行ってしまった。


「……ふぅ」


「「……緊張する……」」


 俺もそうだが、2人もかなり緊張しているようだ。2人はまだ黙っていられるのだから良いじゃないか。


 ……アミュアルナに感謝だな。俺なら2人に意地を張られていたら流されていたに違いない。




 戻って来たマリーさんは封筒を何枚か持っているようだった。


「えーっと、まずはコレ。これはナッツリブア冒険者支援組合に行った際、最初に受付に紹介状を渡しなさい。それで普通の対応がして貰えるわ。それと、ナッツリブア銀行、衛兵の詰め所、鍛冶屋の工房の紹介状。……良い? 最初に絶対渡すこと。所持金は最低限以外、銀行に預けること。詰め所の隊長さんには顔を憶えて貰う事。そして、紹介した鍛冶屋以外に武器を預けない事。……良い?」


「「「……は、はい」」」


「……宜しい」


 ……何故だろう? ちょっと年上程度のお姉さんの割に圧が強い。


「そして、これはメモ。用が済んだら捨てても構わないわ」


 メモには沢山のお店の名前が書かれているが、部屋が暗く、光が部屋に差し込むからなのか、俺を見つめる彼女の金色の瞳が僅かに光っているのが妙に気になった。


「このメモはね、わたしが取引している店の中で冒険者が利用しそうなお店。そこは紹介状が無くても、わたしの名前を出せば適正に扱ってくれるはずよ。素材の売却とかね」


「ありがとうございます。でも、このリストもそうですが紹介状も本来無料で頂けるものでは無いんじゃ?」


「確かにそうだけれど、貴方は気にしなくて良いわ。ヴォルリック様の頼みですし、貴方達には期待をしますから、先行投資のようなものだと思うようにします」


 ……やっぱり。っていうか、マリーさんって凄い影響力がありそうな人なんだけど、ヴォルリックさんは何者なん?


「ありがとうございます。その、期待に応えられるよう精進します」


「あら? 成人したばかりなのに難しい言葉を使えるのね」


 ……あっ、つい前世の癖が……。


「ふふっ、緊張してるよね? ……でも、どうやら彼が言うように良い子みたいね」


 何故かゾクッと背筋に悪寒が走ったが、黙っていた方が良いと直感が告げていた。




「気づかれているかもしれないけれど、今言った事は遠回しに「今の貴方達は何の役にも立たない」と言ったのよ」


 ……あ~、俺の直感の理由はコレか。確かに変だと思ったんだよな。期待しているのに先行投資。最初は俺達が素人冒険者だからだと思ったけれど、そもそも何の実績もない冒険者に期待なんてするわけがないんだよ。


「こういう言い回しは大規模な商売を経営している商人や王族なんかが悪意無く好んで使うわ。だから、大事なことは不自然な言い回しに注意すること。相手を見て状況によっては反論ではなく賢く立ち回ることを覚えなさい」


「はい、ありがとうございます」


 頭を下げると、2人も一緒に頭を下げる。


「あとは冒険者の階級が低い内に知り合いを増やしなさい。それと利用する店に関しては店長だけでなく店員とも信頼を築き、気分で店を変えることせず、同じ店を利用するようにしなさい。顔が売れれば普通に暮らせるだけでなく、依頼を貰えるようにもなるからね」


 そこまで話すと彼女は立ち上がる。その際に背中から流れ落ちる彼女の白いポニーテールがサラサラと流れ落ちるのを目で追ってしまった。


「そうね、これは余計なお世話だとは思うけれど、他所の冒険者の事情には見ていて理不尽だと思おうとも、絶対に首を突っ込まない事。特に、仕事の邪魔は殺されても文句は言えないと思った方が良いからね?」


 彼女は部屋の扉を開ける。……それが話は終わったという意味だと直ぐに気付いた。


 応接間から退室し店へとマリーさんの後ろを付いて行く。彼女の背中に揺れる尻に届くポニーテールを目で追っていて、不意に話しかけられた時に少し驚いてしまった。


「これは依頼ではないのだけど、実はわたしに弟子がいるの。彼女の名はマオルクス。特徴は金色の目に淡いピンク色の髪色をしているわ。ただ、トラブルがあって追われる身らしいから、もし見かけたら、保護して連れて来て欲しいの」


「トラブルですか? ……一体どのような……」


「詳しく聞いてしまうと貴方達も追われる立場になるかもしれない。それでも聞くの?」


 ……あっ。なるほど、深入りは危険ってことなのか。


「失礼しました。もし、偶然見かけたら連れてきます」


 これはマリーさんとの信頼を築くための情報なのだろう。……多分。

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