実験成功。村からの脱出と運命に抗える事の証明
「おはようございます」
定期船乗り場である桟橋に向かうと二日酔いになっていないことが不思議なヴォルリックさんとエルミスリーが定期船を待っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
2人の元に行くとヴォルリックさんがニヤニヤしながら近づいて来て、強引に腕を肩に回されて逃げられないようにガッチリとホールドされる。
「な、何?」
「いや、礼を言おうと思ってな」
……礼? 何の話?
「お前、エルミスリーに初めてを体験させてやったんだろ?」
……あっ、その話か。
「ヴォルリックさん、言い方!」
「……間違いじゃないだろう?」
そう言いながらニヤニヤしている。
「まぁ、成功して良かった。ダメなら俺が行かなきゃダメかと思っていたが……」
「意外だなぁ。感謝されるとは思わなかった」
そう言って苦笑すると、彼は楽しそうに笑う。
「そうだな。俺的には自発的行動に関しては喜ばしいことだと思っている。もちろん、無断で行ったことは褒められたことではないし、場合によっては取り返しがつかない事もある」
そこまで話して、彼は俺に回されていた腕を外して解放する。
「でも、取り返しがつく範囲であれば、挑戦は大丈夫だと思うぞ……この意見は【職審官】の総意ではないんだけどな」
彼が面倒臭そうにボヤくと、このタイミングで桟橋に船が入って来た。
俺達の他にも数名船に乗るらしいが見知った顔が居ない。多分、全員が村の外の人物なのだろう。また、乗船希望者以外の人達には知った顔が居た。カロライン、メアリヤッカ、フィルミーナの3人。俺の大事な友人である。一番の親友クレンが居ないことが若干寂しくもありつつ、それでも、見送りに来てくれた人に感謝の言葉を告げ……カロラインに泣かれてしまった。
船に乗って席を確保すると、再び近づいてきたヴォルリックが隣に座る。
「どうだ? 村を出る気分は?」
「思ったより未練が無いことにビックリだよ」
2年間地獄のような毎日を送っていたとはいえ、この程度で地獄と言っていてはサティシヤに失礼だとも今なら思えるし、14年間は特にやりたい事もなく流されるまま漠然と店を継ぐのかなって考えていた過去の俺を今は特に幸せそうだとも思えない。
「そうなのか?」
「もっと憎しみっぽいモノが沸々と湧き上がるものだと思っていたんだけどね。多分、俺を信じて助けてくれる人達も居たからだと思う」
それだけでなく、前世の記憶を得たことで無意識に「どうせゲームのNPCだ」という認識がいろんな感情をさめさせてしまったのかもしれない。
「なるほどな。そういう人達との別れはやっぱり寂しいんじゃないか?」
「恩義は感じているんだけど、不思議とその辺は……むしろ、自身の今後のことが心配で」
「違いない」
……何かを探られているのか? ちょっとしつこいような気もする。これだけヴォルリックさんに絡まれているのにエルミスリーが何も言ってこないことが不自然なんだよな。
「それに、友人達は王都まで来るって話していたし、その時に会えるのだから、そこまで村に未練はない」
「あぁ、聞いた。王都で冒険者生活か。確かに今後が不安だな。……じゃあ、もう村に思い残すことはないな」
「……他の事は比較的どうでも良いと思っているんだけど、マリアンジュと兄妹でいられた7年間は死ぬまで忘れないと思う」
多分、村での記憶として唯一残しておくべき記憶だと思うから。
「そうだな。……ところで王都で冒険者をするって話だが、王都へ行った事は?」
「え? うーん……小さい頃に父さんに連れられて2~3回くらいは行った事があるけど」
そう答えるとヴォルリックさんは少し考えこむ。
「なるほどな。じゃあ、知り合いもいないよな?」
一方的に知ってるNPCならいるんだけど。
「いない」
「そうなると、かなりのハードな生活になるな」
「どういう意味?」
……普通に冒険者になれば、生活費くらいは稼げるんじゃないの?
「これを指摘するのはお節介だとは思うんだが……王都に限らず、どんな場所でも新参者には厳しい場所なんだ。どんな人なのか理解されるまで警戒されるって話だ」
「うん?」
……いや、当たり前だとは思うんだが?
「ピンと来てないな? なら、もう少し具体的な話だ。王都には多くの王族が暮らしている。彼等も国の兵を動かせないプライベートな用事は冒険者を頼ることもあるだろう。だが、彼等が頼る冒険者は顔なじみの優秀な冒険者だ」
「つまり、冒険者を既に頼った経験のある依頼主は、問題ない限り同じ冒険者を頼るってこと?」
「正解だ。そして、新規の依頼主というのは原則高額な報酬を払えない。だから、未熟な冒険者を安く雇う。そして、未熟な冒険者というのは結構余ってる」
……うわぁ、自信を失いそう……むしろ、今までが根拠ない自信だったか。
「その表情、理解したな? つまり、冒険者になっても仕事がないっていうのが普通だ」
……そりゃあ、冒険者が余っているなら仕事は無いってことだよな。
「仕事がない冒険者は、廃業するか副業をして凌ぐ……まぁ、普通はそんな感じなんだが、例外がある」
「例外?」
それは助かる……知らなきゃ終わってる……始まる前に。
「依頼が来ないなら、依頼を貰いに行く。雑用を好んで格安で引き受ける。そうやって信頼を稼ぐと口コミなどで指名依頼がくるってわけだ」
「おお……っていうか、かなりの雑用をしなきゃならないんじゃ?」
「そうだな。でも、顔を売るのは大事な仕事だ。依頼が欲しいだろ?」
……確かに。
「つまり、依頼を貰って仕事ができるようになるまで、それなりに時間が必要?」
「そういうことだ。冒険者になれば稼げるとは思わない方が良い」
「ありがとう。本当に知らなかった。……王都に行ってから知ったら途方に暮れるところだったよ」
「なぁに。これも【職審官】としての仕事の1つだから気にするな……いや、嘘だな。若干個人的な思い入れから過保護になったかもしれん」
そう言うと、クククッと笑う。それを見て思わず笑顔が零れる。
「我ながら、らしくないことをしている自覚はある。だが、サクリのことは幼い頃から見ていたからな。……まぁ、特別だ」
そう言うと、彼は照れ臭そうに頭を掻く。
「じゃあ2年間耐えたサクリウスへ俺からの選別をやろう」
そういうと彼は鞄を手繰り寄せて、中を漁り始めた。
「……ほれ、コレだ」
鞄から取り出されたモノは封がしっかりされた手紙。
「いいか? この中身は絶対見るな。……まぁ、最初の依頼のようなものだ。中身を見たら相手にバレる。すると信用を失う。その結果は……もう判るな?」
「流石にね」
そう言って、手紙を受け取る。
「宛先はマリー=C=ファンタズマ。上手く取り入ればサクリの後ろ盾になってくれるだろう」
「本当ですか? その方はいったい??」
「……まぁ、ただの腐れ縁だ」
……腐れ縁ねぇ……その人が何者か教えてくれても良いだろうに……
「詮索するなってこと?」
「まぁ、行けば判る」
肯定と判断して、手紙が折れないように気を使いながら鞄に入れる。
「いいか? 絶対に頼り過ぎるな。……これはヒントだ。上手に付き合え」
「わかった」
一人前になるまで甘え続けるなという釘刺し。……切り札的に考えれば良いのか?
「まぁ、これで食べるのに困るという最悪な事態は無いだろう。コネは上手に使え」
「ありがとう」
……しかし考えてみると、何も知らないまま王都に行っていたら、あまりの世間の冷たさに絶望していたかもしれない。なら、こちらからも……別に復讐は考えていなかったが。
「ヴォルリックさん、お礼ってわけではないけど、多分ディックは冥職持ちだと思うよ。2年前からヴォルリックさん達が来るタイミングで村の外へ行っているから」
「やはりそうか……ありがとな。後は気にしなくて良い」
彼は席を立ちあがるとエルミスリーの元へ移動する。……気づくと既に対岸に着いていた。
納屋を訪れると、既にサティシヤが納屋の外で待っていて、何故かフィルミーナも一緒にいた。……見送りかな?
「お待たせ」
「サクリさん」
「え? ……何で?」
声を掛けると、サティシヤは嬉しそうに近づいて来て、フィルミーナはただ驚くばかり。
「わたし、サクリさんが定期船に乗っていくのを見送ったんだよ?」
「うん、ちゃんと対岸に行ったよ」
フィルミーナにはこの状況を当然ながら理解できていなかった。
「……まぁ、2人には隠すような話じゃないけれど、俺の天職はユニーク職の【念動士】なんだ。その【念動士】のスキルで一応長距離移動が可能なんだ」
「「……」」
2人とも驚きすぎて茫然としている。
まぁ、無理もない。ユニーク職は1万人に1人しか賜らない。それに、同じユニーク職を持つ者は存在しない。ちゃんと調べていないから知らないけれど、前の【念動士】の人が死んだので自分が賜ることができ、俺が死ぬまで誰も【念動士】を賜ることがない。
つまり、それくらい珍しい天職である。そのスキルの内容を他の人が知るとは思えない。
「おーい。聞いてる?」
声を掛けると2人揃って身体をビクッとさせる。
……うーん。大丈夫か?
「まぁ、そういうことだから長居はできない。2人にだから天職を晒したけれど、他の人には伝えたくない。だから、フィナも俺の天職のことは誰にも伝えないでね」
「うん。……ねね、サクリさん。定期船に乗らないでも島に戻って来れるなら、また戻って来る?」
「いや、もう戻ってこないかな。この長距離移動スキルには条件がある。それは事前に移動する場所を登録しておかないといけない。もっとレベルが上がれば色々登録できるかもしれないけれど、今の俺は2ヶ所が限界。だから、ここを登録し続けることは難しい」
「……そっか」
露骨にガッカリするのは、俺が戻ってこない事を残念に思っているのか、それともサティシヤとの別れが寂しいのか……十中八九後者だろうな。
「フィナも家族の許可を得たら王都に来なよ。拠点が落ち着いたら手紙を出すから」
「うん!」
……さて、そろそろマーク用の短剣が引き抜かれる危険性を考えて、さっさと戻らんと。
「じゃあ、そろそろ……サティ、行こうか?」
「はい! ……じゃあね、フィナちゃん。また会おうね!」
「元気でね!」
「じゃあ、行くよ。目を瞑って」
サティシヤと手を繋いで目を瞑りスキルを発動させる。次に目を開くと景色が一辺していた。
「もう目を開けて良いよ」
俺がそう合図を出すと、対岸の村の外。町へ至る街道の脇に立っていた。
「……あっ……本当に移動してる……」
「あぁ。とりあえず、さっさと移動しよう」
木に突き立てたマーク用の短剣を引き抜くと鞄にしまって歩き出す。
「島から、出れたんだね……」
見ると、サティシヤの目から涙が零れていた。余程嬉しかったんだと思う。
「さぁ、ここから3日間歩くからな?」
彼女は返事をする代わりに、繋ぎっぱなしの手をギュっと握って来た。
町へ向けて30分くらい歩いたら道の先に橋が見えた。荷車が通れる程度の粗末な橋だ。重さで崩れることはないだろうけど、洪水が起きたら崩れ落ちてしまいそうだ。
そんなことを一瞬思ったが、橋のところに立っていた人が近づいてきた。こちらに手を振っていて、誰に振っているのかと思わず後ろを振り返る。
「サクリ、無視すんな!」
「え? なんでクレンが?!」
「いやいや、サクリこそ、何でこの子連れているのさ?」
「……まぁ、色々あってね」
彼の視線が俺の手に注がれていることに気づいて、思わず手を放そうとしたが、彼女はギュっと握っている。
「ふ~ん。じゃあ、行くか?」
彼に頷くと3人並んでお互いの事情を説明しながら町へと歩き始めた。
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