アックアイル王国へ向かうため【娼妓師】が許可を得ずにした勝手な約束
「サクリさん、この度はありがとうございました」
全員を救出し、貰う物は貰い、死者を弔った後、ヴァンバードまで戻ってきた。
今回はアヤカリカを助けることが依頼なので、他に制約はない。そこで、他の方々はヴァンバードに戻るまでに帰る場所がある人はその場で離脱をオッケーにし、行き場の無い者は王都であるヴァンバードで解散することで、何らかのお金を稼ぐ機会を得る可能性があるだろう。……もちろん例外もあることは承知しているけれど、最後まで面倒を見る義理もない。
「いえ、無事に助け出せて良かったです」
アヤカリカを引き渡した後、娼館の事務所にてリリアンナと共に報酬を受け取るため、チアーキャへ内容を報告していた。
「それで、あの脱法奴隷を扱っていた組織のことなのですが、リザード族による侵略が目的でしたよ」
「それは……流石に信じられないですよ」
リリアンナの説明にチアーキャは胡散臭そうに見ている。そう思ってしまうのも想定済みなので彼女も丁寧に説明を続ける……しかし、これまでの侵略とは違う方法なだけに否定的だ。
「……そういう訳でして。年中繁殖可能な男性はヒューム族だけだそうですよ」
懇切丁寧にリザード族人口増加による移住侵略を説明したが、信じては貰えなかった。
「信じる、信じないは自由ですが、国に報告するかどうかの判断はチアーキャさんに任せます。俺達は事実として魔人族が背後に居て、他にも脱法奴隷の拠点があるなら危険だとは思います……ただ、俺達はもう別の国へ向かいますので」
リリアンナの丁寧な説明にも話半分で聞く彼女にモヤッとした俺は話を打ち切り、報酬を頂いて撤収しようとしていた。
「そうですか。……多分大丈夫だと思いますよ。兵士も沢山いますし。リザードの数が増えたとしても簡単に街は占拠されることもないでしょう」
彼女は立ち上がり、戸棚からパンパンに膨れた袋を取り出す。すると、扉がノックされた。
「来たわね。入って」
「失礼します」
入ってきたのはアヤカリカだった。彼女はこちらを見て気まずそうに頭を軽く下げる。
「さて、アヤカリカ。貴女、クビです」
「え?」
「……いやいや、仕事をせずに博打三昧でクビにならないわけがないでしょう? 借金奴隷として入ってきた貴女だったけれど、既に借金は返済済み。こちらが雇う理由も無いの。ただ、幸いにも有望な冒険者のリーダーがそこに居るの。……貴女は客商売に向かないわ。このチャンスを捨てるも掴むも判断は任せます」
そう話すとテーブルに袋を置く。
「申し訳ないけど、彼女が話をするチャンスを頂ける? 報酬に色、付けておいたから」
チアーキャさんは悪戯っぽく微笑を浮かべた。
受け取る物も受け取り、俺達……リリアンナに呼んで貰って、DTA参加者残り5人とアヤカリカからご馳走して貰うため、食事に来ていた。
「あの、これ全部を本当にわたしが?」
「……自分がした約束なんでしょ? 賭けに負けた以上逃げるのはよくないね」
クレアカリンが冷たく言い放つ。……賭けにおいて踏み倒しは悪だと言っていたんだよな……彼女。怒気を含んだ声に全く聞こえないのに怖いんだ、これが。
「それで、本人は冒険者になりたいの?」
彼女を冒険者として仲間に受け入れて欲しいと提案された話はリリアンナ経由で5人にも伝わっているはず。なので、俺がすることは本人の意思確認。
「正直、ご迷惑になると思うんだよね。わたし、【娼妓師】なんだけど、別になりたくて賜ったわけじゃない。どんな人がこの天職を賜ると思う?」
【娼妓師】とは、化粧や話術、容姿メンテナンス、ゲームなどを駆使する接客系天職だ。でも、客商売は向かないと言われていたから、それが賜る条件ではないようだ。
「何も将来の自分を想像せず、努力もせず、異性からの好意を自分の利益のために利用する真似をしていると賜るの。……そんなわたしでも、冒険者になれると思う?」
……ぶっちゃけ難しい。でも、イヴァルスフィアは努力する者に優しい世界なんだよな。
「冒険者になれないとは言えない。女神ナンス様は努力を続けられる人を見捨てないから。……だけど、この国で働くのが難しいと考えているのなら、国外で働くという手もある。生産職でもないから、素材も必要としていない。正直、命を危険に晒す必要はないと思うよ?」
他に働く手段がないから冒険者……それは流石に自殺志願と大差ない。そんな人を仲間に受け入れるのは遠慮したい。
「別に命を捨てようと思っているわけじゃない。ただ、集落の中で働くとなると必然的に多くの接客が必須になる。冒険者なら客と接する量が限られているし、性格的にも向いていると思う。戦闘経験はないけれど、しっかり学ぶ。……冒険者として鍛えて貰えないかな?」
……うーん。
「はっきり言うけど、確かに冒険者は接客量が少ない。けれど、俺達は例外だよ。ノーマル職の仲間が多いから、依頼が無い時は住民相手に商売もしている。接客は必要だ。……まぁ、固定された客相手にすることはないけれどね」
「それで構わない。身体を撫でまわされたり、女達に嫉妬されたり、不快でも長時間愛想をキープするような仕事でなければ」
覚悟が決まっていると判断し、いつもの条件をクリアしたら仲間入りを認めると約束した。
出国に向けて準備するため、コテージに帰ってきた彼女は早速行動に移す。そして……。
「……まぁ、そんなわけで。また新しい仲間が増えました」
「アヤカリカ=カプリムスです。よろしくお願いしますね」
予想通り、全員の了承を取り付けて仲間に加わった。
……はたして本人はそこまで考えているか知らんけど、結果としてトゥーベントを離れるという彼女の選択は正解だと思う。
他国に比べて多い兵士。治安の良い街や町。賭博場というお金の回収機関。金があって兵が多いなら軍事力は高まっているだろう。そして、その人口増加の役割を担っているのはリザード族。街が変化したのが10年前。それより前から作戦は実行されていたはずだから、きっとヒューム族に化けたリザード族の男が主要な職業に就いているだろう。
そしてリザード族の女はヒューム族の男の繁殖能力を利用して子供を量産し続けている。
もしも、国の運営を司る役人や、町長や村長、奴隷事務所の所長とかがリザード族で、兵士や生産職の者ばかりがヒューム族になっていたら……長い時間を使って少しずつ中身を入れかえていたら……この国のヒューム族は既にリザード族の奴隷になっているかもしれない。
もちろん、これは状況から推測した持論であり、確証もない。でも、離脱する方が多分利口だろう。……もう、このトゥーベント王国は同名なだけの別モノなのかもしれないのだから。
「船、用意してないんですか?」
アヤカリカの仲間入りが正式に決定し、アックアイル王国へ向かうことを伝えた時にアヤカリカから言われたことだった。
「まぁ、港で頼めば……」
「無理ですって。人数が多すぎますから……心当たりがあるので、少し時間を頂いても良いですか? 仲間にして貰って初仕事するまでの間はお金がないので、食費代わりに何とかします」
「お、おぅ……言われてみると確かにそうなのか?」
まぁ、コテージに人が収まらない44人になった時点で考えておくべきだった。
夕飯前にアヤカリカはコテージを出て行って、夕飯が終わる頃に戻ってきた。船の手配をしたけれど、間に合うか微妙なところらしい。
……まぁ、最悪1日延ばすくらいしても良いし、アックアイル王国へ向かう船さえあれば、何とでもなる。
明日に備えて早めに寝て、目が覚める。そこにはユカルナ達に拘束された見慣れぬ少女が座っていた。縄とかで縛られているわけではないから、振り払う事も可能だろうけど、おとなしく座っていた。だが、俺が目覚めたことに気づくと俺の傍に寄ってきた。
「おはようございます、主人」
「もしかして、ホーコリン?」
「そうです、愛しの主人♪」
……お、おう。目覚めからグイグイくるタイプのようだが、ベッドに入ってきていない事と、ちゃんと服を着ているだけでもポイントが高い。
身長は2人と同じく140センチくらい。踝まである三つ編みにされた淡い茶色の髪。それと深い茶色の瞳。そして、大きすぎる胸。何より「清楚とは?」と尋ねたくなるような露出度が高く、丈の短いココア色ベースの改造修道服姿で何のキャラがモデルか直ぐに理解した。
「“重撃の茶輪”改め、“空轟の茶錘”ホーコリンでっす! 貴方に愛されるために生まれてきました。今この時から死が2人を別つ時まで末永く妻のようにご愛用下さいませ♪」
……武器は妻じゃないんだよなぁ。
朝から賑やかで愛嬌たっぷりな彼女に対し、ユカルナが彼女の頭にチョップした。
「朝から煩くすると怒られてしまいますよ。……それに主人も褒めて下さい。ベッドに入ろうとする彼女を2人で止めていたんですから」
「2人ともありがとう。おかげでぐっすり眠れたよ」
出て行けと言っても、目が覚めた時は絶対いるので諦めてはいるものの、これで3人。今後も増える可能性を考えると……部屋が手狭になる日も近いかもしれない。
船に乗るためにヴィエトゥールへ久しぶりに来た。相変わらず冒険者にとっては居心地の悪い治安の良すぎる街である。……治安が良すぎる事は悪いことではない。ただ、本来の姿ではないことを知っているからこその違和感である。
街を通り過ぎて港へ入る。
「本当に船が無い」
「……でしょ?」
アヤカリカは「言わんこっちゃない」と得意気に話す。
「……船、約束通りにちゃんと用意しましたよ」
そう言って現れたのはハルクアルマ。彼女は大きな荷物を持っていた。
「アックアイル王国へ帰る貨物船の船長に話をつけました。片道のみで寝る場所は倉庫に雑魚寝となるけど、それでも良ければ40人でも50人でも構わないと。料金も格安にしてくれるそうですが、詳しい話は皆さんでお願いします。……それで約束の件ですけど……」
「約束?」
「アックアイル王国行きの船を用意できたら仲間に入れてくれると聞きました」
直ぐにアヤカリカを見ると彼女は判り易くそっぽを向いて口笛を吹いている。
「……はぁ。仕方ない、少し待って。……みんな、ハルクアルマさんは仲間入りを条件に船の用意をしてくれたそうだ。俺は問題ないと思うんだが、仲間入り反対の者はいる?」
当然ながら反対する者は居なかったので、こんなギリギリで推しは仲間に加わった。
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