脱法奴隷雇用主のハイリザードと魔人族アンズー
戦闘要員の殲滅は完了した。しかし、奥へ向かう俺達をレイアーナが大声で制止した。
「待ってください。慌てなくても囚われた人達は動いていません」
レイアーナの大きな声もレアではあるが、確かに慌てる必要が無いなら準備を整えるべきだろう。
「〈ハイアナライズ〉の結果では、奥にある一番大きな建物に大勢入っていて出てきません」
「……それなんですけど、奴隷契約から解放された方の話では、その奥の建物の中に男性は囚われているそうです。そこにはリザード族の女性もいて、奴隷契約の主として命令権を持っているのもリザード族の女性だそうです」
ユイディアもレイアーナの後を追ってきた。
……あれ?
「ねぇ、ユイディア。それを誰から聞いたの?」
「囚われていた女性が指示されていたそうです。男性をそこに連れて行く役目と中には絶対入らないようにと。ヒューム族にとって死にはしない毒の香を焚いていて、ヒューム族の女性をこっちに連れてくるなって怒られている人も見たそうです」
……うーん。一瞬罠かと思ったけど……でも、だとすると……。
「あの建物に突撃したら毒でどうにかなると仮定して……どうすれば良い?」
「換気で良いんじゃない?」
そう言ったのは、トモリルだった。
「ヒューム族じゃない者なら問題ないんでしょ? リザードが出入りしてるくらいだし。なら、あたしが突入するよ」
「わたしも行きます」
ワカナディアも聞いていたようで、突入を志願する。
少々不安ではあるものの、俺は念のための手順をみんなへ共有した。
トモリルが建物の中に突っ込む。ワカナディアも遅れて入って建物手前側の窓を開けて行く。
「《衝球の放擲》」
アッツミュが威力最弱に調整した風属性範囲攻撃魔法を放つ。……威力最弱はどの程度かというと、風の壁がぶつかって来る程度。正直息は一瞬詰まるかもしれないがダメージは無い。副効果のノックバックも抵抗できる程度の威力だ。……ただ、それは意思あるものの話。建物の中に籠っていた香の煙を排出する分には充分な威力だろう。
「行くよ!」
建物の中に入るユニットは機動性の高い小振りな武器をメインで使う者のみ……の予定だったが、クレアカリンとユキサーラ以外が引き返してきた。
「……ごめん。ここはサクリさんに任せる」
「ちょっと、目に毒過ぎて入りたくない」
中に入って事情を理解した。……男性が全裸で囚われていた。首と両手両足を拘束され、床に仰向けで張り付けられて身動きとれない状態になっていたが、そんな中で異種族の2人には突入させた上に、盗賊系天職の2人も合流し積極的にリザード族を倒していく。
「サクリさん、申し訳ないけど、男性の方々の解放をお願いします」
「お、おぅ」
……一瞬何が行われていたのかを考えてみたが、直ぐに推測できてしまった。
この世界の常識として、生まれてくる子供の種族は母体に準ずる。所謂『ハーフ何某』的な種族は存在しない。つまり言葉を濁して言うと、ここはリザード族の生産工場というわけだ。
これまでの事を考えれば、もしかしたら増えた分のリザード族は変身ベルトを使ってヒューム族に紛れて集落に潜伏しているのかもしれない。
「大丈夫……では無いか……解毒が必要だな……媚薬の類だとは思うけど」
とりあえず枷の錠を解除するための鍵を探し始めた。
「4人とも危険で不快な役目を引き受けてくれてありがとう」
「いえ、助けられてよかったです」
どうやら全くの無害だったわけではなく、効きが弱いだけだったようだ。4人にも解毒をして貰うように促す。しかし、まだ目的のアヤカリカを保護できていないことに気づく。
「レイアーナ、残りは?」
「……奥からこちらに数名来ています。リザード族の女性、レベルは全員クラウンです」
どうやら、精鋭のお出まし?
「後衛は被害者を連れて下がって。前衛はリザードマン……いや、女性だからリザードレディというべきか? とにかく、迎え撃つ準備を!」
【重戦士】であるカオリアリーゼは大盾を構えて前進していく。先程はヒカルピナの盾のおかげで無傷だったため、今度は彼女に頑張って貰うつもりだ。
「……来ます!」
姿が見えたかと思うと、数名が止まって魔法を放つ。
「メア、ワカチ」
指示を出すと心得ているとばかりに術者を射抜く。ただ、やはり一撃必殺というわけにはいかないようだ。
「《衝矢の行射》!」
矢というより、空気の弾丸のようなそれは、リザードの術者に当てて吹き飛ばす。風属性魔法の副効果のノックバックだ。
レベルクラウンだから楽勝とは言えないものの、負ける相手では無い。遠隔攻撃で術者を潰し、アミュアルナやヨークォットが前衛を殲滅していく。このまま安全にリザード族を制圧完了する……そう思っていた。
……あれ?
「レイアーナ、ハルクアルマさんは何処?」
「え? 少々お待ちください……サクリさん、奥です。奥でハイリザードと戦っています」
……ただ、当然ながら『竜騎幻想』にこんなクエストは存在せず、今後の展開や判り易い勝利条件も判らない。
「何で?!」
「わかりません!」
「具体的にどっち?!」
「あっちです」
レイアーナは先程からリザードが向かってくるルートの先を指す。
「レイアーナ、ここの指示を任せて良い?」
「はい、大丈夫です」
……飛ばなきゃか……。
『竜騎幻想』にはZOCという概念が存在する。簡単に説明すると敵ユニットと隣接する4マスは通り抜けられないという仕様だ。まぁ、これはゲームの仕様の話なのだが理に適っていて、実質現実でも通り抜けは不可能である。戦闘訓練の際にも後ろに抜かれないように指導されるしね。……だからそこ、こちらも抜かれない代わりに、あちらも通り抜けられない。
気は進まないものの背に腹かえられず、俺は自身の大剣に乗ってスキルで屋根の上まで上がったことで戦場が屋根の上だと気づく。
少し距離が離れていて声は届かない距離ではあるものの、戦況は見えていた。ハルクアルマは既に弓を折られていて、短剣で交戦しているものの……って見ている場合じゃない?!
……〈テレポート〉!
ギィン!!
「えっ?!」
敵の爪による攻撃を間一髪大剣で受け止めるのに間に合った。
「貴様、何処から?!」
間一髪で2人の間に割り込んでトドメを刺される寸前のハルクアルマを救う。
「それを確認してどうする? 現実は何も変わらない」
ハイリザードの女は攻撃を受け止められたことで後ろに下がり距離を取る。
鱗が黒色のハイリザード。ならば……俺は許可を得た後に呼び出す。
「来てくれ、ルーチェ! 《光精の刺角》」
極太のレーザーがリザードを貫いて瞬殺した後、ルーチェは俺の胸に飛び込んできた。しかし、再会の雰囲気は一瞬でぶち壊される。
「お久しぶりです、サクリ様。沢山休ませて頂きありがとうございました……もう、感動の再会なのに無粋な……《満月の盾》!」
ルーチェのアドリブによる魔法の盾で何らかの攻撃が弾かれる。目視出来ないので風属性の魔法のようだが、そうとも限らない。
「サクリ様、上です」
上空に飛ぶ魔人族がいた。ライオンの頭、人の胴、鷲の翼と足。全身藍色のソレはかなり高いところからこちらを睨みつけていた。
コツン、と足に硬い何かが当たる。屋根の上という足場の悪い場所なのに動かなかった。
[攻撃してください]
ソレを手にとると頭の中にメッセージが流れる。……まぁ、想定してはいた。
俺はソレ……ホーコリンを構え、円盤投げの要領で投げつける。全力で放ったソレは、吸い込まれるように魔人族にヒットし、一撃で絶命させる。
[ユニット名:サクリウス=サイファリオの全ての情報を獲得しました。これよりホーコリンの最適化を開始いたします]
まるでお約束と言わんばかりにホーコリンは溶けるように消えてしまった。
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