非人道的な犯罪組織とその正体
ウインドノルドに到着。最初に来た時は、ここが本当にウインドノルドかと疑ったものだけど、二度目だと流石に最初の時のような衝撃は無かった。
あまりにも町の中に入り難い雰囲気にどうしたものかと思っていると、見覚えのある人が近づいてきた。
「あの、“サクリウスファミリア”の方ですか?」
「はい、そうです」
彼女であれば、絶対女子に声を掛けそうなのだが、何故か俺に話しかけてきた。
「女帝……じゃない、チアーキャ様から案内を申し付けられたハルクアルマです。問題無ければ今から出発しますが、必要なものがあれば買い物のための時間をとります。如何しますか?」
「大丈夫。少し馬を休ませたいところではあるけど、今すぐ休憩が必要というほどでは無いですね。……行きましょうか」
彼女は頷くと町を迂回するように南側から北へ向かう。
「済みません。町中を冒険者が通り抜けると目立ってしまいますので、迂回して北側に出ます」
「目立つとまずいんですか?」
「はい。仲間が町中に居る可能性がありますので」
……なるほど。それにしても彼女の雰囲気が違い過ぎね?
容姿はポニーテールにしているだけで変わっていない。ポニテなのも仕事中だからだろう。ただ、初対面の彼女の印象って自意識過剰で我儘なクソ女ってイメージだったのに、何処か怯えて自信無さげ。不安過ぎて視線が安定せず周囲を常時意識しているような、そんな小動物のような印象だった。
「あのぉ」
「な、なんですか?」
ビクッと反応する。……やっぱり何かあったのか?
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
「何なら、俺でなくても……女性相手の方が気は楽ですかね? 誰かと変わりますか?」
そう言って誰かと話し相手を交代しようとすると服を掴まれた。
「いえ、貴方が良いです。傍に居て下さい」
……何で?
少なくとも俺の知るハルクアルマはそんな事を言うような人では無かった。
ウインドノルドから1週間の道程。北の町とはいっても、国境まではそれなりに遠い。
気になったのがハルクアルマの行動で、1週間もあれば俺の知る彼女の性格であれば女子達と会話しトラブルが発生しても仕方ない……そんな期間なのだが、彼女は俺の隣にいて会話をしない。最初は仕事だからと割り切っていたのかもしれないと思っていた。しかし、良くも悪くも関わらない姿勢を貫く彼女を不思議に思い、ついに聞いてみることにした。
「あの、何かありましたか?」
「え?」
「いや、何か怯えているような印象があって」
「あっ……ごめんなさい。貴方達が悪いわけではないんです」
彼女は何か考えていたのか数秒の沈黙の後に話し始める。
「わたし、元々は借金から娼館で働くことになったのですが、仕事ができなくて……辞めたくても借金返済するまでは辞められなくて……仕事ができないから返済は滞って……人と接することに疲れてしまっていて……ですから、こういった荒事に対し、積極的に動いているんです。この仕事も無事に成し遂げられたら借金が帳消しになるんです」
……だいたい理解した。
娼館は男相手の仕事。借金奴隷ということは職業や仕事内容の選択の自由が存在しないということ。このハルクアルマもゲーム内と一緒だとは限らないが、思春期に入って男を馬鹿にするようになって、それが普通だった彼女はそんな男に接待しなければならない仕事が精神的にきつかったのかもしれない。……もっと露骨な理由かもしれないけど。
客の男には仕事が出来ないことで冷たく扱われたり、罵倒されたりすることもあるかもしれない。そして、仕事ができないということは職場での仲間にも馬鹿にされているかもしれない。
もちろん推測だ。でも、男性相手の方がマシで、女性に恐怖する理由を考えると、職場環境から人間関係において地獄を見たということだろう。
「この仕事を無事に終えたら、借金奴隷が解消になるけれど、その後は?」
「……判らないんですよね。ただ、地元に帰るのは無理で……あっ、この辺で今日は野営にした方が良いです。もうすぐ目的地です」
「わかった。……リンクルム、止まって」
御者台の方に声を掛けると馬車がゆっくりと止まる。
「この辺で野営に向いている場所は?」
「……探してきます。ここでお待ちください」
彼女はそう言うと馬車を降りて先に向かう。
「ねぇ、サクリ。20人分の報酬というからには20人で向かうの?」
ヨークォットが尋ねる。
「いや、ノーマル職以外の全員だ。多分、敵の装備や財産を売却等すれば不足分の報酬代にはなると思う。金が無いから力を出し惜しみして仲間が傷ついたら本末転倒だからな」
「そっか、了解」
……今の内にレア職はガンガンレベルを上げて貰う必要があるしね。
翌日。こっそり偵察に行ったのだが、確かに国境を越えたはずなのに村だった。
「……村だねぇ」
「ですねぇ」
クレアカリンにトモリルが相槌を打つ。
「これは多分、近くに泉があるので、本当にニクシス族の里かもしれないですね」
「結構国境から近いけれど、本当に?」
「……多分ですけどね。ニクシスってキレイな川や泉の近くに里を作るので」
トモリルが自信無さそうに言うけれど、多分合ってる。根拠は違法奴隷として捕まっていたニクシスの子供が自力で帰れる距離に集落があるということ。……ここではないけれど、元住民は近くに住んでいるのではないかと推測はできる。
「どう制圧する?」
「ぶっちゃけ正面から制圧しても力負けはしないと思うけれど……」
違和感がある。いや、力尽くによる制圧は可能だろう。脱法奴隷の人達が人質に使われなければだけど、使われたとしても手はある。……でも、何だろう?
「何か変じゃね?」
ユキサーラの問いに答えつつも、逆に質問を投げかける。
「変?」
「ん~?」
「……あれ? 男性少なくない?」
ユキサーラとトモリルは気付かなかったが、クレアカリンだけが気付き、俺も言われて気付く。
「それだ。何でだ? 男は拉致られていないとか?」
「いえ、そんなことは……」
ハルクアルマも気付いていなかったようだ。
まぁ、性別で職業を選ぶ文化が無い故に気付かなかったのかもしれない。ただ、俺の目には畑仕事をして働いている奴隷と思われる人間は女性だけで、見張っているのは男。天職が関係しない場合、肉体労働をさせるなら筋力のある男性の方が労働効率は良いはずなんだ。もちろん、全員が【農耕師】である可能性もあるんだけど。
「……奴隷として働かされている男性は何処だ?」
もしかして、農作業が軽労働に分類される程の重労働をさせられているのか?
とりあえず、悩んでいても仕方ない。
全員に強化魔法を掛けた後、例によってカオリアリーゼに先へ行って貰う。移動時間の差のためだ。ただ、今回はヒカルピナにもカオリアリーゼの歩調に合わせて一緒に一緒に行って貰う。これも人質問題の対応策の1つである。
「止まれ! 貴様等、何者だ?!」
見張っていた男2人がカオリアリーゼに気付き、声を掛けてくるが、何も答えずに盾を正面に構え、剣を抜いて歩き続ける。
「おい」
「あぁ」
2人の内、指示された側が具体的な事を聞かずに奥へと走っていく。残った方はカオリアリーゼ達に近づく。
「止まれ。これは警告だ」
無視して進むと槍を構えて刃先を付きつけようとして弾かれた。ヒカルピナのスキル〈シールドビット〉……彼女の意思で動く分割された盾……によって。
カオリアリーゼ達は歩みを止めること無く奥へと進み続け、直ぐに奥へ行った男が女を連れてくると、その女が農作業をしていた女達に指示を出し、武器を手に取ってカオリアリーゼ達目掛けて攻撃を仕掛け始める。……全部弾いているけど。
ヒカルピナのスキル〈トライウォール〉。シールドのパーツ3つで作る三角形の中に光の壁を作り、攻撃を弾くスキル。歩く要塞と化した2人には一切の攻撃が通じない。……自分達も攻撃できないというのは内緒の話だが。
「だいぶ集まったね。そろそろ……」
「……《薬球の放擲》!」
「《木精の叩尾》!」
アッツミュの呪文詠唱完了とタイミングを合わせ、カナディアラと同時に木属性範囲魔法を放つ。2人に群がっていた人達が被弾し、全員副効果の影響を受け、その場で眠気に抗えず、膝から崩れ倒れる。
……まぁ、強制されて命令で攻撃してきているなら、寝かして無効化が一番有効だろう。
女性陣は、魔法にあっけなく眠ってしまった。
『スリープ・グレネード』は、抵抗に失敗すると眠ってしまうという無傷で確保したい時とかに有効で、他にも一部を除くアンデッドにもダメージを与えられる木属性範囲回復魔法だ。
契約に縛られ、渋々従っていた者であれば、わざと抵抗せずに眠ることを選ぶだろう。
「次、来ます」
レイアーナの警告。
無力化された女性達を見て、見張っていた者も含む男性達がリザードマンの姿に変わる。……あー、多分変身ベルトだわ。魔法を解除したに違いない。
「アタッカーはリザードマン排除。サキチは契約を解除して。後衛は契約解除した女性陣の保護に動いて」
そう指示すると、俺もリザードマンに接敵して斬りかかる。リザードマンも手応え的にレベル5くらいで反撃による殲滅も可能な状態なので、一撃で倒すのは無理だとしても、かなりの速度で倒していく。
「サクリさん、報告です」
「ちょ、こんな前に出てきたら危ない」
後ろから支援する役目のレイアーナが前に出てきた。レベル差的にも即死することはないだろうけど、うっかり攻撃対象になったら割と致命傷になってしまう。
「解ってます。ですから、報告だけ。男性達はどうやら奥の建物に閉じ込められているようです。それと、襲ってくるリザードマンも契約魔法で縛られています」
「え? マジ??」
彼女は縦に頷くと後方へと戻って行った。
「……思ったより、リザードマンって弱くないですか?」
最初は俺の思い込み……主に前世の記憶によるイメージでリザードマンって強そうなイメージではあったが、レベルが低いとはいえ弱すぎる。
両手鎌を大きく振りリザードマンを薙ぎ払いながら、近くに来たサティシヤが俺に尋ねる。多分、罠じゃないのかと心配しているのだろう。
「それ、ここが沼地じゃないからだよ。ヒューム族以外は地形による恩恵が大きくて、リザードマンは沼地だと圧倒的に強いんだけど、ここでは実力が発揮できないんだよ」
そう答えたのはトモリルだった。
「逆に心配するとしたら、時間稼ぎされて囚われた人達が何処かへ運ばれることだと思うよ?」
……それだ! 近くのリザードマンの殲滅を確認した俺達は急いで奥へと突撃した。
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