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娼館の女帝からの依頼

 『風霊王の古祠』からエステヴァトルに戻る最中、サオリスローゼから予想通りの行動にでられた。


「あの、サクリウスさん。改めて仲間に入れて頂けないでしょうか?」


 実は『風霊王の古祠』内でも一度言われている。けれど、その返事は後回しにさせて貰った。時の流れが違うということもあり、早々に戻った方が良いと妖精女王に言われ、外へ送って貰ったことで話が霧散したという経緯がある。……まぁ、本人も言い出すタイミングが悪い事は自覚していたので、怒る事なく再度お願いしてくれたわけで。


「判断材料として、何故か聞いて良い?」


 推しの1人からそう言われて、本来嬉しくないわけがない。けれど、予知で知っていたこととその申し出も多分女神か上位精霊達による介入の結果なのだと理解していたので、嬉しさ半分、「どうせ、仲間になるんでしょ」的な思考が半分といった感じだった。


 だから俺のささやかな抵抗として、どういった経緯で仲間になりたいと思ったのか、聞こうと思った。


「大前提として、サクリウスさんに命を救って頂いたので、微力ながら力になりたいと思いました。もちろん、それだけではなく、わたしは風の中位精霊のセイレーンと契約をしました。皆さんの中に同じように精霊と契約された方がいると聞いています。しかも、同じ目的だとも。わたしもご一緒したいのです」


 ……まぁ、同じ目的なのだから一緒した方が良い。真っ当な理由だとも思う。


「以上が主な理由ですが、そうでないこともありまして」


「うん?」


「ここから先は私事で恥じるべきことなのですが、わたしは王妃様の命令で『邪竜討伐軍』に加わりました。表向きは邪竜王の討伐に協力するという名分なのですが、王妃の血を継いでいない自分が邪魔な存在なのだと思います。その証拠に義兄への要請を王妃は却下しています。その代わりにわたしという事になったのです」


 ……確かに聞く限りではムッチミラなら女より男の仲間を欲しがるか。でも、そもそも王様も王妃も『竜騎幻想』内の設定とは違う人物なんだよな。


「『邪竜討伐軍』に入れて頂きましたが、わたしの天職は【風水士】。しかも王女という立場で扱いに困っているような雰囲気がありました。そこで積極的に力を示して打ち解けようと思ったのですが、結果は勇んだものの返り討ちな上に置いて行かれてしまったというわけです」


 流石にこの事情を聞いて、チーム内で反対する者は1人も居なかった。




「ご存知だとは思いますが、わたしは元々王女ではなく平民だったんですよ」


 仲間には本来の王女、リンクルムがいることをサオリスローゼは確認していた。だから、当然経緯は話していると判断していたようだ。


「どうして、平民が王女に?」


 そう尋ねたのはヒカルピナだった。


「今から確か10年くらい前の話だと思うのですが、ヴァンバードの街が変わったんですよ。最初に変わったのは街に大規模な賭博場ができたことでした」


 実は何処の街や町にも小さな賭博場は存在している。けれど、それは至って小規模なもので一般人は近づかない所謂「小悪党の溜まり場」的な場所だった。


「そこは雰囲気が良く、ガラの悪い連中からも敗北時は容赦なくお金を巻き上げたため、そういった連中は一掃されました。安全に楽しめるということで平民の間でも流行したんですよ」


 ……まぁね。賭博場の目的を考えれば金の無いガラの悪い連中より平民の方が来て欲しいだろうよ。


「わたしの父……現国王もその1人で、当時は名ばかりの画家で絵も描かずに酒浸りの毎日でしたが、賭博場なら楽に酒代が稼げるかもしれない……そんな甘い考えで賭博場に行ったんですよ。……そしたら、豪運にも大金を手にすることになったんです」


「お~、夢があるね」


「夢なら覚めてくれれば良かったんですけどね。……多分、賭博場が開催されて直ぐだったからだとも思うのですが、連勝を重ねて運営側が払えない額を勝ってしまったんです。そこで、運営責任者である王妃が、父に国王の座をあげるので金を諦めてほしいと」


 ……無茶な。そう考えると、俺が勝った時はあっさり全額貰えたので、10年間でかなりの財を蓄えられたのだろうと推測ができた。


「そんな嘘のような理由で父は国王になったのです」


「……何て言うか、無茶苦茶というか非常識というか、よく誰も文句言わなかったね」


「そうですね。父が殺されなかっただけでも不思議と思っています」


 国王になるべく教育されたわけでもなく、国政に関して学んでいた者でもなく、国王の器でもない者が国王になる。反対する者を黙らせる程の力が今の王妃にはあるということか。


「そんな、物騒な……」


「王城とは物騒な場所ですよ。わたしは普通の暮らしで満足していました。そして父の国王という肩書は相応しくないと心から思っています。ですので、王女になるのは苦労しました」


 一瞬、王女を辞退すれば……なんて事が脳裏を過ったが、大陸にあるどの国であっても親は子を育てる義務があり、やって当たり前、やらなければ犯罪というくらいに厳しく法律で取り締まっている。その法律は当然王族でも関係なく……故に彼女に選択権は最初から無い。


「……頑張って王女としての常識や礼儀作法を身に付けようとしたのに、結果として邪魔者扱い。身の程を思い知ったって感じです」


「そう? ガルーダからの話と今の会話だけでの判断になるけれど、立派な姫だと思うよ」


 強制されてやっているなら、尚更……自身の命を賭けるなんてできないと思うんだよな。




 エステヴァトルに戻って、直ぐにアックアイル王国へ移動するために準備を始める。もちろん、サオリスローゼのレベル上げを兼ねてのことだった。


 冒険者の店“駆け抜ける爽風”亭の親父がコテージを訪れたのは戻ってきて3日後のこと。


「サクリウス君、いるかい?」


「こんちは! どうしました?」


 確実にいるだろう夕飯時を狙い、コテージに来てくれた。……そっちも忙しいだろうに、親父さん自らが来たのには理由があるのだろう。


「ご指名の依頼が来たんだよ」


「……良い依頼だったら良いんだけど……」


「良いか悪いかは判らないが、依頼主は大物だから粗相のないようにした方が良いな」


「大物?」


 ……少々目立ち過ぎたかもしれない。ファッションショー、違法奴隷の解放、DTAの勝利。どれも目立つ功績になるだろう。仕事を依頼する際、参考にすると思うんだよな。……冒険者なんて有名になればなるほど死に近づくだけ。派手なことをするなら国を移動することもセットで考えなければ。……受けないという選択は難しいからね。結果論になることが多いし。


「個室、あるかい?」


「2階にどうぞ」


 夕飯時故に客もいる。応接室など用意できるほど広くも無い。よって、結局私室に案内せざるをえなかった。


「椅子、どうぞ」


「どうも。私室かい?」


「そうです。それで?」


「あぁ。依頼主はヴァンバードで唯一の娼館を営むチアーキャ=メルヒューム。彼女はヴァンバードにある接待業界の女帝と呼ばれる存在で、国内ならあらゆる分野に顔がきく機嫌を損ねてはならない人物の1人だよ」


「そんなにですか? ……それで依頼内容は?」


「依頼内容は国外に捉えられた仲間の救出ということだけど、詳しくは直接会って話すということらしい。彼女は立場の弱い人物の味方だから、恨みを買いたくなければ怒らせないように」


「……面倒だから断りたい……って、断っても角が立ちそうですね」


 実際は断っても問題ないかもしれない。それでも親父さんの顔を立てて受けることにした。




 当分来ないだろうと思っていたヴァンバードに戻り、余計な場所に向かう事無く、俺とリリアンナの2人で娼館へと向かう。街に1つしかないので、聞けば直ぐに場所は判る。


 今回に限っては男の俺が1人で向かおうかと聞いてみたが、逆に俺を1人にさせられないと言われてしまった……解せぬ。


「初めまして。わたしは冒険者チーム“サクリウスファミリア”交渉担当のリリアンナ。そして、彼がリーダーのサクリウスです」


「初めまして」


 ……俺1人じゃなくて良かったかもしれない。


「こちらこそ初めまして。わたしはチアーキャ=メルヒューム。来て頂けたということは受けて下さると考えて良いのかしら?」


 見た目は30手前。桜色の瞳に高く結い上げられた紫色の髪。大きく開けられた胸元から露出された大きすぎる胸にどうしても視線が吸い寄せられる。タイトなスカートにはスリットが入っていて、傷一つない生足を太腿まで見せている。


 声色は優しく、穏やかで……普通にエロくて思春期男児キラーだと思う。


「受けようと思って来ました。最終的な判断をするためにも、まずは詳しい話を教えて下さい」


「詳細を話す前に確認したいのだけど、2人は脱法奴隷をご存知? 違法奴隷との違いは?」


 ……まぁ、違法と脱法。法律的に犯罪か無罪か。でも、聞きたいのはそういった話ではないよな。


「もちろん存じています。違法奴隷は当然法を犯しています。ですが、国外で行えば法律は存在していません。もちろん、例外も存在しますが……平民にとって国外に出るということは、国の保護下からの離脱を指しますので」


「そう。原則、王族の者でなければ国は干渉して来ない。国内の者が主犯で奴隷が外国人であっても。一部、商人の中でも金持ちであれば別かもしれないけれど」


 彼女はそこで言葉を区切り、改めて俺の方に視線を向ける。


「今回依頼したいのは、わたしと契約している借金奴隷。彼女が攫われて脱法奴隷として強制労働されている。その彼女を救い出して欲しいの」


 ……なるほどね。脱法……既に契約されている奴隷の横取りも違法ということか。




「具体的にどんな状況なのかをご存知なのでしょうか?」


「もちろん。王都の北西。国境を越えて直ぐの場所。そこに小さな村のような場所があります。当然ながら国の外に村は存在しない。噂ではニクシス族の里だった場所とも聞いています。そこをリフォームして、男性を家畜にし、女性に家畜の世話や食料の生産、自分達の世話や来客時の接待までさせているという話です」


 具体的な場所まで判っているのか。


「じゃあ、その脱法奴隷を扱う側の正体も?」


「そこまでは……ただ、奴隷商だと噂はあります。ただ、国内の客には販売せず、国外にのみの販売をしていると」


 ……それ、ただの人身売買。


「それで報酬はどのくらいの規模を考えていますか?」


「総額で20万ナンスを用意しています。前金2万。残りは成功報酬とします」


 ノーマル職を除く全員を出撃させるには足りない額。だが、一般的に考えて20万ナンスは高額だ。ブロンズ級冒険者を雇うと考えて20人を動員できる額なのだから。……多少はまけても良い……いや、人数が増えれば増える程、報酬が払えない問題が出てくるのだから、強欲は危険。


 俺はリリアンナに向けて頷く。


「確かに依頼を承りました。それで、救出保護をする対象の名前と特徴を教えて下さい」


「名はアヤカリカ=カプリムス。淡いピンク色の瞳に青い髪。年齢は19歳。背は163センチと高いので判り易いと思います」


 ……姿が見えないと思っていたが、お前、拉致られていたのかよ……。




 唐突な知人の名に動揺してしまったのが、どうもチアーキャさんに見抜かれたようで。


「もしかして、既に面識が?」


「はい、賭博場でちょっと……あの、彼女は借金奴隷だったのですか?」


「えぇ、そうです」


「その割には着ている服とかアクセサリーとか豪華だったような……」


「この職場にいる者は男女問わず、着飾らないと仕事にならないのですよ」


 ……まぁ、そうか。確かにドラマなんかで見たキャバ嬢やホステスって、派手ではあった。所詮学生だった俺には解らないけど、金持ちの男はそういうのが好みなんだろう。


「……ウインドノルドに案内を用意しています。よろしくお願いします」


 果たされなかった約束を守らせるためにも、俺達は今日の内にヴァンバードから出発した。

読んで頂きありがとうございました。

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何卒よろしくお願いします。

尚、5日間連続投稿5日目+本日中にあと4回投稿します!

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