つまり、魔王が私の帽子を飛ばしたから、魔王は滅んだのだ
魔王が空から舞い降りてきて、人間を滅ぼすと宣言した。
それはともかく、魔王が巻き起こした風は、お母様と庭を散策をしていた私の帽子も吹き飛ばしたのだ。
帽子は少し汚れてしまった。
「まあ」
とお母様は顔を顰めた。
「それは私がプレゼントした帽子でしょう?大事にしないのね。いつもそうだわ」
「そんな!風のせいです」
「ふん。言い訳は嫌いだわ。では、そうね。今から屋敷を出て三つ良い事をしていらっしゃい。少しは良い娘になれるかもしれないわ」
お母様は、いつもこんな調子で、私の言うことなど聞いてくれないのだ。
腹を立てながら屋敷を出た。
泣いていた子供を見つけ親を探してやり、野良猫にも餌をやった。
これで良い事を二つした。
「さあ、あと一つ」
その時、ボロボロの騎士が目の前で倒れ「助けてくれ」と言ったのだ。
これで三つだ。
「何をすればいいの?」
「魔王との賭けに勝ってくれ」
面倒な事を。
賭け好きの魔王は、美しい男の姿をしていた。
騎士達が倒れた真ん中で、黄金の椅子に座り、退屈そうに私を眺めていた。
「おまえで最後か」と魔王は言った。
「違うわ。あなたで最後なのよ」
「意味が分からんが、まあいい。一人につき勝負は三回だ。まず最初の勝負だ。そのサイコロを振れ。六が出たらおまえの勝ちで」
「六が出たわ」
「何?もう振ったのか!?確かに」
「次は何?」
「ふん。運の良い奴め」
「次は?」
「つ、次は、おまえの魔法のうち、一番手放したくないものを選べ」
「選んだわ」
「ではその魔法を吹き飛ばしてやる。まだ立っていられれば、おまえの勝ちだ」
「なんですって?」
「吹き飛べ」
ひどい衝撃と共に、私の一番大切な魔法が消滅した。
そんな!まさか!
もう使えない!
「ふふふ。では最後だ。私に最大魔法を放ってみろ。私が滅びれば人間の勝ち。私が勝てば人間は滅び」
私は怒りと共に、魔王の心臓に魔法を叩き込んだ。
「神聖魔法、魔王封殺」
「なんだと!私を滅ぼす唯一の魔法ではないか!消した魔法が一番ではなかったのか?イカサマをしたな!」
魔王は叫びながら消滅した。
魔王を滅ぼすだけのつまらない魔法が一番のわけがない。
毎日使っていた一番大事な魔法が消えてしまった。
消音魔法だ。
お母様の愚痴を遮る手段がなくなってしまった。
どうしよう。
私は途方に暮れて空を見上げたのだ。