記憶の模倣
繁華街の外れにある自宅から歩いて10分ほどの所に、その公園はあった。
「きくはな児童遊園」と書かれた看板は茶色く煤けて、夜の暗さに馴染んでいた。
奥にはブランコがあり、その隣には滑り台があって、街灯の青白い光に照らされて、くっきりとその影を地面に落としている。
夜の公園というのは、総じて不気味なものだ。
けれどこの公園は、私にとって特別な場所だった。
私、千輝杏奈は、サッポロ黒ラベルの缶ビールを両手で包み込むようにして持ち、公園の入口横の錆びた青い手すりに寄りかかって、少し酔いの回った頭を抱えながら、夜風に揺れるブランコを見るともなく眺めていた。
視界がぼやけている。私は泣いているのだろうか。
ゆっくりと目を閉じると、隣に誰かの気配がした。
「杏奈」
私の名前を呼ぶその声には、聞き覚えがあった。
「ありがとう」
聞きたくて堪らなかった、大好きな声。
「ごめん」
目を開けて隣を見ると、そこには誰もいなかった。
でもなぜか、懐かしい匂いがしたような気がして、彼が本当にここにいたような温度を感じることが出来て、余計に涙が溢れた。
きっと久しぶりの飲酒だったので、予定外に酔ってしまったのだろう。もともと弱い涙腺は、まったくの役立たずだ。
これから語られるのは、私がある男の子と過ごした、
忘れられない一年間の物語だ。