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あの時、一番好きだった君に。  作者: 三嶋トウカ
大学4年_夏

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第82話:手紙_2


 行く話もしていないし、とは思ったが、今日は平日だからそこまで混んでもいないだろう。混んでいたらさっさと食べて解散することにして、摩央とともにバイト先へ向かった。


「……かしこまりました。少々お待ちください」

「はい。お願いします」


 ――お店に着くと、私たちはいたって普通に席へと案内された。航河君に。


 注文を取るのも航河君で、妙に緊張してしまう。前に摩央と来たときも緊張したが、そのときとはまた違った緊張感だ。


「買い物でも行ってきたの?」

「あ、これ? うん、そうだよ」

「良い物買えた?」

「好みの物買えた!」

「良かったじゃん」


(アナタとのお出かけのときに着ていくんですけどね?)


 とは口が裂けても言えず、私はニコニコと笑っていた。


 ホールには広絵も直人もいて、私から見たら豪華メンバーだった。みんな、なにかしら反応してくれる。


「千景ちゃん来るって珍しくない?」

「そう? まーでも、確かに友だち連れては来ないかも。あんまり」

「初めまして、直人です」

「初めまして、摩央です」

「千景ちゃんの友達とはいえ、あんまり女の子と喋ってると広絵が怒るからさ。そんなに忙しくないから、ゆっくりしていってね」

「ありがと!」


 直人はそそくさと仕事へ戻っていった。


「直人君って、お店の子と付き合ってるんだったっけ?」

「そうそう。広絵ね。……あ、あの子」


 キッチンから出てきた広絵と目が合い、私は手を振った。


「……あ! 千景じゃん! どうしたの?」

「近くまで来たからご飯」

「そうなんだ! お友達? 初めまして、広絵です」

「初めまして! 摩央です」

「どうせなら男の子連れてきたら良いのに。航河の面白い反応が見れそう」

「私も思ってるから、今度連れてこよ?」

「え、めんどくさそう」

「それは言えてる。……けど、摩央ちゃんもわかってるじゃん! そう思うよね?」

「めっちゃ思う! その反応見てニヤニヤしたい」

「わかる! 広絵もニヤニヤしたいし、裏でせっついて遊びたい」

「わー、やってほしい」

「盛り上がらないで!?」

「面白そうなのにー! それじゃ、ごゆっくり!」


 広絵もまた仕事へ戻っていった。


「急でもさ、みんな来てくれると、ちょっと嬉しいね」

「ね。ここでバイトしてて良かったって思う」

「広絵ちゃんの言うこと、私もマジで同意見だよ。千景が男の子連れてきたときの、航河君の反応見たい。……っていうか、バイトの人にもこれ言われちゃうくらいなんだね、航河君」

「そうなんだよねぇ……直人とかには言われないけど、女の子には広絵以外にも言われたりするんだよね。前一緒に仕事してた佳代さんとか」

「みんな思うことは一緒なんだよ……」

「イマイチまぁ否定はできない……」


 私たちはそんな話をしながら注文した料理が届くのを待った。


「……それじゃあ、いただきまーす!」


 お腹が空いていたこともあり、私も摩央もかなりの勢いで料理を食べていく。ちゃっかりデザートとドリンクまで注文し、メインを食べたあとはゆっくりとお茶を楽しむ。


「いやー、お腹いっぱい。相変わらず美味しいね」

「そう言ってもらえると嬉しい。……作ったの私じゃないけど」

「まぁまぁそう言わずに。……って、あれ、航河君どうしたんだろう?」

「ん?」

「ホラ、あそこのテーブル。さっきから捕まってるなと思って」

「うーん?」


 私は摩央の見つめる先にチラリと目をやった。あまりマジマジと見ることはできないが、確かに航河君がテーブルに座っている女子高生となにやら話している。


「お? ナンパか?」

「航河君が? 珍しい」

「いやいや。女子高生のほうだよ。前にも声かけられたことあるんでしょ?」

「そういえば、そんな話もしたね」

「航河君、年下にモテそうだもんね。……高校生って犯罪だっけ?」

「十八歳未満って駄目じゃない? 航河君も成人してるし」

「大丈夫か心配になっちゃう」

「確かに」


 私は航河君から目を離すと、まだたくさん残っているカフェオレに口をつけた。仕事中だからだとは思うが、にこやかに話す航河君に胸が痛む。あの女子高生のグループが、航河君と直人を目で追っていたのは知っていた。直人のほうは、広絵がヤキモチを妬くからあの席には近づいていない。私の席は私がいるから特別だ。もちろん仕事中になにか言ったりはしないが、なにか言われることもあるから仕事中女性のみのグループに近寄ることは避けているのだそうだ。


(航河君狙いなのかなぁ……。積極的だよね今の女子高生って……)


 つい数年前まで自分も女子高生だったが、こんな積極性はなかった。私の思い過ごしかもしれないが、自分だったら好みの店員さんでもこんなふうに喋ることはできない。


「あとでなんだったか聞いてみたら? 気になるんでしょ?」

「それはそうだけど……鬱陶しくない? 大丈夫?」

「千景のことにはあれだけ口出してくるのに、これで鬱陶しいって言われたらどの口が言う!? って話だよ。気にせず聞きな」

「それもそうだね。……はー、モテるなぁ」

「こうやってモテてもさ、自分の好きな人に好かれなきゃ意味ないんだよね。他の人はもうモブだよモブ」

「……モテる女の言葉は重みが違う」

「やめてよもう」


 女子高生の行動力に一抹の不安を覚えながら、すべて平らげた私たちはお店をあとにした。


 ――そして、その日の夜遅く。


「摩央にはああ言っちゃったけど……ちょっとメールしてみようかな」


 私は航河君に女子高生の話をメールしてみた。いたって軽く、世間話のように努めてあっけらかんと。


『あれ? 見てた?』

「うん。見てた」

『なんか、連絡先の紙渡された』

「それふたりで会いたいってことじゃない!?」

『かもしれないけど、俺女子高生は守備範囲外。高校生はダメでしょ』

「女子高生ちゃんは辛いかもしれないけど、それが正解なのかな……」

『紙は返したんだけど、帰るときお店の外で待ってた』

「執念!!」

『もう一回渡されたけど、丁重にお断りして受け取らなかったよ。……泣いてたけど』

「……勇気出したのはそうだもんね。断られると、やっぱり辛いところもあるし」

『気になるの? 千景ちゃん』

「あー……結構目で追ってたからさ。航河君とか直人のこと。摩央が特に視界に入ってきたみたいで、なにかなって気にしてて」

『そうなんだ。目立ってたんだね』

「うん」


 私のほうが、摩央より気にしている。とは言えなかった。が、航河君からの返事にホッと胸を撫で下ろした私は、その日の夜ぐっすりと眠った。

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