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あの時、一番好きだった君に。  作者: 三嶋トウカ
大学4年_夏

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第80話:意地悪な神様_5


 ――しかし、考えていなかった。そうか。付き合えば当然のようにそういった恋人同士特有の行為もあるわけで。プラトニックとはいかないのかもしれない。なにをもってそう呼ぶかはわからないが、私のイメージするものは、精神的なものだった。


「できないなら付き合うべきじゃない」

「……わからない」

「真面目に向き合わなきゃダメだよ」

「向き合ってるよ!」

「付き合って好きになるとも限らない。祐輔を好きになる前に、別の人を好きになったらどうするの?」

「……」

「付き合ってみて、すぐにやっぱり違うってなったら? 迫られるのが苦痛になったら? 別の人に告白されたら?」

「……そのときにならなきゃわからないじゃん」


 質問の連続に、酷く責められているような気がした。


「千景ちゃんに祐輔は合わない。もっと他の人が良い」

「……え? なんでよ」

「そう思うから。とにかく、祐輔と付き合うのはやめたほうが良い。わかった? 千景ちゃんのためだよ?」

「……なんで航河君にそんなこと言われなきゃいけないの?」

「だって俺が一番千景ちゃんのこと理解してるでしょ!?」

「でも彼氏じゃないじゃん!」


 思わずずっと思っていたことを口にしてしまった。ハッと我に返り航河君を見るも、航河君は黙ってしまっている。


(私のため……って、どういうことなの? 俺が一番理解してるって、なんでそんなことが言えるの? ねぇ、航河君……)


 それ以上は、そう頭で考えるだけで、とても口にすることはできなかった。気まずい空気が流れる中、このあとはなにも喋ることなく家路へ着いた。


 見事に航河君にばれ、付き合うことを止められた私は、告白からちょうど一週間後『好きな人がいるから付き合えない』そう祐輔に告げたのだった。


「それで? 祐輔君を振ったわけ?」

「……その通りでございます……」


 今日も大学の食堂に集合する。手軽に使えてありがたい。いつものミルクティーを掻き混ぜながら目も合わせず言う私に、摩央は呆れた声を出した。


「あーあ。やっぱりね。思った通り過ぎて私は怖いよ千景」

「いや、でも、航河君の言うことも一理あるなって」

「んー。わからないこともないんだけどさ。航河君に言われてやめた感がどうしても拭えないんだよねぇ」

「う……」

「自分でもわかってるんでしょ?」

「……うん。で、でもさ。摩央はそう言うけど最終的な判断を下したのも、それでよしとしたのも、私なわけだし」

「良いんだけどさ。まぁ、航河君に告白する予定もあるし。好きな人いるからって断ってるし。祐輔君は納得してくれたの?」

「一応ね。お試しでも良いって言われたけど、好きな人にきちんと告白したいし、今付き合ったとしてもちゃんと向き合えない気がするからって言ったら、わかってくれたみたい」


 思いの外あっさりと、祐輔はその身を引いた。拍子抜けしなかったと言えば嘘になるが、それでも食い下がられるよりずっと気分は楽だった。――きっと、祐輔もわかっていたんだと思う。私の好きな人が航河君であることを。広絵にも『みんな付き合ってると思ってる』と言われたぐらいなのだから、むしろ知らないほうがおかしい。それに、摩央の言うこともよくわかるが、決断を下したのは私だ。だから、結果としては納得している。まだ航河君に告白していないし、結果はどうあれ告白しないままなのも、もうとっくに自分の中では【無し】の選択だった。


「で? 『彼氏じゃないじゃん』に対する航河君のお返事は?」

「なし! あるわけない!」

「えぇ……だんだん私がイライラしてきたよ……」

「思うところがあったのか、難しい顔して黙っちゃったけどねぇ。それよか、どうやって告白したら良いか相談に乗ってよ」

「私告白したことないからわかんない」

「私だって無いからわかんない」


 やはりここがネックになってしまう。少ない人数とはいえ告白されて付き合うことはあっても、まず『好きな人ができたから告白しよう』という考えにいたらなかった。好きな人ができても、告白したいと思えるほどの好きな人、という存在ではなかったことも理由だ。


 航河君は、間違いなく【私が今まで好きになった人】の中で【誰よりも一番好きな人】なのだ。


 困ったのは、いざ告白しようにも、その時の言葉や態度がイマイチわからないということ。『好きです』だけで良いの、『付き合ってください』と付けたほうが良いのか。でも『好きです』だけだと自分の感情の報告になってしまう。かといって『付き合ってください』まで言わなくても、実は私の中の欲望は満たされてしまう気もする。付き合ってと言って振られるよりも、好きですと言って自己満足で終わった方が、ダメージも少ない。そもそも『好きです』という言葉に『付き合ってください』が勝手に付随しているのかもしれないが。


「仕方ない、自分で考えるか……」

「結局はさ、なるようにしかならないじゃん? どんなに考えて作戦練って挑んだって、そのときの状況で大きく変わったりするんだからさ」

「……だよね。雰囲気や場所で、言いかたも変わるだろうし……」

「なに? 直接言うの?」

「そのつもり。怖いけどね。電話とか、メールより良いかなって」

「本気度は伺えるよね。メールや電話より、顔合わせたほうが誠意伝わる気もする。私はね」

「あー、でも、優柔不断なタイプだと、断るときは断り辛いかなって思うところもある」

「航河君そんなタイプ?」

「いや、そんなことないと思う。ダメなら普通に断ってくると思うよ、彼は」

「じゃあ良いんじゃない? 千景のメンタルが平気なら」

「……平気かと言われるとあれだけど。でもさぁ、こんなに好きになることってないし、ちゃんと言いたいんだよね」

「やだ、千景なんか恥ずかしいこと言ってる。私が照れちゃう」

「なんで摩央が照れるのよ。まぁ、それだけ私は真面目なんだから」


 もしこれで振られても、私に悔いはない。……いや、悔いがまったく無いわけではないが、振られたとしても、次に進むことができるだろう。


 そのときは、もうこの関係は終わる。友達以上、恋人未満の曖昧で心地良い関係が。


「千景も長い片思いだったね」

「……振られたらしばらくはまた片思いかもよ?」

「まぁ、スッパリサッパリは、ちょっと難しいかもね。仲が良過ぎた」

「そうね。仲が良過ぎたわ」


 振られても怖くないように、振られたときのことを話す。


 ――私はもうすぐ、航河君に告白するんだ。

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