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第8話:日常の一部_2


 (あ、でも。彼女いるなら、連絡先聞かないほうが良いかな……)


 今はまだないが、シフトをかわって欲しいときがあれば知っておきたい気持ちもある。それに、広絵から聞いたが、この店のメンツで遊びに行ったり食事に行ったりすることは頻繁にあるようで、私も広絵とは既に食事に行っていた。みんなで予定を立てるなら、連絡先を知っていたほうが良いに越したことはないだろう。しかし私自身、あまり異性に連絡先を聞くこと自体、なんだか慣れないでいた。


(……どうする……? 聞く……?)


「千景さん?」

「え? あ、ごめん。なんだった?」

「いや、別に。なにか考えごと?」

「あー……うん。広絵が、みんなで遊ぶこと多い、って言ってたから、連絡先交換したほうが良いのかな……ってちょっと思ってて」

「俺と?」

「うん。あ! でも! 彼女いるなら、彼女さん嫌がるかもしれないし……。無理にとは……」

「全然だよ? 美織ちゃん、そういうの全然気にしないタイプで。なんなら、俺が女の子とふたりで遊びに行っても、『行ってらっしゃい。楽しんできてね』って言っちゃうタイプ」

「……すごい信頼されてるんだ」

「……信頼なのかな。その辺、興味が無いのかも」

「付き合ってるのに?」

「そういうの、超越した関係っていうか? 俺も美織ちゃんに、行って良いよって言うし。なんなら、今日も美織ちゃん、俺の友達と出かけてる」

「すごいね!?」

「相手と場所と時間がわかってたら、お互いなにも言わないかな」

「ふーん……そういうものなんだ……」


(私の知らない世界だ……!)


 馴れ馴れしくも呼ばせていただくが、美織ちゃんと航河君に思わず感心してしまう。自分の性格的には絶対にできない芸当だろう。異性とふたりきりで出かけていたら、良いよと言えたとしても、内心気になって仕方がない。出かけてから帰ってくるまで、まったく落ち着かないだろう。


(なんか、大人だな、ふたりとも……)


 感心しているのが伝わったのか、航河君は嬉しそうに笑うと携帯をこちらに向けた。


「だから、別に連絡先交換しても問題ないよ? 毎日メールしても平気」

「……毎日メールする内容ある?」

「わかんない。けど、俺寂しがり屋だから大歓迎。広絵さんともたまにメールするし、飯行くし」

「そうなのね。……それじゃ、アドレスと番号教えて?」

「オッケー。赤外線で良い?」

「うん。準備するね」


 色違いの携帯を向け合い、連絡先を交換する。すぐに送られてきた航河君の連絡先を登録すると、そっと携帯を閉じた。


「千景さんも、今度一緒にご飯行く?」

「……ふたりで?」

「美織ちゃんにはちゃんと言うよ? 『千景さんとご飯行ってくる!』って」

「それめちゃ怖いんですけど」

「広絵さんもそうだし、今のところなにも言われてないよ? 俺だって男とご飯とか遊びに行くの許可してるんだから、なんにも言われないって」


 あっけらかんとして言ってみせる航河君が、ちょっとだけ宇宙人に見えた。


(本人たちが良いって言うなら良いんだよね? 私にはやっぱりわからないな……)


「あ、そろそろ戻った方が良いかも。戻れる?」

「ヤバい、十分あっというまだった!」

「怒られないうちに戻ろう?」

「うん」


 椅子を片付け、カーディガンを脱ぎ、ふたりでホールへと戻る。


(一回、メールしてみようかな?)


 若干の後ろめたさを感じつつ、それでも、新しく増えた連絡先に胸を躍らせた。


 十五時までのシフトにしていた私は、賄いを食べて帰ることにした。安くランチが食べられるのは本当に嬉しい。一人暮らしでいつもは自炊をしているが、やはり他人の作ったご飯が恋しくなるのだ。自分で作るのとは違う味。とくに、外食ばかりは良くないだろうが、お店の味はなかなか家では出せないものである。


「お疲れ千景さん」

「あっ、お疲れさま。航河君フルだっけ?」

「そうだよ。千景さんは、今日フルじゃないんだ」

「友達と約束してるからさ。ご飯食べに行く。居酒屋だしさ、行くのは遅いんだけれど。準備したいし、ちょっと休憩したいし」

「大学の子?」

「そうだよ。一年のころからよく一緒にいるの」

「へぇ……。会ってみたいな」

「なんで!?」

「あっ、いや、興味本位?」

「急にビックリしたよ……。『彼女欲しいから、女の子紹介して!』とかはたまにあるけどさ……。そうじゃないのは初めてだわ」

「良かったらお店連れてきて?」

「そんなに会いたいの!?」


(彼女でもない人の友達に会ってみたいとか、ちょっと変わってるよね航河君)


「友達の友達は友達、みたいな心境? だと思ってもらえれば?」

「……超フレンドリーじゃん」

「航河さんね、友達多いタイプ」

「羨ましいよ」

「まっ、冗談だけど。美味しいご飯は食べられるから、連れてきたら意外と喜ばれるかもよ?」

「あー、それはそうかも。聞いてみようかな」

「その時は、俺がシフト入っている時にしてね?」

「ええぇ?」

「よろしくー! ……あんまり喋ってたら怒られちゃうや。仕事戻るね」

「うん、お疲れさま」

「お疲れさま!」


(女友達が欲しいのかな? うーん、やっぱりよくわからない……。男の子って、みんなこんな感じだったりする?)


 バイバイ、と手を振り、制服から私服へと着替えると、私はお店をあとにした。

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