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あの時、一番好きだった君に。  作者: 三嶋トウカ
大学4年_春

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第73話:覚悟_2


 「んで、こないだオフ会で会った子に告白された」

「それはまたスピーディな展開」

「お断りしたけどね」

「あ、断ったんだ」

「だって、別に好きじゃないし。なんか、付き合っても良いかな、って思えなかったから。あくまでも友達なんだよね」

「ハッキリ言えるのは良いんじゃない? なぁなぁで付き合うよりも」

「でしょ? 彼氏いるか聞かれて、別れたって言ったらそのまま告白されたの。『今彼氏いないんだからお試しでも! お願い!!』って言われたけど、そうじゃあないんだよね。まったく食指動かないし」

「あはは。当たって砕けちゃったね」

「振られるのは嫌かもしれないけど、適当に付き合うより全然良いでしょ」

「確かに」

「珍しく来る者を拒んだかもしれない。けど、これが大人になったとか、そういうことなのかなー」


 私はずっと、ミルクティーをストローでかき混ぜていた。なんとなく、手を動かしながら話すと、喋りやすい気がしたからだ。プラスチックの容器は汗をかき、テーブルを水滴で濡らしている。


 しばらくして、摩央は目の前にあったアイスコーヒーを一気に飲み干すと、プラスチックの容器をペコペコと押しながら私に聞いた。


「んで? 千景は航河君に告白するのかい?」

「へ? なに?」

「だから、告白しないの? 航河君に」

「私が? なんで?」

「航河君が今フリーだから」

「いや、今、食指が動かない、とか、好きじゃないしとか、そんな話をしてたところじゃん?」

「そうだけど、それとこれとは別じゃない? あくまでも私の話だし」

「えっ、航河君も結構そういうタイプだと思うけど」

「あんなに仲が良いのに? 実は千景と付き合うために別れたとかじゃなくて?」

「いや、いやいやいやいや。まさかそんなわけない。うん、ないないないない」

「あの航河君だよ?」

「あの航河君だからだよ!!」


 私は残っていたミルクティーを飲み干した。飲み終えたあとも、何度か吸ってみたが中身は当然ない。酷く喉が渇いた気がして、これでは足りなかった。


「……そこの自販機でジュース買ってきても良い?」

「良いよ。いってらっしゃい」


 私は遠目でなににするかを選びながら自販機へと近付いた。そして、またミルクティーを選ぶと、そのボタンを押す。ガコンと音を鳴らせて出てきた缶はヒヤリと冷たくて、プラスチックの容器と同じで汗をかいていた。


「それ、入れんの?」

「うん。ストローの方が飲みやすいし。おんなじミルクティーだから良いかなぁって」

「まぁ、いいんじゃない? 面白い飲みかたするね」

「まぁまぁ」


 トクトクとミルクティーを注ぎ、蓋を閉めてストローでかき混ぜる。そして一気に飲むと、あっというまにミルクティーは半分以下となっていた。


「……なんだっけ」

「いや、忘れないでしょうよ。だから。航河君に告白するの?」

「……しないってば」

「でも、航河君のこと好きなんでしょう?」

「そうだけどさ。なんか、そういうのじゃないんだよね」

「じゃあどういうのなの」

「大事っていうか、なんかこう、難しいなぁ」

「千景は航河君のこと異性として見てるわけなんでしょ?」

「と、自分では思ってるよ」

「じゃあ、次会ったとき、航河君に新しい彼女ができてても平気?」

「う……それは……」

「『俺の彼女可愛いでしょ、告白されて付き合うことにしたんだ』とか言われて、写真見せられても平気なの?」

「平気かと言われると、平気じゃないです……」

「彼女と別れることを待っている人がいたら? 昔バイト先に連絡先書いたメモ持って渡してきた人いたんだよね? またあるかもよ?」

「でも……」

「あり得ることなんだよ? それは」


 摩央の言葉を聞いて、つい黙ってしまった。わかっている。多分、航河君はモテる。人によっては怖いと思う人もいるかもしれないが、喋ってみたらそんなことないのはすぐにわかる。だから、今この瞬間も、もしかしたら誰かに告白されているかもしれない。


「航河君に今彼女はいないんだよ?」


 ドキッとした。摩央の言いたいことの意味が痛いほどにわかったからだ。今まで、彼女がいる上で私は航河君と仲良くしていた。美織ちゃんは、航河君のすることになにか言うことはなかった。だからふたりで出かけたし、一緒に帰った。私の中で、美織ちゃんは航河君と接する上での後ろ盾だったのだと。航河君にとって、美織ちゃんという彼女がいても間違いなく私は、その彼女を除いた中で『一番近くにいる仲の良い千景ちゃん』だった。いや、美織ちゃんがいたからそうだった。美織ちゃんがいなくなった今、私が一番仲の良い人間である保証はない。私が勝手に保たれていると思っていた均衡が、美織ちゃんだったから成り立っていた関係が、崩れてしまったから。


 次の彼女が、いたって普通の感覚、普通という定義は難しいかもしれないが、他の異性とふたりで出かけることを良しとしなかったら。

 私が航河君とメールをしているのをよく思わなかったら。

 もしそれで、ふたりがゲンカすることになってしまったら。


 私の立ち位置は、航河君が独り身になったことで揺らいだ。突けばすぐに、ガラガラと崩れてしまうだろう。


 ――【ただの友達】として過ごすには、距離があまりにも近過ぎた。


 それもすべて、私が甘えきっていたから。そこから抜け出そうとしなかったから。それが当たり前だと思っていたから。壊れることはない、と、そう思っていたから。私は航河君に新しい彼女ができたとして、今までと同じように接することができるのか考えてみたが、すぐに頭が痛くなった。


(――無理、だ)


 頭を抱え首を横に振る。どう考えたってそれはできない。そこに私がいない未来しか見えないのだ。


 今までは特例だった。見逃されていた。もうこんなことはあり得ないのだと、当たり前のことに胸が詰まる。


「千景……」


 摩央はそのまま、頭を抱える私をただ見つめていた。

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