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第6話:私の歓迎会_4


 そのあとはもうこのネタは良くないと思ったのか、早瀬さんは私の元カレについて聞いてくることはなかった。追加で男性のタイプは聞かれたが、当たり障りない範囲で……というか、私のタイプは早瀬さんには当てはまらないから、安心して答えた。よく居そうなタイプだし、いちいち特定されることもないだろう。

 ……特定の人間を思い浮かべて答えたわけではないが、誰かに当てはめたくなるのが人の常だ。


「……ここのつくね、すごく美味しいですね……?」

「おっ、千景ちゃんもそう思う? 俺のオススメなのよ。お酒の話と料理の話聞いて、絶対ここしかない! って。空いてて良かったわ」

「嬉しいです、私、焼き鳥好きなので。カクテルもたくさんあって、どれを飲もうか悩んじゃいます」

「酒の種類自体が豊富だからさ。でも、飲めなくても楽しんでほしいって、ノンアルコールも多いし。それに、この器も結構お洒落じゃない?」

「そうですね。盛り付けも凝ってるみたいですし、食べていて楽しいです」

「そりゃあ良かった。この店選んだ甲斐があるわ」


 相崎さんは嬉しそうに喋っている。よほど、このお店がオススメだったのだろう。それに、このお店が好きなんだと思った。自分の好きなものを勧めて受け入れてもらえたら、それはすごく嬉しいことだと私は思っている。


「そういえば、千景ちゃんはどうしてウチの店で働こうと思ったの?」

「ええっと、求人募集を見て……なんですけど、もともとは」

「もともとは? なにか他に理由がある?」

「一度、面接とかそういうのの前に、食べに行きたいなと思っていったんですよ。そのとき、料理は美味しいし、お店の雰囲気も良いし、店員さんが楽しそうに仕事してたから、『私もここで働けたら良いな』って思いまして……」

「なにその優等生みたいなめちゃめちゃ嬉しい理由!!」

「そう……ですか?」

「そうでしょう!! 仕事してて良かったって、本当に思えるよ! ありがとう千景ちゃん! お店に来てくれて!」


 相崎さんはテーブルの上に両手を出して、私にも手を出すようにと言ってきた。素直に従うと、そのまま私の両手を取り、握った状態でブンブンと上下に激しく振った。


(お、おおおおお……! 意外と激しいところがあるのね……)


「相崎さん。そんなに激しく振ったら、千景さんの腕が取れちゃいますよ……?」

「あっ、ごめん!」

「気にしないでください。そんなに喜んでいただけたなら、私も言って良かったです」

「はぁぁ良い子!」


 面白いくらいに反応してくれる相崎さんを見ていると、自分まで嬉しくなってくる。


「末長くね! よろしくね!!」

「はい、よろしくお願いします」


 この様子を羨ましそうに見ている早瀬さんが視界の端に映ったが、私は見なかったことにしてこのやりとり終わらせた。


(見てない。見えてない。私にはなにも)


 料理の感想を言い合ったり、お互い質問したり好きな話をしながら、歓迎会の二時間はすぐに過ぎていってしまった。こんなに時間が過ぎるのが早く感じる飲み会は、初めてだったかもしれない。


「それじゃあ、そろそろ時間だし、みんな帰る準備しろよー?」


 店長からの言葉を皮切りに、いそいそとみな帰り支度を始めた。


「千景さん、大丈夫? 酔っ払ってない?」

「ウーロン茶多めだったし、そんなにお酒は飲んでないし、時間も経ってるから大丈夫だよ」

「そっか、なら良いけど」

「航河君は……ソフトドリンクだったもんね」

「まぁね、この場ではね」

「その含みのある言いかた」

「まぁまぁ。気にしないでください」

「おっ、ふたりは二次会行く? 千景ちゃんは主役だけど、どうするの?」

「うーん、今日はちょっと、ごめんなさい。休み明けに出さないといけない課題があって……」

「そっか。残念だなぁ。……家まで、俺が送って行ってあげようか?」


 早瀬さんが当たり前のように送迎を申し出てきた。


(気持ちは嬉しいけど、ちょっと、ね)


「あー、大丈夫ですよ、早瀬さん。俺が送ってくんで」

「え、航河二次会行かないの?」

「俺も課題残ってるんで」

「へー、珍し。その理由」

「えっ本音要ります? 早瀬さんとふたりで帰らせるわけないじゃないですか。ただでさえバイトと社員、その上新人ときたら、なにか言われても物凄く断りにくいでしょ? しかも年上の男性なんだから、輪をかけてるんです! 遊び人の早瀬さん、女性慣れしてるからなに言うかわかんないし、どれだけ取って食ったかわかんないし、せっかく入ったバイトの子に辞めてほしくないし、トラブル起こしてほしくないし! 言うとキリがないんでこの辺にしておきますけど、立場弁えてください! 以上!」

「待って今までの中で一番辛辣」


 矢継ぎ早に言い切ったことへ満足したのか、航河君はドヤ顔で早瀬さんを見ていた。


「千景さん送って行くなら、俺も送ってください。先に俺が家まで送るんで、近くのコンビニとかに早瀬さんは車停めて。そのあと俺と帰りましょう?」

「……いや、さすがにやめとくわ、今日は」

「今日は? この先もずっとやめてください」


(……めっちゃつよつよなんだけど……)


 シュンとした早瀬さんを見ていると、こんなに強く言ってしまって良いのか不安になる。だが、周りの反応を見ると、悪いことではなさそうに見えた。


(今までも困ってた人がいたんだろうな……)


 微妙な感じで終わるかと思った歓迎会は、一切そんなこともなく。私は航河君に送られて帰路へと着いた。

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