第52話:クリスマスとお誘い_8
「千景ちゃん、誰からだったの? 彼氏?」
「え。彼氏だったらここにいないもん」
「じゃあなに? 急いで電話に出て外に行っちゃうような相手だから……イイ感じの男?」
「オミさんほんとそういう話好きだよね」
「俺だって浮いた話のひとつやふたつしたい」
「オミさんに彼女がいないのも不思議だけどね、その顔で。みんなからイケメンって言われるし、お店にもオミさん目当ての人たちいっぱい来てるじゃん」
「それって実は出会いでもなんでもないのよ?」
「合コンは? してたよね?」
「付き合ってみるとだいたい振られる」
「ごめんなんか不憫」
「可哀想な目で見ないでよ。で? 実際は?」
「んー……内緒」
敢えて含みを持たせて答えたとき、ちょうどケーキが運ばれてきた。
「わっ! 大きなケーキ! すごい!」
いち早く反応したのは広絵だった。直人と2ふたりでデートして……と言ったら広絵に怒られそうだが、付き合っていなくてもほぼデートと言ってもおかしくはないだろう。それで今日は来ないと思っていたが、美味しいご飯が食べられると聞いて、デートの途中でふたり揃って参加することにしたらしい。目をキラキラ輝かせて、大きな四角いデコレーションケーキを眺めていた。
(わぁ……確かにすごい)
目の前に置かれたケーキは、みんなのの視線を独り占めしていた。真っ白な生クリームに、大きな苺がたくさん載っている。パウダースノーのような細かな白い物体は粉砂糖だ。チョコレートとクッキーで作られたクリスマスツリーとプレゼントの箱が、鮮やかなアイシングで彩られている。それらに囲まれて、センターにはこれまた大きなチョコプレートに【Merry Christmas!】と筆記体で書かれており、見事に豪華な仕上がりとなっていた。
「はーい、みんな、プレゼント出してー!」
店長に言われて周りがゴソゴソと準備をする。私はラッピングされたアイピローを取り出した。
「プレゼント、隣のテーブルに置いて。番号の書いた紙を貼るから、みんなはこの箱の中から紙を一枚選んでね。そこに書いてあった番号のプレゼントをもらえるよー。もし自分のが当たっちゃっても、そのまま持って帰ってねー。交換は別にしても良いけど、強引にはダメだよー?」
私のアイピローには【3】の数字があてがわれた。自分もほしいと思っていたから、自分の番号が当たっても私は嬉しい。
「順番どうしようかな。ジャンケンにするか、不公平にならないようにさ。勝った人からくじ引けるってことで」
運に運を重ねるのだ。なにが当たるかわからない。
「いくよー! さーいしょはグー! じゃーんけーん……」
ジャンケンの結果、私は五番目にくじを引くことになった。私の番に来ても、自分の出したアイピローはまだ引かれていなかった。
(よし……これだ!)
私は引いたくじをゆっくりと開いた。
「あ、【11】番だって」
【11】と書かれたプレゼントを探す。見つけたのは可愛らしい紙袋だった。中には小ぶりの包装紙に包まれた箱が入っている。大きさからみると、少し重量があるように感じられた。買ったお店の匂いなのだろうか。ふんわりと甘酸っぱくて良い匂いが香ってくる気がする。
(何だろう、開けるの楽しみだな)
航河君は十番目にくじを引き、私のプレゼントではない番号を引いた。そのとき、彼がどんな顔をしていたかは見れていない。 プレゼントが全員の手に行き渡ったあと、本日二個目のケーキを口にした。これも非常に美味しく、大満足の会だった。
帰る時、『航河は千景ちゃん送っていくんでしょう?』と、店長にふたり一緒に店を出された。どちらの返事も待たずに放り出された私たちは、無言で横並びに歩く。
(なんか、なんか気まずいんですけど……?)
あいだを流れる微妙な空気が痛い。どうしようかと思っていると、航河君が先に口を開いた。
「ご飯美味しかったね」
「あ……そうだね、うん! すごく美味しかった。ケーキも豪華で良い味だったし」
「プレゼント、なにが当たった?」
「まだ見てない、けど、なんか良い匂いするんだよね、この紙袋。柑橘系の、良い匂いが」
「香水かなにか?」
「なのかなぁ。見た目の割には重さもあるし、そうかも。家に帰って開けるのが楽しみ」
「俺も家帰ったら開けよ」
「楽しみだねー」
「……あのさ、千景ちゃん」
「ん? ……なに?」
「途中、電話で抜けていったじゃん?」
「あぁ、うん」
「あれ、誰……?」
(え!? 気にしてたの!?)
摩央に言ったら、きっと大喜びかつ大騒ぎするだろう。オミさんにしか言われなかったから、航河君は気にしていないと思っていた。
「え? なんで?」
口から出たのは、素直に今思った言葉だ。
「いや、そんな言えない相手?」
「別に、そんなことないけど」
「やけに楽しそうだし、急いで外出ていったから。……俺以外に、仲の良い男がいるのかと思って」
(あはは、普通は好きな子とか彼女に言う言葉ですよねー……)
「そんなんじゃないよ」
「本当に?」
「うん。だってあれ、摩央だもん」
「え? 摩央さん?」
「うん。酔っぱらった摩央。メールしてたのにいきなり電話かけてきたから、なにかあったのかと思って慌てて出た」
「……なんだ」
航河君はそれを聞いてホッとしたのか、口元を緩ませた。そこからは普段通りの帰り道。私は家に着くと袋を開け、中身を確認した。
「あ、オレンジとグレープフルーツの香水だ! 嬉しいなぁ」
(航河君、なんだったんだろう)
後日、一枚の写真が携帯に送られてきた。私の買ったアイピローを持った航河君の写真が。メールに『当選者を買収しました』の一文を添えて。




