優しすぎる女友達の話
「痛ってぇ……」
蹴られたお腹がズキズキ痛む。さすが、武道家の娘。
「俺に蹴られるとか、宝くじ一等当たるくらいラッキーだから感謝しろよ、愚民共」って言ってた
まあ、見た目はすごく可愛い。赤に少しオレンジかかってる長い髪。綺麗な顔立ちで、スタイルも完璧。
誰が見ても美少女。性格を除けばな。
成績も上位三位には入っている。だが、あいつに料理は作らせてはいけない。あれは料理、と言うより毒薬を作っているに近いだろう。
愛の両親は愛の小さい頃に死んだらしい。自殺という最期を迎えた
両親から残された家族。愛にはまだ
中学生の弟と、小学生の妹がいる。
「私は一番上のお姉ちゃんだから家族を守らないといけない。
泣いてちゃいけない。強くならないといけない。
かわいい女じゃなくて強い女に」
いつだっけ。そんなことを言っていた。
学校という憂鬱な時間の終わりを告げる音が響いた。皆はそれぞれ教室を出ていく。僕は友達が愛しかいないので誰からも声をかけられることはない。でも、夕日の光が差し込む一人だけの教室はなぜか好きだった。
手を伸ばし、背伸びをして席を立つ。
鞄を持ち、教室を出ようとすると、愛が戻ってきた。
「雨、まだいたのね」
「うん。いつも一人のこの時間が好きなんだ。ゆっくり時間が流れる
感じ。」
愛はため息をつく。
「あなたは何も変わってないわね。あの頃と」
「そうだね」
沈黙が流れる。
「雨は……一人でさ、寂しくないの?」
愛が静かに聞いた。
寂しい。寂しいってなんだろう。僕は過去に感情を捨てている。
楽しいも悲しいも、嬉しいも許せないも。
だから愛の言っている『寂しい』の意味がよくわからなかった。
「寂しくないよ。一人でも」
ふーん。愛はつまらなそうに返事をした。
「私はつまんない」
だから
「明日からは二人で夕日をみたい。私と雨と」
「僕といるといいことないよ。」
愛は吹き出す。
「何をいまさらよ。私もあなたもこの学校中の
人間には嫌われているのよ。
だから私があなたといたってこれ以上評価が落ちることはないわ」
愛は笑顔で言う。
「落ちるところまで落ちたら、もう幸せまで昇るしか道はないのだからね」
その笑顔に少しドキドキした。
「それと」
そう言いながら愛は鞄から小さな箱を取り出す。
「さっきは蹴ってごめんね。みんなの前だったし。だから……。
そう言って取り出したのは、虫刺されに効くマヒだった。
これ、虫刺されにしか効かないんだけど……。
まぁ彼女なりのやさしさだと思うので突っ込むのはやめた。
「痛かったよね。今度お詫びさせて。何食べたい?」
「いや、大丈夫。大丈夫!」
料理だけは勘弁。本当に死んでしまう。
「じゃあさ、デートしようよ。ね?」
彼女に夕日が重なる。赤く染まった頬は彼女をいつもより輝かせ、僕の心臓をいつもよりドキドキさせた。
ずっと一人だと思っていた時間が、君と一緒になるなんて夢にも思わなかった。あの時、君に出会わなければ。僕はずっと一人だった。