半ボッチで根暗で陰キャな俺に、完璧美少女の彼女ができるわけがない

本章

８．とんでも思考は大体ラノベのせい（偏見）（蓮水視点）

「こんちゃー、初めまして！愛衣だよ！」

「こ、こんにちは。蓮水七紬と言います」

久遠さんに紹介していただいた、望月愛衣さんの初めての印象は、なんというか……。

「元気だろ？」

「元気でしょー？」

「え、ええと……そうですね」

そういって嬉しそうに笑いあう、久遠さんと望月さんは、恋人と聞いていた通り、とてもお似合いの二人だと感じました。

久遠さんも望月さんも、かなり整ったお顔で、並んで立っている姿はとても絵になります。

恋人という、私には縁のないものに、少し憧れもありますが、それ以上に、友達というものが増えたことへの嬉しさで胸がいっぱいです。

ずっと、転校ばかりで友達を作る暇などありませんでしたから。

「ねぇ、なっちゃんって呼んでいい？」

「ふぇっ！？」

望月さんが突然言い出した言葉がわからなくて、思わず変な声を出してしまいました。

なっちゃん、というのは……。私の名前なのでしょうか。

七紬、ですから、なっちゃんというのも、愛称としておかしくはない……のでしょうか？

いや、そもそも、初対面の方に愛称をつけるのが普通なのでしょうか？

今まで、友達というものが殆ど居たためしがなかったので、友達の距離感というものがわからないのです。

これからは、少しずつそういったことも知れるようになるのでしょうか。

「愛衣、蓮水さんが困ってるぞ」

「えっあっごめん！嫌だった？」

黙ってしまった私を見て、久遠さんがフォローをしてくださいました。

「ああいえ、そういうわけではないのです……。ただ、少し驚いてしまって。あまり、そういった名前で呼ばれることがないものですから」

「そっか！嫌じゃないならよかった！じゃあ、なっちゃんも私のこと愛衣って呼んでね！」

そこで、少し固まってしまいました。

友達とはいえ、今初めてお話をしている人を、苗字ではなく名前で呼ぶ……。

それは、もしかしたら望月さんや久遠さんにとっては普通のことなのかもしれません。

けれど、ずっとぼっちをこじらせて来てしまった私には、あまりに高いハードルなのでした。

「嫌……？」

反射的に、拒否の言葉を紡ごうとしていたとき、望月さんが目をうるうるとさせて私を見てきました。

いきなり顔が間近に迫ってきて、しかも上目遣いです。

「あっ、あの、えっと、その」

「愛衣ー、戻ってこーい」

あまりの近さに、思わず胸がどきどきとしてしまい、慌てていると、再び久遠さんが仲介に入ってくれました。

とても、助かりました。

ですが。

「あぅ……その、嫌ではないのですが……少し、ハードルが高いと言いますか」

「大丈夫大丈夫、騙されたと思って少し跳んでみよ？」

「お前は何処の悪徳セールスマンだ」

息がかかりそうなほど近くまで来ていた愛衣さんの顔に少しまだどきどきしながらも、やんわりと拒否をしようとします。

それでも諦めきれない様子の望月さんは、久遠さんが無事止めてくださいました。

少し……かなり元気な方ですが、こうも純粋な好意を向けてもらえると、此処まで嬉しくなるものなんですね。

これからの学校生活が、少し楽しみになりました。

＊＊＊

初めての友達ができてから一週間ほど後。

私は昇降口で呆然と立ち尽くしていました。

目の前には、これでもかと降り注ぐ雨。

家に置いてきた傘を思い、ため息が出てしまいます。

どうしましょう……。この中を帰ったら、風邪をひく気しかしません。

「……どうした？」

そうして、雨をぼんやりを眺めていたところに、いきなり声をかけられて、変な声が出てしまいました。

「ひゃっ！……あ、み、神影さん」

「なんでそんな驚いてんだよ」

「い、いえ。何でもないです。それより、どうしたんですか？」

私に興味のなさそうな神影さんがわざわざ話しかけてきたことが不思議で、首をかしげてしまいます。

「ん、いや……黄昏てたけど、どうしたのかと」

「あー……大したことではないのですけど……。傘を、忘れてしまいまして」

特に隠すことでもないので、正直に傘を忘れたことを告げました。

「――はぁ。……誰か貸してくれるようなやつは？」

「え、ええと、久遠さんも望月さんも、橘さんも多分もう帰っちゃってて……」

質問の意図がわかりませんが、そのまま答えました。

「……これ使って帰れ」

そう、ぶっきらぼうに言って差し出されたのは……傘。

今の今まで、神影さんの手に握られていた真っ黒な傘が、私に差し出されていました。

「え！？いや、そんな悪いです！」

「良いから黙って受け取るんだよ」

「あっ……！」

流石にそんなことはできないと断りましたが、気づいたら手の中に傘を持たされてしまっていました。

しかも、何かを言う前に土砂降りの雨の中に、走って行ってしまいました。

「……せめてお礼ぐらい、言わなきゃ」

私はそう決意して、とりあえずご厚意に甘えることにして、傘を開きました。

＊＊＊

「あー、神影は今日休みだ。風邪らしい」

えっ……！

次の日、朝のホームルームで先生がそう告げたとき、私は目の前が暗くなったような気がしました。

――間違いなく、私のせいです……。

あんな雨の中、走って帰っていたのですから、当然です。

私は何故あそこで止めなかったのでしょうか。

後悔が募ります。

私に何かできることはないでしょうか……。

「久遠さん」

「ん？」

授業にも少し集中できず、ひたすら悶々とし続け。

私にできることを考えた結果、ある一つの結論に到達しました。

「神影さんの家に、案内してもらえないでしょうか」

……長年ぼっちを拗らせてきた私が、ラノベに多分に影響を受けた思考の元弾き出した結論は、明らかに“普通”とは異なるものでしたが、この時の私にはあずかり知らぬことでした。