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7,初めてのお友達(蓮水視点)


「会えませんでした……」


次の日、私は、自分でも何故かわかりませんが、あの公園で神影さんを待っていました。

結局、会うことはできませんでしたが。


帰り道だと言っていたはずですので、私がここに来るより先に帰ってしまったのでしょうか。

何はともあれ、諦めて家に帰ってから、冷静に考えると自分の行動がストーカーだったと気づき、一人で部屋で悶えていました。


待ち伏s……こほん。

公園で出会うことを期待するのは、止めておくことにします。


***


そんなことを、決意したはずなのですが。


何故私は、神影さんの帰路で隠れて待ち伏せをしているのでしょうか……?




……いえ、わかっています。


私が彼のことを気になってしまったからです。

私を変な目で見ない男の人は、貴重ですから……。


人格も真っ当そうな印象を受けましたし、考え方も少し似ているような気がするので、出来れば仲良くなれないでしょうか……。




――――あっ。


そんなことを考えていたら、丁度帰ってくる途中の神影さんを発見しました。



「良かった、会えました」


そんな言葉が、自然と口からこぼれます。

なんだか、思っていたよりも安心してしまいました。

一体、どうしてしまったのでしょう。


「……何か用?」

「はい」


露骨に嫌そうな顔をする神影さんが、なんだか面白くて少し笑ってしまいました。


「その……とっ」

「と?」


友達になってください、と言おうと思っていたのですが。


――は、恥ずかしい……!


ここまで来て、いきなり羞恥心に襲われた私は、言葉に詰まってしまいました。

それに。殆ど会話をしたこともない人に、いきなり友達になってくださいと言われて、御影さんはどう思うでしょうか。


拒否されたらと。そう思ってしまうと、もうその言葉の先を続けることはできませんでした。


「とっ、友達――を紹介してください!」

「――――。は?」


――――やってしまいました。


咄嗟に言葉をすり替えたものの、出てきた言葉はおよそ神影さんに言うべきではないものでした。


「ああえっと、あの、ほ、ほら!神影さんから見て、その……大丈夫そうな人を紹介していただけないかと」

「……なぁ、わざと言ってるだろ」


眉間にしわを寄せ、そう告げる神影さんに、失言を悟り急いで後付けの理由を述べます。


私もおかしいことはわかっています。わかっていますから、神影さん、そんな頭が痛そうな顔をしないでください。


「何故わざわざ友達のいない俺に言った」

「え、えっと、あの……」


まったくもって仰る通りです……。

何一つ返す言葉がなくて、うつむいてしまいました。

ああ、神影さんに変な人だと思われてしまいます……。


「はぁ、まあいいや。知らんが、久藤と橘は仲良くしておいて損はないと思う。他は知らん」

「ッ!有難うございます!」


ため息をついた後、それでも知っている範囲で教えてくれた神影さんの優しさに、頬が緩んでしまいました。

慌ててごまかすために頭を下げましたが、気づかれてはいないでしょうか?


変な人だと思われて、避けられないと良いのですが。

……すでに避けられているような気もしますが、気のせいでしょう。


***


次の日、さっそく私は久遠さんへと友達になってもらいに行きました。


「あの、久遠さん?」

「えっ、俺?」

「はい。ちょっとお話したいことが……」


実は、橘さんより先に久遠さんに声をかけたのは、ちょっとだけ、久遠さんを誘えば神影さんもついてきてくれないかなという淡い期待があったからなのですが……。



「行ってら。俺は寝てる」

「ぁ……」

「おう、行ってくるわ。今のうちに寝貯めとけ」


残念なことに、欠片も興味がなさそうに机に突っ伏してしまいました。

というか、初日から思っていましたが、今日はその時にもまして顔色が悪いです。


お身体は、大丈夫なのでしょうか。


***


「ここなら大丈夫でしょ」

「あ、はい。有難うございます」


久遠さんが連れてきてくれたのは、屋上へと続く階段でした。

どうやら屋上は鍵がかかって入れないようで、その屋上へと続く階段へは誰も来ないのでしょう。


「で、話とは?」

「あ、その……。……お友達に、なっていただけないでしょうか?」


なんと切り出そうか迷いましたが、結局は素直にそう言うことにしました。

なんとなく、神影さんのお友達であれば、普段の男の人にしている対応を取らなくても、大丈夫なような気がしたので。


「ん?ああ、全然良いけど……何故に俺?」

「あ、ありがとうございます!……えっと」


軽く頷いていただけました。

初めてのお友達、げっとです!

心のなかで、ガッツボーズを取ってそう呟きました。


ただ、何故かと言われると……。

言ってしまっても、良いでしょうか。


「実は……神影さんから、久遠さんを友達にと紹介していただきまして」

「えっ!?」


ありえないものを見る目で、久遠さんが叫びます。


「え、玲一が……?うっそだろ、あいつ……」

「?そこまで、驚かれるようなことなのでしょうか?」


流石に驚きすぎなような気がしてしまい、つい口をはさんでしまいました。


「あ、あぁ……。あいつな、友達俺ぐらいしかいないんだよ」

「……そう聞きましたね」

「それも話してたのか。あいつな、過去に何かあったらしくて、基本人と馴れ合おうとしないんだ」

「過去に……」


苦い顔でそう告げる久遠さんの言葉に、なんだか少し頷けてしまいました。

なんだか、神影さんは、何処か達観したような、悪く言ってしまうと生気の無い目をしていますから。


「だから、俺の知らないところで他人と仲良くなってるのがちょっとビックリしたんだが……蓮水さん」

「はい」


不意に真剣な目をした久遠さんに、自然と背筋を伸ばして答えると、予想外の言葉が告げられました。


「あいつと――玲一と仲良くしてやってほしい。口悪いし、ひねくれてるけど、根は良い奴だから」

「……私が、ですか」


どうにも、私がどうにか出来るほど軽いものだとは思えません。

それにまず私自身、ずっと人付き合いから逃げてきた臆病者です。


「ああ、それがあいつのためにもなるし、蓮水さんにとっても害のない男子と仲良くなっておいて損はないはずだ。多分、俺ともそういうことで接触したんだろうし」

「……ええと、そうですね」


どうやら、久遠さんには大体お見通しだったようです。


「ああ、嫌ならこれ以上は言わないけど―――」

「やります」


気づけば、久遠さんの言葉にかぶせるようにして返事をしていました。


「神影さんの友達に、頑張ってなります」

「……おお、そうか。ありがとな。それと、初対面でこんな話してすまんな」

「いえ、良いんですよ。その、と……友達なのでしょう?」


友達と、そうハッキリ言うのが少し恥ずかしくて噛んでしまいましたが、久遠さんは優しく微笑んでくれました。


「ああ、そうだな。じゃあ、玲一のこと頼む」

「はい、頼まれました」









「ところで、どうして知り合ったんだ?」

「えぇと――――――」


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