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5,ご機嫌なオカンとご機嫌斜めな天気模様

ブクマありがとうございます。

引き続きお楽しみください

次の日、ウェブで見つけた本に夢中になって睡眠時間を削った俺は、寝不足の頭でフラフラと学校へと向かった。


「お、おはよー玲一」

「ぁあ、ん」

「なんかいつもに増して眠そうだなお前」

「本、読んでた」


うつらうつらとしながら受け答えをしているうちに、蓮水が珍しく一人で教室に入ってきた。


そして、教室の奴らの挨拶に笑顔で返しながら、こっちへと向かって歩いてきて――――え?


「あの、久遠さん?」

「えっ、俺?」

「はい。ちょっとお話したいことが……」


そう言いながら蓮水が俺のほうをチラチラ見ていた。


――――ああ、そういうことか。


彼女は、昨日俺が言ったことを受け止めて、さっそく行動を始めたのだろう。


「ん、亮二行って来い」

「なんでお前が許可出してんだ……?まぁいいか、人居ないところのほうがいい?」

「あ、そうですね……」


さらっと相手の要望を予測して動く亮二には、毎度ながら驚かされるというかなんというか。

こういうやつだから人気があるんだよな、と思わされた。

これだから中身イケメンは。


「行ってら。俺は寝てる」

「ぁ……」

「おう、行ってくるわ。今のうちに寝貯めとけ」


俺は眠いのだ。机に突っ伏す。

寝ているといったとき、蓮水が何か言いたげだったのは気のせいだろうか?

いや、亮二が何も言わなかったし、俺の気のせいか。


「おやすみー……」


寝不足だった俺は、このときにある重大なことを忘れていたことに、気づくことができなかった。


***


「よっ、玲一」

「ん?ああ、おはよ……」


本当に眠ってしまったようだ。

亮二の声で目が覚めた。


顔をあげると、何故かニヤニヤした亮二の顔が。


「うわ顔ウザッ」

「寝起きで言うことそれ!?」

「ああすまん、寝起きだったから本音が隠せなくて」

「ねぇ大分酷いこと言ってるけど自覚ある!?」


寝起きに亮二の叫び声が心地よく木霊する。


「まあ、そんなことより。れいいちー、お前、いつの間に蓮水さんと仲良くなったんだよ」

「……は?何の話だ?」

「……ガチでわからなそうな反応すんなし」


苦笑気味の亮二に、首をかしげる。

なんだ?

寝起きの、ぼーっとした頭で、思考がまとまらない。


「蓮水さんにな、友達になってくださいって言われたんだよ」

「あぁ……そうなのか」

「なんだよその気の無い相槌は。でな、なんで俺なのかって聞いてみたんだよ」


あぁ……ようやく思い出した。


「神影さんに教えてもらいましたってさ」


こいつのことを教えたの、俺だった。


「で、いつの間にそんな会話するようになったんですかねぇ?」

「うっせ黙れ」

「グファッ!お、お前暴力はいけんぜよ!」

「なんだその話し方」


腹にパンチを入れる動作をしてやると、当たっていないのに大げさにうずくまる亮二。

ノリが良いのはいいんだが、なんだか随分と機嫌がいいな?


「随分機嫌いいな」

「そりゃそうだろ!今まで俺以外の友達を作らなかった玲一が、新しい友達になりそうな子と接点を持ってるんだからな!それに、だ。友達に俺を紹介してくれるなんて、嬉しくない訳がないっての!」

「……そんなことないだろ」


よくそういうことを臆面もなく言えるよなコイツ。


「そうかそうか、そういうことにしておこう。いやぁーこれは、愛衣(あい)と見守るしかないな!」

「話聞いてたか?」


はぁ、こいつは本当に……。


ちなみに愛衣は、亮二の彼女の名前だ。フルネームは望月愛衣。

底抜けの明るさから男女ともに人気の、黙っていれば美少女だ。黙っていれば。

……亮二つながりとはいえ、こんな俺にいやな顔もせず話しかけてくる変人その2でもある。


「ともかく、俺はお前が俺ら以外の奴に気を使ったのが嬉しいんだ」

「何言ってんの?」

「惚けなくていいんだぞ。全部蓮水さんから聞いたからな」

「何言ってんだあの人」


そんな俺のことで会話することあったか?

話題になるような何かをした覚えは……あれか。


確かに、外で知ってる人を見かけたからって、普段の俺なら絶対に自分から話しかけるなんてことはしなかっただろうし。


「玲一も成長してるんだなぁ」

「お前は俺のオカンか」


***


それから1週間ほど経った。


どうやら蓮水は俺の助言を実行したらしく、橘、亮二と順調に仲を深めていた。あとは、久遠の彼女である愛衣とも。


蓮水が亮二に話しかけてきたときは、俺は空気を読んで離れるため、最近は少し亮二と会話する時間は減っている気もする。

まあ、だから何だという話だが。


「じゃあまた明日」

「おう」


学校終わり、俺はいつも通り一人で家へ帰るべく昇降口へと向かった。


「うわぁ……降ってるなぁ」


顔をしかめて、呟く。

外はまさにバケツをひっくり返したかのような土砂降りの雨だった。


「傘持ってきてよかった……」


この雨の中、傘なしで帰るのは辛すぎる。

天気予報をきちんと確認してきて、本当に良かった。


そんなことを考えていた俺の視界に入ってきたのは、一人の女子生徒。


蓮水が、昇降口に立ち尽くしている姿だった。


***


どうしたのだろうか。

心なしか困っているような顔で、外を眺めている彼女。


「……どうした?」


話しかけたのは、気まぐれだ。あるいは、僅かに接点のあったものとしての責務か。


「ひゃっ!……あ、み、神影さん」

「なんでそんな驚いてんだよ」

「い、いえ。何でもないです。それより、どうしたんですか?」


かすかに頬が赤い彼女が、コテリと首をかしげるのに従って、長い黒髪がサラリと流れるように落ちていく。


「ん、いや……黄昏てたけど、どうしたのかと」

「あー……大したことではないのですけど……。傘を、忘れてしまいまして」


……マジか。


正直、俺はこの時、うかつに話しかけたことを後悔した。

何も見なかったことにして、さっさと帰って小説の続きでも読んでいればよかったのに。


「――はぁ。……誰か貸してくれるようなやつは?」

「え、ええと、久遠さんも望月さんも、橘さんも多分もう帰っちゃってて……」

「……これ使って帰れ」


流石に、知り合いが困ってるのに全部無視して帰るなんて、出来ないだろうが。


「え!?いや、そんな悪いです!」

「良いから黙って受け取るんだよ」

「あっ……!」


押し問答も面倒くさかったので、俺は無理矢理自分の傘を蓮水に押し付けると、覚悟を決めて屋根の外へと走り出た。


風邪、引かなければいいが。


***


フラグだった。


ずぶ濡れになって家に帰り、バッグの中身を干した後直ぐに風呂を沸かして入ったが、どうやら意味がなかったらしい。


「38度7分……」


朝起きてすぐ関節の痛みに気づき、体温を測ってみたが。……体温計の指す高温に、ため息をつく。

頭と喉が痛い。


身体がだるく、立ち上がるとフラフラする。

此処まで酷い風邪は、久しぶりかもしれない。


とりあえず、学校に休みの連絡を入れないと。



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