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11,自分にできることがある(蓮水視点)

書いてても書いてなくても投稿するの忘れるという救いの無さ。

どうも、乙夜です。

ブクマに感謝しつつ、11話どうぞ!


「神影さんの家に、案内してもらえないでしょうか」


私は、久遠さんにそう頼みました。

私ができることが、きっとあるはずだと信じて。


「ん……どうして?」

「神影さんが風邪を引いたのは、私のせいなんです」


不思議そうな、そして若干の……警戒?を滲ませた顔をする久遠さんに、昨日何があったのか説明します。


「なるほどな……ふぅん、あいつが」


何故かニヤニヤと笑いながら頻りに頷く久遠さん。


「わかった。まぁ、蓮水のせいじゃないのは確かだな」

「ですが……」

「あいつが他人に手を差し伸べるなんて滅多にないことなんだ。責任を感じるより、素直にお礼を言ってやってくれ」

「……わかりました」


完全には納得できませんが、神影さんの友達である久遠さんがそう言うのですから、そうなのでしょう。


「では、そのお礼として、私は神影さんの看病をしたいのです」

「うーん…………」


暫く悩んでいた久遠さんでしたが、長考ののちに頷いてくれました。


「わかった。じゃあ、あいつの家の場所と、鍵渡すわ」

「っ有難うございます!」

「……いいってことよ」


つい頬が緩むのを感じながら、私は久遠さんに頭を下げました。


***


「チャイムは……出ませんね」


教えていただいた住所は、まさかの私の住む部屋の一つ下でした。


なんという偶然なのでしょう……。


あと、神影さんも私と同じで一人暮らしでした。

そういえば、何も考えずに久遠さんに頼み込んでしまっていましたが、もし神影さんがご家族と暮らしていたら、私はどうしていたのでしょう……。

今更ながら、何も考えずに突っ走ってしまった私の行動を反省します。



何はともあれ、気を取り直して神影さんのおうちのチャイムを鳴らしますが、反応がありません。

流石に、風邪を引いていて外に出かけているわけはありませんし、おそらく寝ているのでしょう。


「失礼します……」


久遠さんに貸していただいた鍵を使い、ドアを開けます。

ちなみに、何故久遠さんが神影さんの家の鍵を持っているのか聞くと、本人曰く「亮二が遊びに来たとき、いちいち鍵を開けるのが面倒」だったらしいです。


あまりのものぐさに、少し苦笑してしまいました。


「神影さん、起きていますか……?」


一応念のため声を掛けますが、やはり返事はありませんでした。

ちょっと、ホッとしました。


「ぁ……」


不法侵入……いえ、こっそりお邪魔してしまったことへの罪悪感が凄くありましたが、そんな気持ちは寝ている神影さんの苦しそうな寝顔を見たとたんに吹き飛びました。


「看病しないと……!よしっ」


小さくガッツポーズをとって気合を入れた私は、まず神影さんの熱を下げるために、持ってきた熱冷ましシートを取り出しました。


***


「風邪の時は、やはりお粥ですよね」


おそらくお腹を空かせて起きてくるであろう神影さんのために、私はお昼ご飯を作ることにします。


「……使われた形跡がありませんね」


台所へと移動すると、新品同様の調理器具や、未開封の調味料がいくつも出てきます。


「もしかして、普段から神影さんの顔色が悪いのは……」


由々しき事態です。

男の人は、あまり自炊をしないと聞いたことがありますが、神影さんもそうなのでしょうか……。


「あっ」


たまたまゴミ袋が目に入りました。そこで見つけたのは、大量のカップヌードルの入れ物。

量的に、毎日食べているのではないでしょうか。


「むぅぅ…………」


いかにも体に悪そうな食事をとっている神影さんを考えると、今回風邪を引いたのも体が弱っていたからなのではないでしょうか。


なんだか放っておけなくて、私はせめて栄養満点のお粥を作ることにして、材料を持ってきた袋から取り出していきます。


「お口に合えばいいのですが……」


***


それにしても、神影さん。

普段は、不機嫌そうなお顔ですが、寝ているときは年相応の、柔らかい表情なのですね。


正直言ってしまうと、可愛いです。




そんなことを考えていた私は、何の気無しに、神影さんの前髪をあげました。


「…………?」


思っていたよりずっと整ったお顔です。なのですが……。


「なんだか、見覚えがあるような……」


なんでしょう。初めて見るはずなのに、なぜかとても既視感があります。

ですが、いつ見たのか、まったく覚えがありません。


じっと神影さんの、眉間にしわの寄っていない顔を眺めてみますが、喉の奥に小骨が挟まったような感じで、どうしても思い出すことができません。


そんな風に、物思いに沈んでいると。


「……ん……」

「――ひゃっ……!」


思わず、変な声が出てしまいました。

いきなり神影さんが寝返りを打ったのでビックリしてしまいます。


へ、平静、平静を保つのです、私……!


そう自分に言い聞かせながら、必死に顔の熱を逃がそうとしているうちに、神影さんが起きてしまいました。


「あ、目が覚めましたか」


出来るだけ、平常心を保ったままの声を、寝起きでぼーっとしている神影さんに掛けました。

警戒心無くぼーっとしている神影さん、可愛いです……。


――はっ!違います、私は看病をしに来たのです!決して神影さんのことを愛でに来たわけではありません!


その後、驚く神影さんに、少しだけ罪悪感を持ちながらも嘘をつき、無理矢理に話を変えることで久遠さんへ責任が波及することは免れました。


さて、食欲もあるとのことでしたし、お粥を――――。


(なっちゃん、れーいちの看病するんでしょ?ちゃんと食べさせてあげなきゃダメだよ?)


「ッ……!――――!」


その時、望月さんに言われていたことを、ふと思い出してしまいました。


久遠さんの彼女でもある望月さんは、とてもいい人なのですが、少し……お茶目と言いますか、悪戯な性格をしていました。

振り回されてしまうので、お話しするのは楽しいのですが、少々疲れてしまうことも多々。


そして、神影さんの看病をするというお話になったときに、望月さんが仰った言葉が、頭を過ります。


望月さんの楽しそうな笑顔と、久遠さんの苦笑いと……神影さんの、柔らかくてかわいい寝顔が頭に浮かんでは消え…………。


「看病、ですから……」


悩みに悩んだ挙句、そんな言い訳の言葉が、口からこぼれたのでした。


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