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1,転校生は、突然に

どうも、乙夜です!

書き溜めていた小説です!短めの本編は書き終えてありますので、エタる心配はありません!

おまけという名の本編の部分はだらだら更新していく予定ですので、これもまたのんびりと見守ってやってくださると幸いです。

「今日から新しく転入生が入る。皆、仲良くやれよ」


溌溂とした若いイケメン男の先生が、朝のホームルームでいきなり爆弾を落とした。

うつらうつらとしていた俺は、前の席から思い切り揺さぶられて強制的に意識を覚醒させられる。


「おい聞いたか玲一!転入生だとよ」

「興味ない。寝させろ」

「相変わらずだなぁお前」


そう言って元気に笑うのは、俺の唯一といっていい友達、久藤亮二(りょうじ)

高身長高スペック、そしてイケメン。顔もだが、中身が間違いなくイケメン。

                      

高校一年生の初めての時、席が隣だったため、向こうから話しかけてくるようになり、どんなに無視しても拒絶しても付きまとわってくるこいつに俺が根負けして、自然と一緒にいることが普通になった。


勿論亮二はほかにもたくさんの友達がいるわけだが、こいつは何かにつけて俺を誘ってくれる。

愛想が最低な俺が今、クラスで敵視されていないのは、間違いなくこいつのおかげだ。


まあ恥ずかしいから絶対に本人にそんなことは言ってやらないが。


「もうちょっと他人に興味を持てよ。こんな時期に転校生だぞ?気になるだろ」

「持ってどうする。心底どうでもいいんだが」

「あーもう、そういうとこだよ!」


ことあるごとに交友関係を広げさせようとしてくる亮二を避けながら、今日も机に突っ伏した。

だるい、と意味もなく言葉を口の中で転がしてみる。

因みに、今は2月中旬、そろそろ一年生も終わる時期である。


「もしかしたらとんでもない美少女が来るかもしれないだろ!」

「漫画かっての。大体、そんな美少女俺には縁ないだろ」

「お前はさぁ……。大丈夫だ、こんなイケメンが親友になったんだから、美少女だって」

「自分で言うのは心底どうかと思う」

「でもそうだろ?」

「……チッ」

「なんで今舌打ちされたんだ!?」

「胸に手を当てて考えろ」


謎理論でごり押ししてくるうえに、セリフだけ聞いたらどこのナルシストだと言いたくなるような言葉の数々。

だが、それら全てが本当のことであるから何とも言えず、俺はただ舌打ちをした。


「んー……俺がイケメンすぎるからか!」

「ぶっ〇ろす」

「でも親友もイケメンも否定しないんだよな」

「……」


成長したなぁという顔で突然しみじみと言われ、座りが悪くなる。尻がぞわっとして、硬い椅子の上で身じろぎしたが、ただ痛いだけだった。

そんな感じで二人でワイワイしている周りでは、新しい転入生へ期待するような声が教室を見たしていた。

美少女がいいという男子の声と、イケメンがいいという女子の声。

本当にそこそこ頭のいい進学校の会話かと思うほど、なんだか気の抜けるような声ばかりだった。

平和ではあるが。


「それじゃあ蓮水、入って自己紹介を」


そうして先生に促されて入ってきたその人物に、騒いでいたクラス全員が、息も忘れて見惚れた。




LEDの光を浴びて宝石のように輝く、腰まで垂れる黒髪。

シミ一つ見当たらない透き通る肌に、大きなブラックの瞳。すっと通った鼻梁や緩く弧を描く端正な唇が、彼女の存在を何処か人形めいたものにしていた。

背は女子にしてはやや高め、胸は標準サイズ。

その人間離れした美貌と、滲み出る存在感が、見るものに特別な感情を抱かせる。


彼女が制服にスタイル抜群の四肢を包むだけで、大して魅力のないような制服が一気にアイドルの着るそれへと早変わりする錯覚を覚えさせる。


クラス中の視線を一身に浴びながら、優雅に姿勢よく教室へと入ってきた彼女は、教卓の前でペコリと優雅にお辞儀をした。




「初めまして、今日からこの学校に来ました、蓮水七紬(なつ)です。これから、どうぞお願いします」


わずかな静寂。

誰もが、言葉を忘れ、ただ彼女の美貌に囚われていた。


――――そんな彼らを、俺は冷めた目で見ていた。


静寂の中、先生が手をたたいてみんなを現実に戻す。


「はい、じゃあ席は……丁度いいし、あそこにするか。橘、学級委員として、転入生に色々教えてやってくれ」

「はい」


俺から見て右下のほうの席、橘という学級委員の隣が、彼女の席に決まる。


そののちは特に大事な連絡もなく、あっさりとホームルームが終わった。

「俺は少し用事がある、授業の時には座れよ」とだけ言い残した担任がドアの向こうへと消えた瞬間、クラス内にガタッ!と椅子を引く音が重なった。


「蓮水さん、どこから来たの?」

「ねぇねぇ、趣味教えて趣味」

「蓮水さんって―――――」


綺麗な笑みと姿勢を維持する転校生に、とても上位進学校とは思えない様相で詰め寄るクラスメイトに軽い羞恥心を覚え、ふっと目を逸らした。

とりあえず、鬼気迫る顔をしてる数人の生徒とは出来るだけ関わらないようにしよう。


「な?美少女だったやろ!」

「……」


どや顔で自分の予想があってたことを告げる亮二。ウザい。

どう反応すべきか悩み、結果無視を決め込んだが、亮二は特に気にした様子もない。


「しっかしきれいやなー」

「お前彼女いるだろうが」

「や、そーだけどな!しっかし、初対面も初対面でこーゆーこというのどうかと思うけど……観賞用と言うかなんというか……?」

「あー……途轍もなく失礼だが、まあ言いたいことはわかる」

「あ、もちろん俺の彼女のほうが可愛いからな!」

「はいはい」


のろけ話が始まりそうだったので、適当に相槌を打つ。


「かー……つれねぇなぁ」

「心底どうでもいい」

「お前も彼女作りなよ。そうすりゃ良さがわかるってもんだ」

「つくる気も無いし、出来るとも思わない。人付き合いは疲れるんだよ。彼女なんざ作った日にはストレスで死ぬぞ」

「――ま、そーか。素材がいいから、磨けばかなりの見た目になると思うんだがなぁ」



なんとなく寂しそうな表情で頷く亮二は、もう一度囲まれている転入生を見た。

つられて俺もそっちを見れば、丁度こちらを向いていた転校生と目が合う。

ニコニコと微笑んでいる顔はしかし、どこか整いすぎていた。


……砂糖に群がる蟻を彷彿とさせる。

自然に視線を外し、亮二のほうに目をやれば、亮二がポツリと呟いた。


「まぁ、なんだ。あの人も大変だろうなぁ」

「それには同意する」


***


その後も、休み時間に入るたびに質問攻めにあい、律義に答える転入生の姿を何度か見かけながらも、特に普段と変わることのない高校を送った。


「おっ」


帰りにふと思い出して図書館によると、俺の好きな作者の新作本が目に入った。


『蝕む孤独が、(れん)と消ゆ』


迷わず手に取り、あらすじを流し読み。

面白そうだったので、こちらをニコニコとみていたおばさん司書の元へ直行し、本を借りた。

もはや名前を覚えられているのはどう言うわけか。


寒さを堪えながら、暗い空を見るともなく見上げて帰り道を行く。

冬の、夜6時頃。太陽は完全に沈み、夜の帳が下りた帰路。ぼんやりと歩き、今日の生活や諸々を取り留めもなく考える、小さな幸せの時間。



その途中の、小さな寂れた公園。

ぼんやりと灯る街灯の下のベンチに、誰かが座っていた。


「……ん?」


普段なら特に気にすることもなく通り過ぎるであろうその人影に、俺はなんだか妙な既視感を覚え、立ち止まった。


俯くその人の顔は見えないが、あれは――――――。



「蓮水七紬、だっけか」



今日やってきた、転校生だった。



普段絶対に無視するであろうそのシチュエーションに、何故か少しだけ足が止まる。

だが、結局無視して通り過ぎる。


俺には、関係ない話だ。

どことなく寂しそうなその姿に、妙に後ろ髪を引かれる想いをしながらも、迷うことなく俺は家へと歩いて行った。


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