レイピアその一
香る景色に蝶でも飛んで入ればこれは「春」の情景だと誰もが思うはずだ。
僕ら人間にとっても年度の変わり目から新しい環境に思いを馳せてワクワクとする、学校に会社、住んでいる場所など様々な自分を取り囲む環境の変化がそこで行われるからなんだろうね。
僕が考えるに人間は未知の物に期待と不安を感じ、挫折と葛藤から一握の砂みたいな成功を手に入れてそこから成長するのだろう、
しかし、環境が変わったからといって自分が劇的にに変わるわけではない、
その変化の度合いは個人によって様々であり、変わらないものや変われないものもしばしば存在する。
生き物は少なからず自分の住んでいる環境に適応する能力を持っているけれどもあまりの変化にストレスが掛かってしまうとそれに耐え切れず死亡してしまうことも在るのだ。
そんな事は残念ながら人間にも当てはまる事で、春の変わり目からの自殺者と言うのはどうにも多いらしい。
あ、でも僕はストレスとかそんなのはマイペースにやり過ごすし、大丈夫かと思います…
何でも根の詰めすぎはよく無いよ、うん…なぁんてこんなことを言っているのには理由があるのです。
今のところ異常事態が絶賛発生していて僕は頭をリセットしようと躍起になっていた、 何時もボケッとしている僕だけど流石にこの時ばかりは驚いたよ。
何故かっていうと簡単に今僕が置かれている状況というのはさっきから場面はほとんど変わっていないんだ。
そう、僕は単に自分の部屋の鍵を開けた。ただそれだけなのである、疲れているのかそれとも血迷っていつの間にやら女子寮に来てしまったのか…
いやそれは有り得ない、ここは地上から数メートルある場所だ。
それに女子寮である一階部分には個室の他にも管理人室の奥に鍵の必要な扉があるので通常男子生徒が入り込む事は出来ない様にしてある、
さて、なんでそんな事をアリバイ作りと言い訳の為に話しているかといえば目の前のこの状況でのせい。
僕の部屋の玄関でご丁寧に布団まで敷いて寝息を立てる少女が居た。
「すぅ…んー?」
えっと…なんの冗談? 突拍子も無く大問題が発生しているのはきのせいじゃないよね?
あれ?ここの部屋は家具として少女がついてくるのかな?数秒間の思考停止があった後僕は改めてドアを閉めにかかろうと思考を切り替えた。
ほら、もしかしたら幻覚とかってことも考えられるじゃない? ない?
まぁ、それはそれとして、驚きで声も出さなかったのは結果的に正解だったと言える、ここで大きな声を出してしまっては彼女の安眠を妨害してしまうのはまずい。
このまま気付かなかったことにして僕は一旦状況を整理したいというのもある、もしも起きてしまい気づいて大声でも出されてしまってはたまったもんではないからね。
「お、お邪魔しましたー」
そう言って僕は部屋のドアをゆっくりと閉じていく、
布団に丸まるように寝息を立てる少女の様子は僕の奇襲とも言える訪問にも変わることはなかった。
「いやいやいや、本当に急に居たからビックリしたよ、あれってマリアさんの言ってた座敷わらし?」
僕も案外何処でも寝られる質の人間だけどまさか玄関にわざわざ布団を持ってきて寝てるなんて…確信犯だよねあの子と思い、ドアを閉めてから一旦廊下に戻ると深くため息をついた。
予想の斜め上をゆく事態に頭がかなり回っていないことはよくわかったけれど、それにしたってこんなことは考え付かないよ…
ドアの右側斜め上の標札を確認してみよう、もしそれが間違っているなら僕とマリアさんがミスをしたと言うことになるが…
「一年 北村涼」
標札に掲げられていた名前は文字通り僕の名前で間違いない、ならここに本来いるべき住人は僕であるはずだ。
「とするならば…とするならば…一先ずはマリアさんのところに行ってみよう、そこからだよねこの問題は」
いやぁ、「親方ぁ!! 空から女の子が!」なんて展開じゃなくて良かったなーって思っていたけれど、まさか出待ちならぬ寝待ちをされているとは誰が予想出来ただろうか、いやないよ無理だって。
もと来た階段を降りながら僕は案外と自分驚いていないことを思う、達観というよりか諦観と言った方が正しいのかも知れない。
焦ったた方がこうゆう時負けだよ、一体誰と勝負している訳でもないんだけどね。
「すいませーん、マリアさーん。」
はい、一話ぶり五分後の登場でーす、マリアさん!!
某有名番組の司会のように呼ばれながらマリアさんは…先の外出中のカードを出したままだけれど多分いると思う…多分
「その声は…涼くん?あらら? どーしたのかしら? もしかしてマリアさんが恋しくなっちゃったとかー?」
ゆったりと僕をからかうマリアさんを「ソーデスネ」と投げ槍に答えを返すといたずらっぽい笑みを浮かべて「もーう!涼くんのいけず…ふふっ」と返して来た。
いやまってそれどころじゃないからマリアさん一大事からどうか僕の話を聞いてほしい。
「それで?私のところに来てくれたってことは何か用事があるのよね?待って、当てて見せるわ…うーんまさかとは思うけど引っ越し業者がまだ来てないの?」
「いえ、荷物はまだ見ていないんですが…」
「もしかして思って楽しみーにしてた想像より違ったのかしら? 狭いの? 一応清掃業者の方が掃除していた様だけれど…」
「部屋に入ろうとはしたんですがそれ以前の何かこう…致命的なけっか…いえ、問題を発見してしまいまして」
「あらあら、大変。 でも困ったわ…今から部屋を変えてと言われても生徒さんの相談なら出来る限りの事をするつもりではあるのだけれど」
「起こってしまっている事を伝えにきたんですが、部屋って他に余ってたりもしてますか?」
「えっと…残念だけどこの寮は3階から一階まで満室なのよね…ごめんなさい、マリアさんでも出来ることと出来ないことがあるの」
「出来る事とできない事…ですか」
「そうそう、出来る事は掃除、洗濯でしょ、悩みの相談と一緒に映画を見ることくらい。
それこそ地球を征服したい! とかギャルのパンティおくれ! なんて言われても困っちゃう」
何処かのボールに秘められしドラゴンじゃ無いんだからそんなこと頼みません…と思いつつ、
「そんなクレーマーみたいな理不尽なこと言いませんよ」ため息混じりに僕は返答をする。
「クレーマーね、涼くんはそーいう人って逢ったことある?」
僕はそんな人とは関わらないようにやってきたので直接理不尽な要求された覚えがないような…気がする。
強いていえば難癖といちゃもんと屁理屈を僕に浴びせかけてきた様な人はいたけどそれ以外は至って平和な人生…と言うことにしておこう。
「それからそれから? マリアさん、涼くんのお話聞きたいな~?」
先ほど席を立ってばかりだが同じようにして席に促され、お茶を入れてもらった…
!
それはいいのだけれどだから僕はマリアさんに言いたいことが有って来たんです、優美な午後のお時間を割いてしまう様で誠に恐縮なのですが…!!
「そう…聞いてください! 僕は今自分の部屋に行ったんですけど!」
マリアさんは特に話を遮る訳でもなくて案外聞いたくれているのでこの際に一気に話してしまおう、
「そこでなんというかこう…見てはいけないものを見てしまったのです!」
和やかに微笑んでいたマリアさんの顔が少しばかり険しいものとなる、何だろう? あの黒髪眠り姫に心当たりでもあるのだろうか?
「はぁ、それはね…隠しておくつもりだったんだけど…。まさか一日目で見つかってしまうなんて思わなかったわ涼くん貴方…」
深刻そうに此方を見つめるマリアさんに僕もなんだか不安を感じてきた、少しずつ首もとや顔から血の気が引くような感覚の一方で頭のなかで変な方向へ考えがまとまっていく…。
「じ、事故物件って訳じゃないのよ涼くんの部屋は?
でも…涼くんが見たっていうのであれば話は別だわ、ラップ音に呻き声、トタトタと歩き回る音…涼くん、君なら最後まで言わなくても分かるかしら?」
「え? じ、じゃあさっき僕があの部屋で見たのは…」
まずいぞそれは!! あれだよね…その類いのもの
「座敷わらしなの!」「座敷わらしなんですか!またえらい古風な妖怪というか守り神が居着きましたね」
僕にはどうやら霊感が芽生えてしまった様だね!
あれだけはっきり見えて存在を感じられたのならそうに違いない!寝息立ててたし、無害なら別にいっか!!
「あらら?そう思ったの?てっきりお化けとか幽霊とかそう思うかと思っていたのに予想がが外れちゃたわ?」
意外そうに首をかしげるマリアさん、
「座敷わらしみたいに小さな女の子でしたし!でも中学生くらいの雰囲気でしたけど…」
実を言うとそんなことは思ってはいないのだけれどいきなり怒鳴り込みをかけてもお互いに良いことが無いので適度にボケているのだ。
「確かに、自分でも座敷わらしみたいだねなんて言っていたわねあの子。それでもあの子を一方的に何か言い放つ権利は私達には無いわ。 悪さをしてない限りはね」
諦観しているわけじゃない、静観はしているけど。
昔よりも少しだけ人がひねくれてしまった時代な気がしてそんなふう意考えてしまうのである。
所詮この世は本音と建前の騙し合い、正直に生きることこそ損をするのではないか?
「そうそう、あの子は座敷わらし…なのかしら?
涼君に言いたいことがあるのよ」
ため息を一つついてマリアさんは見たことのない真面目な顔を初めて僕に向けた。
ウソを付くような顔はしていない、僕もまた相応の態度で臨まなくてはならないよね。この人はまっすぐと真剣な表情を僕に向けている…本当に絵になる人だよ。
「今ね、丁度と言うには少しおかしいけれど話をさせてください。」
「はい…えっと…どうぞ」
「そうね…例えば家出した子とか親に虐待された子供を施設ではなくてこういった場所、つまりは小谷荘みたいなところで寮生の意志で預かってるプロジェクトが有るの」
「それじゃぁあの子はもしかして…」
「涼くんちょっとストップね、まだ話の途中よ」「ご、ごめんなさい」
「うん、思慮深い事は良いことかもしれないけれど、それをあんまり先行させるのは良くないわ涼くん。それは先入観に他ならないから」
鍵を刺されてしまったけどマリアさんの話をまとめると
「子供」である僕達には社会に出るまで失敗しても本来ならやり直すことができる「居場所」が要る、まだ社会を知らない。
世界の広さを知らない者達は学校・家族というとても狭くて残酷な小世界で生きていかなくてはならない。
言動・思考・行動の自由が過ぎて何が受け入れられるか…
「居場所のない子」は蔑まれ、疎まれ時には虐げられる、如何に世界の広さを知るものがそこから救えるか、救えるなんてのは大人の幻想かもしれないし、彼らをそこから逃げ出す方法を間違えてはいけないのだ。
マリアさんは大きく溜息をつくとこう続ける、
「それとあの子は多分違うの、それは先に言っておくわ。あとからこれもしっかり聞いて欲しいの。
もし他の子をここで預かる事になったらば憐れみの目で、声で接しないでね?それは一番の暴力だから。」
そんなことを此処の寮は行っていたのか…パンフレットにはあまり目を通さずに決めってしまったので知らなかった。
「でもそれだとあの子は座敷わらしではないと?」
重い話がきたのでついついボケではぐらかしてしまった…。
「そうよ涼くん、違うの何処かから迷い込んできたのは確かだけれどあの子は執拗に家のこととか家族のことを話したがらないの、むくれちゃってもう手がつけられないから気をつけてね?」
ん? おかしいな何だか嫌な予感がする…主にマリアさんの文字の文脈から
「そこでね、お願いがあるのだけれど…良いかしら?」
そう言うとマリアさんは身を乗り出して顔を近づけてきた…一度深く呼吸をしてからマリアさんの話を聞く僕だががその…色々目のやり場に困ってしまう。
「あの子しばらく預かってくれないかしら?」
マリアさんの話を聞くと要するにこの話になった。
ほとんどの文言が集中して聞けなかったため大事なことだけ言っておくね、なんで集中して聞けなかったのかと言う問いについての質問は受け付けませんので御了承ください。
「いやいや?待ってください、待ってくださいよマリアさんこの寮って男女間のセキュリティ酷しいのが売りなんじゃないんですか?」
そうよとは言われたはいいものの、マリアさんの人柄を見ると果たして厳しいかどうかはいささか疑問が残る
「って言われてもねぇ…でも涼くん、まさか中学生くらいの女の子と何か間違いを犯すなんてことをする訳が無いわよねー? そーいう趣味の人は色々お腹一杯なところがあるから勘弁してね?」
「そ、そう言われましても…」
確かに一人部屋にしては広い2LDk だなって間取り図見てそう思ったけどね?あの部屋まさか二人部屋なんじゃ?
しかし、このまま否定論を掲げて突き進まなければ
なしくずしに受け入れ拒否が出来ずに見も知らない女の子を一人匿うことになる
「その女の子だって僕みたいな目上の男と同棲するなんて思っては無いでしょう?
先ずは彼女の同意を得ないと駄目なんじゃないですか?」
僕としてはこの状況で切れる最大にして最強のカード(これを躱されたら不味い)をマリアさんに通告した。
だってお年ごろの中学生だよ?
それが言ってはいけないけれど盛りのついたというか、思春期真っ盛りの男子と一つ屋根の下に暮らせるわけが在らへんやろ?
「あら?案外にして意外だと思うのだけれど件の女の子は平気って言ったたわ」
え…それは本当ですかマリアさん、何か恐喝したとか恫喝したとか活を入れたとかしてはいないんですか?
流石に僕も騙されませんよーーー?
「それがね、あの子ちょっぴり訳が有りそうなの
それも重い方、家族とか家のこととかその手の問題ね。
他人に話したがらないのはよっぽど自分のせいだと思い込んでいるのか、親しい人たちの事だから話せないかのどちらかね」
家族とかか…人の事を言えた質じゃないけど確かにそれは話したがらないな、
だってそれが当たり前で日常で常識なんだ。
変に思うかも知れないけど例えば虐待されている子供に親に殴られるのが当たり前かと問われればその子は恐らく首を縦に振るから、
小さい頃っていうのは家族って単位が世界のすべてでそこから逸脱するというのは結構勇気のいる行動だったと思ってるんだけれどそんなことはない?
「少なくとも顔を見る前には首を縦に振ってくれたわ、
とは言っても住んでくうちに問題とかも出てくると思うからその時はマリア御姉さんを頼っても良いからね?」
丁寧にウインクまでしてくれたからには僕も悩みごとなり何なりとマリアさんに頼ることにしよう。
ただし、この間ほとんど僕の心臓は早鐘を打っていたのは内緒である…挙動不審であったり薄気味悪く見えてたらやだなぁ。
「お互いにどうしても合わないだとか嫌になったら私に遠慮無く言ってね?その時は私がなにやらしてみるわ♪」
と言われてしまってはさしもの此方もマリアさんに夕飯の連絡はすこし待ってもらってしぶしぶ退却せざるを得まい。
「はぁーー。」
桜をのんびり見ながらしていた深いため息とはまた違う種類の溜め息を吐きつつ僕は短い帰路につく。
交渉は進まず仕舞いか…
「会議は進まずされど踊る」とでも言えばいいのかな?
自分の部屋に帰るだけだと言うのに何故にこんなに億劫なのだろうか。
「どうしてこうなったんだ…なんの変鉄もない高校生活を送れると思っていたらなんだか大変で気苦労しそうな予想とかしかできない。」
頭痛がしてきそうになりながらも解決しないものは仕方ない、覚悟はいまいち決まらないがするしかないので…もう一度自分の部屋の前には立ち深呼吸をしよう!
意を決して…いざ!
「……ふぅ」
うーんなかなかどうして覚悟は出来ても体がついていかないけど
開けてしまおう! さぁ!
「おじゃましまーーす。」
さっきまでの威勢はどこにいってしまったのかまるで空き巣のように抜き足差し足忍び足でそろりそろりと自分の部屋のドアを再度開けることにした。
まず目につくはずの少女とその脱け殻は何処かへ行ってしまいもぬけの殻だ。
「人のの気配がいまいちしないなぁ…どうしたんだろう?」
この目で確かめたはずの少女の姿が素でに無く、この部屋の本来の主の登場を受け入れて…いる?
だかしかし、部屋は真っ暗でカーテンも閉ざされ昼間にしては火なり薄暗く素直に怖いし、
トイレと浴室は個別の部屋ににあるから1LDKにしても確かに一人部屋にしては広く感じる。
「だ、誰かいますか…?」
部屋の明かりのスイッチは何処だろうか手探りで探し回りながら一先ず荷物を置こう。
「ふっ、ふっ、ふぅ!
あぁ居るともさ!」
それは突然の来襲だった。
キッチンから続くダイニングの奥、未だ探索の手の伸びていない未知の部屋から低く響く女の子の澄んだ、何かを企んでいるような忍んだ声がしてきた。
「我が名はレイピア!!私の部屋に勝手に侵入する愚か者はこの手で成敗してくれるわーーーーー!!」
な、なんだってーーー!!(棒)
うん、流石にツッコミを入れる気にすらならなくなるとは思わなかったけれど仕方ない、そう言われてしまっては此方も相応の気構えを見せるとしよう、
「姿も形もないお姫様を探しだしてあげるのも騎士の務めであって本懐かな?」
なんて格好をつけて呟いたりしているのだった…。
暗闇に影無し障子に目あり謎の可愛らしい声の正体「レイピア」とは一体何者なのか…?
近日公開!!