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出会いと話し合い3

焦って少しパニックになったけど、大体予め伝えていた時間には寮の管理人さんに遭遇する事に成功した。


初めは全然反応が無かったとか、管理人さんが仕事が無いからといって、映画見てて僕が来るのを忘れていたとか不満はあるけど…これからの事を考えて噤んだ方がいいね。


僕はそんなことを考えながら少し溜息を吐いて、管理人室へ入った。

そこは管理人室だった場所をこの人のセンスで弄ったんじゃないかと思わせる部屋だった。


味気ないはずの事務室には似つかわしく無いレース類と小物類があちらこちらに置かれているし、まず普通、管理人室にはテレビは置いてない。


そしてテレビの脇にはオーディオまで付いている…

部屋の奥にそんなものがあるので、部屋の両脇に書類が置かれた棚がある事には僕は後で気がついた。


「そんなに広い訳でも無いなから、くつろいでねとは言えないけどー、ソファーに適当に座ってねー」


部屋の中央部には二人がけの茶色い革のソファーが向かい合わせに置いてある。真ん中にはソファーの高さに合わせた高さのガラスのテーブルが置かれている。


僕は管理人さんに言われるまま、茶色のソファーに静かに腰掛けてふぅとひと息ついた。



「ごめんなさいねーお待たせした御礼と言っちゃいけないんだろうけどー、お茶とお菓子はいかがですかー?」

管理人さんは謝りながら色々と勧めて来たけどお構いなくと僕は答える。


だが…管理人さんにはNOの選択肢はない様で…


「いいえ、御馳走ってほどでもないけど…これ位はなんでもないわー、初めて会った生徒さんには殆どお茶とお茶菓出してるのからむしろ遠慮しないでねー」

と言われてティーカップとポットを指差す。


なるほど…そこまで言われれば僕は首を縦に振るしかない。


「いいえー本当にごめんなさいね、ちょうど見たかった映画のDVDを見ていたもので」

映画ですか、管理人さんは映画がお好きなんですか?


「そうねー、どっちかっていうと俳優さんや女優さんが好きなの。 格好良いアクションとか、感動的なシーンができる役者さんってすごいなーって憧れてた時もあったわ」

管理人さんはシリーズものとか監督よりも俳優さんが好きなんですね。


「そうなの! これでも昔はね…ってこの話は置いておいて、貴方はお茶、コーヒー? それとも紅茶? どちらがお好みかしら?


「遠慮しないでねー」と戸棚を探りながら管理人さんに言われ、僕は控えめにコーヒーを頼んだ。


「はーい、コーヒーねー。確かこの引き出しにドリップの美味しいのが…あーる! あ、ない…」

そこまで気を回して貰うと僕のバツが悪くなるので、あのー、インスタントでいいですよと口を挟んで粉のコーヒーを入れて貰う事になった。


戸棚を漁っていた管理人さんがポットとカップをテーブルに運んで、ティーカップの上でお湯がカップに静かに淹れてゆく…


「御名前が確かーえっときたむら君?砂糖とミルクはお幾つ使いまーすか?」

砂糖とミルクが一つづつと答えた後、僕は簡単に自己紹介を管理人さんへする。


 後から考えると随分と早口に答えてしまったけれどそこはほら緊張してたってことで許しをもらっておくことにしよう。


「…うんうん、はい分かりました、北村涼君ね。

自己紹介もして貰ったし、北村君のお時間もあるの分かっているんですけど…この後少しばかりこの後お時間いいかしら?」


むしろその為に一旦色んなことが落ち着いた午後の時間を選んで来たので素直に構いませんよと答える。


「そう、ありがとう。 あのね、書かなきゃいけない書類とか寮則とかも一通り説明しないといけないのよ〜」

 少し眠そうに小さく伸びをしながら管理人さんは僕に説明をする。

「あら、そうだわ、私の名前…と言うよりみんなから呼ばれてるニックネームを言ってなかったわ」


そう言えばそうだ、僕はてっきり目の前の女の人が管理人さんだと思っていたけど、もしかして違うんですか?!


「うんうん、私が学生寮の管理人で間違い無いですよー、因みになんだけどこの学生のみんなからはマリアさんって呼ばれてまーす!」


僕に柔らかく微笑むマリアさん…え、ニックネームで呼ばれているんですか?

「そうなのー、ちゃんと本名の名前を踏まえてるニックネームではあるんですけどね不思議」


確かに不思議ではあるけど、今詳しく聞く事じゃない。

「私は小谷荘の管理人のお仕事をしているんだけどね、管理人さんだとなんだか他人行儀かなーって思ったの」

マリアさんは自分の分のコーヒーを入れて、テーブルの向側に座る。


「それに管理人って生徒さんの上とか見張ってるみたいでなんだかなーって」

成程、管理人だと僕らからの見られ方が気になったので、マリアさんとニックネームで呼ばれているんですね。

「そうなの、はじめは不思議な感じだったけど今の三年生から呼ばれ始めて今ではすっかりお馴染みになっちゃったの」

では、管理人さんのことはマリアさんとお呼びすればいいんですね?


「どっちでもお構いなくー」

マリアさんの話し方からやおっとりでおおらかな人なんだと僕は感じた。


寮にいる方で女の方なので寮母さんって呼ぶことも出来ますよね。


そう僕は軽い質問をしたつもりだったんだけど…直ぐに失敗したと悟る。

マリアさんが口に運びかけたコーヒーカップをテーブルに置き直してやめてしまったからである。


「あのね、北村君…」

まずいな…僕の気づかない間にマリアさんの気に触る事を言っちゃったのかもしれない。

気まずい間が差した後、マリアさんがゆっくりと口を開いた。


「り、寮母さんって親しみを持って言ってくれてる事は分かるんですけど、マリアさんまだ若いんですよ!!」


…な、なるほど? 寮母さんって名前のイメージなんて考えたことも無かったけど、マリアさんにとっては大きな問題だったみたいだ。


「私は皆さんのお姉さんでありたいんです!」

女性の人で年齢気にする人って本当にいるんだなぁ…

マリアさんは今お幾つ何ですかと言うのはNGワードなんだと僕はこの時知ることが出来た。


「北村君、困りごとやお悩み事があったら私に教えてもいい事ならどんどん相談してね。お姉さんそっちの事いっぱい知ってるから力になれると思うから!ね?」


マリアさん…悩みや相談が出来る人が身近にいるのは凄くありがたいんですが…

その、何かある度に身を乗り出す必要は…無いのかなって…僕個人としては色々困ってしまうよね、マリアさんには言えないけど。


「んー? どうかしたんですか、北村君?」

マリアさんは多分誰であってもこんな風に人との距離が近いんだろうな…

クラスメイトとかにいたら距離感間違えそうで怖いけど、立場も年齢も違うから変な事が起きない限りは大丈夫。 


「あの…事務的な手続きとか、書いてきた書類があるんですが…マリアさんが寮の管理人と言う事で、マリアさんにお渡しすれば宜しいでしょうか?」


僕は惑わされない、これから約3年はお世話になるんだから気をつけないとね。


「あっ、ごめんなさい!そうよもうー、その為に飲み物も淹れたのにー、北村君ありがとうございます」

色んなお話してたので仕方ないですよとフォローを入れる。

僕は貴重品などを入れていたバックからファイルに入った書類を取り出してテーブルの上に置く。


「最近ぱって思い出せない事があって困っているんですよねー、北村君とかにはやっぱり敵わないって事なのかしらね」


マリアさんも何か立ち上がって外に向いている机の引き出しを開けている。どうやら書類を探している様だった。


え、でもマリアさんてまだお若いんですよね?

「そうよー、はい新入学生様の書類関係はこれで全部だからわたしておきますねー」

テーブルの上のクリアファイルを交換してお互いに確認する。


このプリントは…ここで確認して記入したほうがいいですか?


「そうねーそっちの方が後々都合が良いかも、お願いできますかー?」

勿論ですともと言う代わりに僕は首掛けのバックの中からボールペンを取り出した。


「あら北村君、準備いいねー」

ボールペンと判子は持ち歩いておくと便利だって親から言われたもので…僕は自分の住んでいたの住所や、必要事項を記入しながらマリアさんと少し話をする。


「知ってはいたけど、北村君そんな場所から来てたのね。今日はご苦労様でしたねー」

そんなに極端に離れているという訳でも無いですよ、全部合わせて1時間掛かる位ですからね。


「1時間ともうちょっとかかるくらいなら寮生活にすればいっかーって感じなのね」

まぁ、そうですね。 部屋代とか諸々含めたら寮の方がいいよねってなったので…


「ふむふむ?」

マリアさんはティーカップを片手に何か考えている様だけど…一体なんだろう?

「分かった! ずばり北村君はお寝坊さんなんでしょ!」

実家から通勤時間すっごく早くなっちゃうから近くに移住出来るならそっちの方が良いんだって言うのが理由の一つにはあるから概ね正解ですね。


「でも都内に住んでるのならー、学校なんてそれこそ選びたい放題だったんじゃないのかしら?」


マリアさんのいう通り、この学校以外にだって似た様な学校がなかった訳じゃない。 でも、地元の友達も殆どいない僕にとっては別に何処でも良かった。

それよりも僕には嫌だと思う事があったからなんですけどね。


「そうなんですねー。あんまり力になれるか分かんないけど、私に出来ることがあったら相談してね?」

マリアさんは僕に向かって優しく微笑んだ。


「書類の方は大体書き終わった感じです?」

一先ず僕が書ける所は全て書き終えたつもりですけど…

「大丈夫、何か訂正して欲しいとこがあったらまとめて連絡しますからねー」

マリアさんはプリントの束を整えてファイルにしまう。

「ここからは長くなるんですけど、この学生寮のルールとか簡単に説明していきたいなーって、北村君構わないかしら?」

お、お手柔らかにお願いします…

「そう? ならお姉さん張り切って説明するからねー!」


寮にについての説明は身構えていた程の事は無かったよ。寮の生活の決まりとかだったし…


僕がそこまで大きな反応もせずに聞いていると説明しているマリアさんが時々リアクションを求めてきたのはちょっと困ったけどそれ位だった。


一つだけ厄介なのは、夕方から朝にかけて出さなければいけないゴミ捨てくらいだと思う。

実家暮らしの時には殆ど気にせずにいたからこれは覚えないといけないね。


「大体分かって貰えたかしら?」

そうですね、後は野となれ山となれ…じゃなくてなんとかなると思います。 すみません、引越しの日程とかずれ込んじゃいまして…


「うんうん、気にしないでいいですよー。 あ、そうだ。入学前のガイダンスの内容とか配布物はお部屋の机の上に置いてありますから、確認しておいて下さいねー」


マリアさんは管理人室の窓側の机の引き出しから茶色の封筒を僕に手渡した。


「はい、これは北村君の部屋の鍵だよー、203号室だね。 家具は基本的なものは揃っているけど備品っていう扱いだから大事に使ってねー」

203号室ですね、分かりましたありがとう御座います!!


部屋の鍵は貰ったし、

僕は封筒を受け取り、部屋を出るのをマリアさんはニコニコと微笑みながら見送っていた…


…ふぅ、なんだか緊張した。 部屋の鍵を手にして一人になった途端に変な汗がどっと出た気がする…

管理人さんはいい人そうだし、問題は無さそうだ。

階段を一段ずつ上がってく事に心臓の鼓動が煩くなる。

入試の前の緊張を思い出す位に、僕には今良い意味でのストレスが降りかかっているんだ…


書いた書類も二回見直して問題は無かったし、管理人さんのマリアさんには今日のうちは会う機会は無いだろうなと僕は思っていたんだけど…


この後大急ぎで管理人室のマリアさんを呼びに行くことになるんだけれどそれはまた後でする事にするよ。


次回へ続く!

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