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とある夜会にて①

「どうしてくれるんだミルフィ!俺の服を台無しにしてくれて!!」


 天井に輝くシャンデリアは夜空の星々を集めたように煌き、国一番の演奏をする楽団はダンスを踊らなくても心地よい音色を耳に届けてくれる。


 そして見目麗しい料理に、細工の美しいグラスに入った極上のお酒。アルコールが苦手な方の為には名産地から取り寄せか果実のジュースも数種類用意されている。


 ここは王城の夜会会場。


 本日は国王陛下の気まぐれで開催された気軽な夜会。


 そうして年頃の男女は親がこっそりセッティングした相手と運命の出会いをして、薔薇が咲き誇る庭の茂みに隠れてホニャララしちゃう……かもしれないけれど、そこは自己責任で。

 

 あと、夜会名物である女性同士のキャットファイトもあるかもしれなくて。


 そんな煌びやかで人間ドラマが凝縮されたこの場で、感情の赴くままに怒鳴りつけた男──ルイム・バザックに対して、その婚約者であるミルフィ・メイリは冷めた表情を浮かべている。


(どうもこうも、貴方がお喋りに夢中になりながら歩いて殿下とぶつかりそうになったから止めただけですよ?しかも腕を軽く引いただけ。それでよろめくなんて、日ごろ、どんな生活をしていらっしゃるの? もう少し身体を鍛えた方がよろしいのではなくて? あと、俺の服とおっしゃいましたが、貴方が着ていらっしゃるのは、わたくしの兄の服です。貴方は間違いなく兄の上着を貸りたとおっしゃいましたよね? あの……いつからこの国は、誰かから服を借りると数時間後に自分の物になる法律ができたのかしら。ねえ、教えて下さらない? アカデミーで補習の常連だったルイムさん?)


 なぁーんていうことを、ミルフィは一気にまくし立てみる。頭の中で。


 本当は口に出して言いたい。だがしかし、ここは王城の夜会会場。しかもすぐ近くに第二王子ことフェルド殿下がいらっしゃる。ついでに付き人である自分の兄ディアスも。


 殿下に良い顔をしたいわけではないが、今日この日を楽しみにしていた人たちは沢山いる。


 だからこれ以上、この場の空気を悪くするべきではない。


 そう判断したミルフィはぐぐぐっと感情を抑えて、未だに喚き散らすルイムにハンカチを差し出した。


「どうぞ、お使いください」


 ごめんと言わないのは、せめてもの意思表示。


 あと、躾のなっていないバカ犬のように騒ぎ立てているが、彼の上着の染みはミルフィの小指の爪より小さい。つまり急いでハンカチで拭き取ればかなり目立たなくなる程度のそれ。


 なのにルイムは───


「ふざけるな!」


 あろうことか、差し出されたハンカチを手の甲で叩き落としたのだ。


 あまりの仕打ちに、たっぷりとレースをあしらったハンカチがひらひらと地面に落ちる様を、ミルフィはぼんやり見つめることしかできなかった。

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