表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

会津遊一 ホラー短編集

殺意の沈黙

作者: 会津遊一
掲載日:2009/08/02

僕には、鳴き声が聞こえた気がした。

だが、キョロキョロと周囲を見渡すも、それらしい光景は目に入らない。

辺りは鬱陶しい人混みや交通渋滞で、五月蠅いほどの騒音に包まれているのだ。

大抵の小さな音など、街にかき消されてしまうだろう。

だが、僕の足は引き寄せられる様に、鳴き声がした方向に歩き出していた。


声の元を辿っていると、いつの間にか僕は裏路地まで入り込んでいた。

だが、特に気にすることもなく、ビルの隙間、1人が通り抜けるのがやっとの通路を抜けていく。

すると、片隅に青いゴミバケツがぽつんと置いてあるのを見つけた。

周囲には沢山の蠅がブンブンと不快な怪奇音を奏で、冷えた嘔吐物とアンモニアの臭いが充満している。

僕は迷わず近寄り、ガムテープで補強されている蓋を開けた。


中には死にかかった一匹の猫がいた。

黒くなったバナナの皮や、蟻が集まっている弁当箱の上に横たわっていた。

ブクブクと赤い気泡を吐き出しつつ、哀れな声で鳴いていた。

激しく酸素を求めているらしく、腹部を大きく動かしている。

急に怖くなった僕は慌てて蓋を戻し、その場から逃げる様に走って帰った。


家の中に飛び込み、靴を脱ぎ散らかし、水道に口を付けて水を飲み干した。

どうにも胸の奥が熱くて、無性に喉が渇いていたのだ。

激しく水飛沫が舞い、ワイシャツの胸元がビショビショになってしまった。

水分を取って少し落ち着いたのか、僕は部屋の中を見渡した。

どうやら母はまだ仕事から帰って来ていない様で、テーブルの上には簡単な晩ご飯がラップに包まれている。

僕は濡れたワイシャツを脱ぎ捨てると、上半身が裸のまま冷めたチャーハンを食べた。

お腹はふくれたが、このままではカゼを引きそうだったので、とりあえず湯につかることにした。

家のお風呂は24時間沸騰しており、何時でも入れるというのが今日は嬉しかった。

僕はゆっくりと肩まで沈め、心も体も暖めた。


明日も早く家を出るので、僕は早めに布団に潜り込んでおく。

そういえば、まだ登校の準備をしていなかったが、早朝にやれば良いかと思った。

暫くはモゾモゾと身体を動かしたりして寝返りをうつ。

足の裏だけが奇妙なほど熱を持っており、心臓の音は激しさを増すばかりであった。

眠れない理由は分かっていた。


気が付けば、僕はパジャマのまま家を飛び出していた。

外はポツポツと小雨が降り始めている。

だが、僕の足が緩むことはなく、全力で商店街を駆け抜けた。

途中、酸欠で意識が朦朧としていたらしく、携帯ばかり見ていたサラリーマンとぶつかって転倒してしまう。

少し膝を擦りむき、出血していたが、僕は直ぐに立ち上がった。

あの路地裏まで急いで行きたかったのだ。


僕がゴミ箱の蓋を持ち上げると、まだ猫はいた。

腐った灰色の汁と赤い血が混ざった液体から頭だけを出していた。

猫は心から空気が欲しかったのだろう。

ザラザラとした長い舌を付きだしたまま、はく製の様に動かなくなっていた。


僕は、それをヒョイと持ち上げ、股の間をのぞき込んだ。

逸物は付いていないので雌猫だった。

瞼が接着剤で固定され、開けない様になっている。

指がねじ切られていた跡があり、片腕だけは根本から引っこ抜かれていた。

尻尾から頭まで鋭利な傷が繋がっているのは、きっとハサミで切り裂き、皮を剥ぎ取ろうとした痕がある。

全身の骨は砕けているらしく、何処に触れても湿った雑巾の様な感触しかしなかった。


更に雨脚が強まったらしく、濡れたパジャマがピッタリと僕の素肌に吸い付いていった。

猫を握っている手にまで、どす黒い赤色が染みこんでいく。

僕は上着に血を擦りつけると、近くに落ちていた石を掴み取る。

丁度、段差が出来ている所があり、まるで祭壇に置く様に猫をアスファルトの上にねかせた。

口をだらしなく開けているので、そこに雨が降り注ぐ。

僕は石で猫の頭を砕いた。

薄っぺらい肉を叩いた音がした。

全てが雪崩れ込む排水溝に、一本の赤いラインが流れ込んでいった。


僕は猫を戻し、家に帰って布団に入った。

今度は直ぐに眠りにつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ