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第34話 才能を伸ばす才能

 夕食


 いつものように先生を含む四人での食事だったけど、この日は僕の発案でメニューの一つに鳥がらスープにワンタンを入れてもらうようにお願いしていた。


 いずれは塩ラーメンや豚骨ラーメンを作ってもらおうと思っているけど、その前にワンタンで試してみたわけである。


 出来上がりはワンタンスープというよりも、ラビオリが入ったスープパスタみたいになってしまった。これは料理に疎い僕の伝え方が悪かったように思う。


 それでも人気ラーメン店の店主がテレビで教えてくれたスープの作り方をそのまま真似したので味は保証付きである。


「何杯でもお代わりできるぞ」

「ううっ、これは魔法のスープです」

「なんて深みのある味なんでしょうね」


 それでも三人とも大絶賛だったので大満足だった。(といっても、やっぱり醤油と味噌がないので僕は不満だけど)


 お母さんが見よう見まねで自家製味噌を作っていたけど、時間を掛けた割に不評だったので一回で止めたが、今なら僕も味の感想が変わっていたかもしれない。



 相談


 新しいメニューを気に入ってくれたグラシス先生が僕のアイデア出しを褒めてくれて、ご飯を食べながら別の案件について相談を持ち掛けるのだった。


「パーティーで喜ばれる出し物ですか」

「そう、近所の人たちと持ち回りでやってるお食事会なの」

「何人くらい出席するんですか?」

「百人くらいかしら」

「客層は?」

「子供からお年寄りまで幅広いのよね」


 だとしたら奇をてらった料理は歓迎されない可能性が高い。そこで前々から試してみたいと思っていたことを提案してみることにした。


「だったら氷を振る舞うというのはどうでしょう?」

「氷? 王都には貯氷庫があるけど、ここら辺には……」


 古くから雪氷を利用した保冷技術があることは見当がついていたが、やはり夏場に贅沢できるほどの余裕はないようだ。


「その貴重な氷をコツブに作ってもらうんです」


 先生が目を見開いて驚く。


「コツブさん、そんなことまで出来るの?」

「それくらい簡単にできるんだ」

「すごいじゃない!」

「うん」


 先生に褒められたのが嬉しかったのか、照れながらも鼻をピクピクさせながら喜ぶのだった。



 実験


 パーティーを開く前に、どれくらいの氷を生産できるか調べることにした。実験場に選んだのは軍学校の運動場だった。


 翌日のお昼過ぎに四人で訪れたが、見た目も大きさも中学校のグラウンドと変わらなかった。


「お水とか用意しなくても大丈夫なの?」

「うん」


 先生は半信半疑だが、コツブは平然とした顔をしていた。


「じゃあ、ゲンコツを降らせるぞ」


 コツブは氷のことを、そう呼んでいる。


「ここに立っていても平気なの?」

「大丈夫だ!」


 すると何もない空に厚い雨雲が発生して、飴玉のような雹をザザッと降らせるのだった。


「すごいよ!」

「ううっ、コツブちゃんは天才です!」

「これくらいはなんてことないんだ」


 謙遜するけど鼻高々だった。


「もっと大きな雹を降らせることって出来るのかな?」

「大きな?」


 僕の問い掛けにコツブは首を捻るのだった。


「そう、それこそ握りこぶしのような氷玉さ」

「わからない」


 実際に地球では気象条件によってはサッカーボールと同じ大きさの雹が降ってくることがある。


「できるかな?」


 首を傾げるので、具体的に説明することにした。


「空の上はね、凍るほど冷たい場所と、氷が解ける場所があって、雲の中で上に行ったり下に落ちたりを繰り返すことで、氷がどんどん太って大きくなるんだ。元々水というのは勝手にくっつく性質があるからさ」


 大きな雹はマトリョーシカのような構造をしており、製氷機で作られるような一つの大きな氷玉になっているわけではない。


「だから雲の中で氷を落とさないように上から下に行ったり来たりさせれば大きくすることが出来ると思うんだ」


 説明を聞いたコツブがコクリと頷く。


「やってみる」


 すると、いとも簡単にボーリング球のように重そうな雹を降らせるのだった。(さすがに割れて原型を留めたのは一つもないけど)


「これは、頭に当たったら死んじゃうわね」

「ううっ、危なかったです」

「おらっちも気をつけないとな」


 自分でも己の恐るべき能力におののいている感じであった。


「氷を落とす場所をコントロールできないかな?」

「おお、やってみるか!」


 それで指定した場所にピンポイントで氷を降らせることができるから凄い。


「じゃあ今度はもっと大きな氷を作ってみせるぞ!」


 ノリノリだった。


「あれ?」


 しかし気持ちに反して、空には何も変化が起こらなかった。


「あれれ?」


 いつものように雲が集まってくれないのである。


「言うことを聞いてくれなくなっちゃった」


 そう言うと、コツブがしょんぼりとしてしまった。


「多分だけど──」


 考えられるのは一つ。


「上空に湿った空気が無くなっちゃったんだよ。いくらコツブでも、水そのものが無ければ雨や氷を降らせることはできないというわけだ。おそらくだけど、少し時間を置いたらまた雨を降らせることができると思う」


 それを聞いて安心したのか、コツブがすぐに元気な表情を取り戻した。


「ちょっと頑張らさせすぎちゃったな」


 そこで僕の身体をよじ登って、充電するかのように背中に抱きつくのだった。



 グラシス先生の思いつき


 それからアポロス邸に帰ったのだが、先生から大事な話があるということで、研究室で話をすることになった。


 いつもの事務机ではなく、応接用のソファで向かい合って、お茶を飲みながら話をした。


「観察して思ったんだけど、ユタカ君には魔法能力者の力を引き出したり、上手に力をコントロールさせたりする力が備わってるんじゃないかしら?」


 考えたこともなかった。


「コツブさん自身が引き出せていなかった最大能力を、コーチングすることで開花させたでしょう? これは簡単そうに見えて、実は誰でもできることじゃないと思うの」


 地球にいた時に見たネット情報のおかげだ。


「僕は科学的に説明しただけなので、他の方が教えても同様の結果が得られたと思います」

「そうかもしれないけど、現時点で指導できる人は限られているのも事実なのよ」


 僕には地球で得た現代知識があるので、他の人よりも大きなアドバンテージがある。


「将来的には魔法学校がその役割を担うかもしれないけど、今はユタカ君にお願いすることしかできない」


 お願い?


「王女が湖上の城に隔離されていることは知ってる?」

「はい、真似鳥から教えてもらいました」

「あなたなら王女様を救えるかもしれない」


 僕が王女を?


「私も話を聞いただけだから詳しくは分からないけど、王女は火魔法の能力があって、その能力を制御できなくて苦しんでると思うのね。だからユタカ君なら上手くコントロールできるように教えてあげられるんじゃないかと思って」


 こればっかりは実際に会ってみないことには分からないことだ。


「僕でお役に立てれば良いのですが」

「試すように打診してみましょうか?」

「はぁ」


 自信がないので曖昧な返事になってしまった。


「じゃあ、決まりね」


 明確に否定しないとイエスと受け取られるようである。


「それじゃあ早速お手紙を書くとしましょう」


 ということで、数日後には王室から伝令が届いて、正式に許可が下りて、王女のいる旧都へ行くことが決まった。

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