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第23話 冒険者事情

 街ブラ


 コツブのおかげで生活に余裕ができたということで、仕事探しをする前に街をぶらつくことにした。といっても郵便村は実務的なので観光できる場所はないけど。


 それでも僕にとって異世界そのものが観光地みたいなものなので何を見ても新鮮に感じられるのである。


「いいなあ、いつかあんな立派な馬車に乗れたらなあ」


 官公庁の建物が建ち並ぶ役場通りを歩いているのだが、役所に馬車で乗り付ける貴婦人を見て、ウルルがうっとりとした表情を浮かべるのだった。


 キャリッジと呼ばれる二頭立ての四輪馬車で、車体に装飾が施されており、車輪にまで塗装されているのである。


 目立つところに家紋が取り付けられているけど、これは交通ルールで優先権が与えられているという話だ。


「僕たちも乗れるように頑張ろう」

「うん」

「その時は僕がウルルをエスコートするから」

「ううっ、うれしい」


 コツブが自己主張しないのは珍しいと思ったが、いつの間にか僕の背中を寝床にしてお昼寝しているのだった。



 服装


 やはりウルルは女の子ということもあり、お金持ちの貴婦人が着ている服に強い興味を抱くのだった。


 街角に立って、行き交う人を観察するのだが、それを飽きもせずにずっと見続けるのである。


「はぁ、お人形さんみたい」


 フリフリのドレスを着た小さな女の子を見て目を輝かせていた。やっぱりオシャレをしてみたいのだろう。


 それとは別に、この世界の時代区分についてだが、都会の服装を見ると、かなり先進的な時代であることが判った。


 最初はジャガトマ以前の中世ヨーロッパのように思っていたけど、どうやら大航海時代以降の文化も混在しているようである。(あくまで地球の世界史になぞらえたらの話だけど)


 おそらくだけど、僕が転移してくる前に自由航海時代があって、すでに世界中の文化の一部は伝播しているけど、魔物が出現したことによって極端に行動が制限されたような、そんな文化の混ざり方が見て取れるのである。


「わたしも着てみたいな」

「いつかプレゼントするから」

「本当に?」

「約束する」


 誰よりも僕がドレス姿のウルルを見てみたいと思っているから、これは自分との約束みたいなものだ。(その時はコツブの分も用意しないと拗ねちゃうかもしれない)



 格差社会


 村を取り囲む居住区には富裕層とそれ以外での住み分けがあるように、役場町にも目に見える形で貧富の差が存在していた。


 片側二車線の馬車道一本挟んだだけなのに、片方の地区は社交場や学校や劇場があるのに、もう片方には仕事を求めて役所に並ぶ人がいるという、そんな格差だ。


 建物も石やレンガが使われているのは同じだけど、色使いや装飾性に大きな違いがある。


 この村で貧困層による格差是正を求める政治活動が見られないのは、郵便村自体が他の地域と比べて裕福だからだと思われる。


 食糧倉庫が空になったことがないということで、結局は食い物の備蓄が万全で失業率が悪くなければ国内政治は安定するというわけだ。(あくまで国内政治に限った話だけど)



 職業紹介所


 これまで訪れた村の人たちも言っていたけど、「仕事が欲しいなら郵便村に行け」という言葉があるくらい、常に求人があるそうだ。


「たくさん並んでます」


 ウルルが目にしているのは仕事を求める人の行列だ。


「行列にも特色があるようだ」


 機能性だけを重視した面白味のない石造りの役所が何棟も連なって建っており、それぞれ目的別に行列を作っている様子が見て取れた。


「あれ? 袋を抱えて出てきた人がパンをかじってる」

「簡単な仕事をすれば食料が配給される、そんな仕組みがあるのかもしれない」


 かなりの年齢に見える労働者も列に並んでいるということは、高齢者でもできる仕事があるという証拠だ。


 さらに都会なのに郊外に死体が遺棄されていないことや、ホームレスの姿を見掛けないということは、救済システムもあるのだろう。


 これはでも例外中の例外で、飢饉がなく、税金の滞納がないから維持できているだけであって、一年後も同じシステムが存在しているか分からないところが、この世界の怖さである。


「武器を持った人もいるよ」

「すごいね、本物の勇者や戦士がいるんだ」


 ゲームや映画でしか見ることのできない剣士を生で見ることができるとは思わなかった。


「怖いけど、近くで見てみたいな」

「大丈夫だと思う」


 ということで、至近距離で観察することにした。



 冒険者ギルド


 冒険者とは読んで字のごとく、自ら進んで危険を冒す者のことである。この世界では依頼を受けて魔物を討伐する人たちのことを指すようだ。


 職業紹介所の中でも特別らしく、冒険者ギルドには行列がなく、待ち時間ゼロで受付に対応してもらえるようである。(成り手が少ないと思われる)


 役所の真ん前が乗合馬車の停留所になっているということもあり、そこで仲間を待つ冒険者二人をじっくりと観察することができた。


「いつまでこんな生活を続けなくちゃならんのかね」

「動けるうちは稼がせてもらうさ」

「四十で大金持ちになってる予定だったんだがな」

「散財まで世の中のせいにしちゃいかんよ」


 ベテラン剣士二人が馬車の台座に並んで腰掛けているのだが、運よく会話を聞くことができた。


「結局は王都の鉄砲隊に志願した方が得だったようだ」

「仕方ないさ、あちらは公務員様だ」

「歳を食っても、いい働き口を見つけてくれるそうだぜ」

「俺たちと違って尊敬もされるんだよな」


 顔が赤いので水筒の中身はお酒なのかもしれない。


「同じ仕事、いや、俺たちの方が貢献してきたのにな」

「村人はいいが、都会の奴らは地方の現実を知らんからな」

「知らないまま生まれて、知らないまま死んで行くんだぜ?」

「お気楽な人生だ」


 王都には魔物が出ないのだろう。それを食い止めているのが彼らなわけで、愚痴りたい気持ちは理解できた。


「しかし鉄砲も楽ではないという話だな」

「一発で仕留められるほど甘かないだろうからな」

「効果的な毒矢があればいいのだが」

「毒も即効性があるわけではないだろう」


 散弾銃やライフルのような殺傷能力はないようである。


「だが、いつまでも剣を振り回せるわけではないからな」

「しかし武器が強化されたら、俺たちゃお払い箱だぜ?」

「素人に仕事を奪われるわけか」

「そういうことだな」


 いつの時代でも、どこの世界にいようとも、人間は同じ問題で悩み続けるようだ。


「そもそも魔物のおかげで食えてるというのが皮肉そのものだもんな」

「まったくだ」


 地球における戦争が、この世界では魔物に置き換わってるだけのような、そんな感想を抱いた。


「ありがたく稼がせてもらうとするか」

「ああ、食われてたまるかよ」


 この世には間違いなく、生きるか死ぬかの仕事が存在しているということである。

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