怪人は吹っ切れる
前の話が思いのほか筆が乗って書きすぎてしまった結果、
二話に分割して投稿しております。
非常に長い話をしたが、真の問題はそこではない。
結局のところ私は怪人活動時の支援の繋ぎ役である。
つまりは残党狩りが終わったらお役目御免、
やめても別にいいのである。
だが、そう出来ない理由がある。
これもまた、彼女たちが原因だ。
「ナツさぁん…ふへへ」
「頑張った、なでて…」
「ナッさん!今度一緒に遊びに行こー!」
「ナツさん、今度私の家に来ないか?」
「ナツさん…膝枕お願い出来ますか…?」
そう、全員何故か異様なまでの好意を
私に抱いているようなのだ、
まぁ親愛の類であろうが。
そもそも私は大したことはしていない。
そもそも自堕落な生活をしていたが故に
友人関係を保つ最低限の付き合いしかしておらず
そんなに関わりも無かった筈なのだ。
なのに好意を抱かれている状況に頭痛を覚える。
家の場所や諸々の個人情報は社長の手によって
硬く守られており、今のところバレていないが、
もしも会社を辞めようしようものなら
即バレしそうで怖い。
そして…最高に意味不明なのには理由がある。
私は…
私は!!!!元々女である!!!!
ア゛ァーッ!なんなんだァ!なんで
そんなに好き好きオーラを漂わせながら
近付いてくるんだァーッ!
私はノーマルだ!完膚なきまでに
普通の性癖だ!!私を百合の園にブチ込もう
とする奴は誰だ!誰なんだ!!
男になれるからノーマルだァ!?
そんな事言ってる奴はどこの誰だ、
地の底まで追いかけて殺してやるからなァーッ!?
内心で荒ぶる獣を押さえつけ、
なんとか彼女たちに返事を返す。
「友音さん、お疲れ様です。少しばかり
離れて頂けますか?身動きが取りにくいので。
瑞希さん、少しばかり待って下さいね?
沢渡さん、後で予定を確認するので
返事は後ほど。
烈華さん、親御さんの許可は大丈夫ですか?
爽さん、それは瑞希さんの願いを叶えてから
でよろしいでしょうか?」
「「「「「はぁーい」」」」」
なぜここまで返事が素直なのか…
◆◆◆◆◆◆◆◆
あのあと、全員の願いを叶えてから作業をはじめ、何とか定時に帰ることができた。
うう…疲れた…でも明日は休日だ!つまり自堕落ライフを満喫できる。
わーい!軽くスキップを始めそうになったが、時間も時間で私の年齢でそれをすると
確実に変人扱いのちに通報待ったなしなのでとっさに止める。
うう…明日は久しぶりの何もない休日なのだ。彼女たちにも何の予定も入れられていない
最高最善の休日なのだ。なにより誰とも会わなくてもいいというのが最高だ。
そう思ったら気が楽になって、家に帰る足を速めるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
朝起きると、スマホが鳴っていたので手に取る。
せっかくの休日に何なのだ…
すると、友人時代から引き継いでいた彼女たちとのSNSアプリのアカウントの連絡先に連絡が来ていた。
何が書いてあるのかと見てみれば、
『沢渡さん; 今日のお出かけ楽しみですね』
『沢渡さん; (≧▽≦)』
…あれ?私…昨日なんて約束したっけ…?
えーと、「土曜なら空いている」って
返したよね…あ。
…時間を確認する。元々習慣として早起きなので別に時間を心配してはいない。
六時。まあ妥当だろう。休日であれ睡眠時間は変わらない。
約束の時間は…うん、大丈夫だ。
支度をしようとして、動きを止める。
私は…何をしているのだろう。
私の中の何かが弾けた。
「ア゛ァーッ!なんで休日なのに
自由に行動出来ないんですかねぇ!?
なんで毎週毎週誘ってきては一緒に
遊ぶことになるんです!?
もう嫌だもう嫌だ!」
それは積もり積もった不満だった。
何故か好き好きオーラで近寄ってくる
彼女たちに対する
苛立ちだった。それは、私に今まで躊躇っていた
ある行動をさせるに十分な火力を誇っていた。
そう。
「もう辞めてやるあんな会社!!
地球の果てまで逃げてやるーッ!」
この日、影山夏は会社を辞めることを決意した。
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