怪人は社畜
新連載です
「あとすこし…あとすこし…」
霞んだ眼を擦りながら、資料をまとめる。
こんなブラック企業に勤める
社員のようなセリフを吐いているのは
この私、影山夏だ。我ながら名前と
苗字がかみ合ってないと思う。
「うう…ちかれた」
別にブラック企業に勤めているわけでもなく、
なんなら以前の職場に比べたら超絶ホワイト
でクリーンな企業だ。ちゃんと給料も
しっかり出るし、有休も取らせてもらえる。
だが、二つだけ問題がある。
まず一つ。業務内容だ。
私の基本的な業務に関してはさほど問題はない。
しかし、その他の業務が問題なのだ。
「いや~今日も疲れたね!」
「今日の敵…強かった」
「うちらなら余裕余裕!」
「おうよ!」
「まったく…調子に乗ってるとまた足元を
救われますよ」
そう、彼女たちの存在だ。
とある天才が何をトチ狂ったのか
一般人などを利用した人体実験を開始、
特撮の怪人のようなキメラ生命体を作り出し
その力による世界征服を計画していた。
それに対抗したのが彼女たちである。
誰が言ったか「五花の魔法少女」。
悪の天才は彼女たちによって葬られ、
今はわずかな残党を残すのみとなっている。
そんな彼女たちを支援するのがこの会社であり、
現在ほぼほぼ業務は終了し、
これからは普通の技術開発産業などを
営んでいくようだ。
しかし私はここにいる気はない。そもそも
私は怠けるのが大好きな自堕落人間である。
これから忙しくなりそうな職場で、
これ以上働きたくはない。
それにお金も老後を余裕で過ごせる、
というか詐欺に遭っても数千万単位であれば
なお大丈夫な額が溜まっている。
結果の所辞めたいのである。
この会社に所属しているだけで著しく
能力が高いように思われるし、
なんなら英雄扱いされて煩わしいのだ。
どこか、ネット環境や交通面がしっかりした
準都会の様な場所で余生を過ごしたい。
しかし、ここで問題がある。
「あ、ナツさんだー!」
赤髪の彼女は赤坂友音。
彼女たちのリーダー格であり、
他のメンバーのまとめ役となっている。
「あ…こんにちは…」
水色の髪の彼女は羽田瑞希。
友音含めた他メンバーにとっての
マスコットであり、よくお菓子を頬張っている
のを見かける。
「こんちわー!ナッさん元気ー?」
金髪の彼女は笹谷礼華。
チームのムードメーカーであり、
場を盛り上げている。
「おう!ナツさんは元気か?私は元気だ!」
橙色の髪の彼女は沢渡烈華。
チームの最年長であり、姉御肌のさっぱりとした
性格から、他のメンバーに慕われている。
「こんにちは、ナツさん。相談なんですが
…この二人の楽観的考えどうにか
なりませんかね…?」
黄緑色の髪をした彼女は藤原爽。
いい意味ではチームのブレインであり、
悪い意味では苦労人。誰よりも努力を怠らず
ここぞという時にはメンバーに頼られる。
この五人に私が仕事を辞められない
最大の理由がある。
私がこの五人とこの会社の繋ぎ役、という点だ。
そもそもの所、この会社は社長という名の
彼女たちのファン共のまとめ役が作ったものである。
そこに多数のファンや、開業当初唯一であった
天才に対する対抗策たる彼女たちに
対する支援を行いたい国の援助によって成り立った。
しかし、彼女たちはそれを受け取るだろうか?
否。極論を述べるなら自分たちの
追っかけをしている変態共の集まりである。
そんな輩からの得体の知れない支援なんぞ御免だと
真っ向から否定された社長の心は
一時的に灰になったそうだ。
しかし諦めない社長の信念は彼女たちの心を動かし、
「天才に怪人にされたものの、人型を保って
人の心を持った奴を仲介人として雇うなら
応じる」という返事を返させたらしい。
当時の彼女たちは叶うはずのない無理難題を
押しつけて支援を逃れようとしていた。
かの天才が作ったキメラは総じて異形であったし、
実験の末に理性なんぞパーだ。
つまりはいるはずのない人材たったのだ。
…私がいなければ。
あの類稀なる天才は
「あの少女たちを殺すなら
正攻法ではなく暗殺が最適では?」
とかいう考えを出しやがったせいで
当時捕まっていた私は両性怪人ドッチナーノ
とかいうクソみたいなネーミングセンスの
怪人にされたのだ。
というかあの天才は
その後の活用すら予見していたらしく、
男性態と女性態を自在に使える仕様にしたのだ。
その計画は、私が生きてることでわかると思うが
当然ながら失敗した。
そもそも、私に施されたキメラ実験は
理性がパーにならないように
私に配慮された実験だった。その上、
性格気質も『自然さを〜』とかなんとかで
元のままで維持されている。
まぁ逆らえないよう自爆装置は仕込まれていたが。
つまり、改造しても大して
私は変わらなかったのだ。故に自堕落な生活を
しながら彼女たちに接触して友達関係を維持して
いる程度の生活を送っていた。
…まぁその過程で怪人バレした結果、
本気の命乞いで助けて貰い、
自爆装置も外してもらえた。
ただし、その結果として社長に目をつけられ、
彼女たちの繋ぎ役にされ、今に至ると言うわけだ。
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