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しばらくして、メルは複数人の侍女をつれてきて私のこの腫れたお顔をケアしてくれる。一人は顔に冷えたタオルを目元にかけ、一人はその間に爪を整えたり手足をマッサージする。一人は髪の毛を整え、もう一人は着るドレスを選んでくれていた。まさにプロである。この世界の貴女は、幼い頃から踵の高い靴を履くため、脚が張ったり浮腫んだりしやすい。
しかも靴の構造が悪いのか、指先が痛かったりする。世の中の貴女はみんなこの痛みを耐えているのか、と思うと泣きそうになった。
「お嬢様、どうでしょう。」
「……誰この美人」
「お嬢様です。」
小さい子の顔の特徴として、顔の大きさに合わない特有の大きい目。ふっくらとした頬やまん丸の顔。それを味方につけ、清楚でとても可愛らしい顔になった。
ドレスはふわりとした純白な絹の生地にバラの花びらを散らしたような、まるでお花の妖精のようだ。
しかも、ティファニー・ルーセは元々顔がとても良い。なぜ婚約者はこんな美人で可愛らしい顔立ちのティファニーを振るのか、私が男性なら絶対に手放さないのに。ちんちくりんなのか、婚約者は。
「皆もありがとう。さっそくいくわよ。」
コツコツと音を鳴らしながら、長い廊下を歩く。無駄に長い廊下は様々な彫刻がされており、高級な絵画が飾ってある。全部売れば家建てられる、絶対に。
「お嬢様、この扉の先に旦那様方がいらっしゃいます。」
「わかったわ。では、メル以外の者は下がっていいわよ。」
「仰せのままに」
メル以外の者が下がるのを見てから、目の前にある大きな扉をすぐそばにいる執事に開けてもらう。扉の先はどれも煌びやかで座って待っているティファニーの家族がいる。ティファニーには兄が一人と弟が一人、妹が一人いる。特に仲が良いわけではないと、メルが言っていた。それにしても親も美男美女だが、その遺伝子を継いだティファニーの兄妹達も顔が整っている。
「遅れて申し訳ありません。」
「気にしなくても大丈夫よ。まだ体調が万全ではないでしょうし、早くお座りなさい。」
「ありがとうございます。お母様。」
ティファニーの母、ロズリーヌ・ルーセ。名の知れた侯爵家生まれでアクセサリーを主とした事業を立ち上げ、裁縫や礼儀作法だけではなく商売、数字の計算などと言った男性が行う仕事も軽々とこなせるスーパーウーマンだ。それにしても、顔も美しく礼儀作法や裁縫などといった女性が行う分野も難なくこなし、この世界の男性が行うべき仕事を何事もないようにこなせる母はすごすぎる。
なぜティファニーは悪役に育ったのか、やはり恋は恐ろしいものだとしみじみ思う。
この世界の字は今世の記憶か、問題なく読み進めることができる。それは礼儀作法ももちろん、これまでティファニーが行ってきた勉強はわかるのだ。また、ティファニーの母の情報はメル含む従者の方々と貴族本という本を読みまくり暗記した部分である。「とても優しく、従者の我々にも気を遣ってくれる優しい奥様」それがこの館のお母様のイメージ。
父の方も聞いたが、「冷酷な旦那様」「たまに優しくなる冷たい旦那様」とか結構な言われようをしている。