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コンコン、とドアをノックする音が聞こえる。急いで机の引き出しに手帳と羽ペンを入れて、布団に潜りたぬき寝入りをした。ガチャとドアノブが回される音に、身体がピクッと反応し硬直するのがわかった。
「お嬢様?失礼致しますね。」
メルの優しい声に身体の緊張が溶けた。頭の上まで被っていた毛布を持って身体を起き上がらせ、「メル…」と声をかける。メルを見るとワゴンを私のすぐ横まで引いていて、ご飯がすぐ食べられるよう準備をしていた。
部屋に充満する優しいお米の匂い…顔には出ていないがものすごく今お腹が空いている。まだかまだか、と思いメルの動きを見ていると、腹の虫がグゥゥゥと音を鳴らした。思わずまた顔まで毛布を被り、赤面した顔を隠す。
メルは目を見開き私を凝視した後、優しい顔で見つめる。恥ずかしい…。
「ふふっ、お待たせして申し訳ございません。胃に優しい料理と言われたので、私の家でよく食べていたものですが…おかゆを作ってきました。」
「ありがとう…」
おかゆの入ったお皿とスプーンを持たされ、私はふーふーっと冷やしながら口に運ぶ。
メルの家のおかゆはネギと卵が入っていて、味は出汁が効いているのかとても優しい味だ。日本を思い出させる味に、涙目になる。涙が出ると鼻水も出る、というが、こういう場面で鼻水と涙をダラダラ流しながら食べるのは絵面が少々……いやかなりひどい気がする。
二次元のように涙だけポロポロと流れないものか…。
「お、お嬢様!?き、気に入られませんでしたか?すぐ別の料理をお作りしますので…」
「ち、違う!そうじゃないの…そうじゃなくて、美味しくて涙が止まらないの。」
ティッシュ…と思って周りを見るが、ティッシュもなければタオルもない。どうしようかとメルを見ると、そっとハンカチを渡された。ポピーの花が刺繍されている白いハンカチ。こんな綺麗なハンカチに私の鼻水と涙をつけられるわけない。
「いらない…汚しちゃう…」
「大丈夫ですよ、お嬢様。予備はまだありますので。」
「……わかった。ありがとう。」
音を鳴らしながら鼻水を拭う私に、若干引いているメル。侯爵家の娘がこんなことをするのは恥ずかしいことかもしれないが、今日は…今日だけは許して欲しい。すすり泣きながらおかゆを口に運ぶ私に、微笑みながらおかゆを冷ましてくれるメル。
その日はたくさん泣いたからか、ぐっすりと眠りに落ちることが出来た。後日目が腫れて大変だったのは、ここでの秘密だ。