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メルの姿を見たときに、相手の情報…今世の私がみた感情、記憶が思い出された。きっと、相手の顔を見たら今世の私の知り合いも思い出せるだろう。だが…。
(誰か…状況を説明して欲しい)
明らかに西洋の建物に、前世より劣っている科学技術。このキングサイズのベッドから見るに、私はそこそこ良い家柄なんだろう。室内はピンクと白を基調に使われており、センスを疑いたくなるものだった。精神年齢25歳上にはきつい。足を曲げ、体育座りの姿勢でメルが来るのを待っていると部屋の前の扉から、声がした。
「ティファニー、入るぞ。」
部屋に入る前にそう告げた主は、扉を開け姿を表す。金髪の髪にブルーグリーンの瞳。たるんでいない身体とほどよい肉付きを見るに鍛えているのだろうと分かる。姿を見た途端、思い出されるティファニーの記憶。この男性は私の今世の父親。そして、乙女ゲーム『聖女は時をかける〜あなたは誰と恋に落ちる?』略して『セイトキ』の悪役令嬢ティファニー・ルーセが私であることを。
「ティファニー、どうかしたか?」
「……いえ、お父様。大丈夫ですわ」
ゲームの世界のせいなのか分からないが、父の顔は誰が見ても美しいと答えるであろう美貌を持っている。整いすぎた顔立ちは彫刻した人形のようで、触れるのを躊躇ってしまうほどだ。
父の顔立ちに圧倒されていると、ベッド横にメルがそっと近づき、水の入ったコップを渡してくれた。「ありがとう」とお礼を言い、乾いた喉を水で癒す。
水を飲みふぅ、と一息つくと、ベッドのすぐ横にある椅子に父は座り、足を組んだ。かなり様になる。
「ティファニーが倒れてから2日経った。触れた花は危険物と判断し、処分させた。どうやら東国からもらった種が紛れて混んでいたらしい。」
「そうなのですか、ご心配おかけしましたわ。」
「これも仕事だからな。私は失礼させて頂く。ティファニーの看病は頼んだぞ。」
「はい、ご主人様。」
父はそう言い放ち、さっと身を翻して顔を合わせることもなく部屋から出ていった。
あれは…心配してくれているのか?もしかして、あれが世に言うツンデレの“ツン”の部分だったりするのだろうか。とりあえず、父のことは後で考えるとして。
横に控えているメルに視線を向けた。メルは何を思っているのか、ずっと顔を下に向けている。前世に馴染みのある焦げ茶の髪。前髪は斜めに流していて、清楚なイメージを引き立たせる。
「メル、ごめんなさい。」