2話「かまってもいいですか?」
俺は、公衆電話の件について納得のいかないまま2人と別れた。その後は夕飯を食べてるときも風呂に入っている時も忘れようにも忘れられないまま色々考え込んでしまっていた。栗林の言う通り、忘れるべきなのだろうが…
「…!」
いや、でも、実は何か事件性が…
『兄さん!』
気がついたら妹の稲穂が俺の耳元で叫んでいた。
「もう少し静かに呼んでくれよ…」
と俺が静かに言うと、
『それは兄さんが反応しないからでしょうが!』
またもや耳元で叫んだ。俺の鼓膜を壊す気なのか?
「この家が完全防音だからといって大声出すなよな。今22時だぞ?明日のために良い子は早く寝なさい。」
これ以上大きい声を出させないように優しく指摘すると、顔を赤らめて
「だ、だって兄さんがボーっとしてたから…大丈夫かな?って…」
と言った。なぜ照れる?
「心配すんな、何でもない」
やべぇ、ミスった!
「兄さん、女の人と何かあったんだ?ね?」
稲穂は表情を変え、冷たい目で俺を睨んだ。稲穂の能力の1つ「正直者エアリッヒカイト」により、稲穂は俺の嘘から真実を見やがった。
「はい…ありました…」
と俺は小声で言った。稲穂は笑顔で
「まあ、正確には女の子と思われる人から公衆電話でプロポーズされたんだよね?それで相手はシュー先輩なのかな?かな?」
と言った。よく見たら目が笑ってない、怖っ。
「さ、さあね…誰だろ…」
俺がそっぽを向きながら答えると、稲穂はため息をついてから
「とにかく、兄さんみたいな優柔不断な人、誰も好きになりませんから!その電話も勘違いですよ!」
と言い、稲穂は部屋を後にした。俺って優柔不断かなぁ…
色々考えても答えなんて出ないし、もう寝ることにするか…
俺はそのままベッドに横になった
◇◇◇
ゴッ…ゴッ…
ん?なんだ?
ザシュ…キンッ…
何か騒々しいぞ…これは…まさか昔、流行していた異世界転移か!?
俺はすぐに目を開けて起き上がり、辺りを見渡した。すると…
「なんだ…これ…」
思わず口から言葉が漏れ出てしまう。
女子高生が生死を分けたマジのバトルをしているのだ。周囲からは悲鳴が絶えず聞こえ、血生臭い匂いが辺りを包み、床は紅の色に染まっていた。
俺はすぐに立ち上がり
「な、何やってんだ!やめろ!」
と、目の前で争っている女の子たちを止めに入るが、
「何で止めるんですか?」
「凪さんが始めたのでしょ?」
2人の女の子は俺を見て、不思議そうに言った。
◇◇◇
ジリリリリリ
目覚まし時計が鳴り響いた。
バン
俺は目覚まし時計を止め、時間を確認するとまだ午前5時だった。どうやら午前7時にセットしたはずが昨日間違えて5時にセットしてしまったようだ。
今日は何か変な夢を見た気がしたのだが、何故か全く覚えていなかった。まぁいいや、どーせ夢だ、現実じゃない。学校の課題も今日は珍しく無いので、時間が余ってしまった。暇だし散歩をするか。
自分の部屋を寝間着のジャージのまま出て、稲穂が起きないように慎重に階段を降り、玄関へと向かった。外に出ると、まだ春の始めだからなのか日が登りはじめたばかりでまだ少し暗かった。春とは思えない肌寒さを打ち消す為に、俺は玄関の扉の鍵を閉めてその場から走り出した。とりあえず目的もあるし、「壇の山」に向かいながらこの村について少し話そう。
俺の住むムーン村は5年前(西暦2055年)までは月岡と呼ばれるコンビニ2つ位しかない小さな農村だったのだが、5年前に起きた、「JKJ」と呼ばれる戦争によって東京を中心とした大都市が壊滅し、人間が住む地域が極端に限られたため現在は都会のような街に変わってしまった。世界の半分が失われたこの「JKJ」は俺の思い出の場所も、幼なじみも、記憶も消した…
と、少し感傷に浸っていると、壇の山のすぐそばまで来た。
壇の山にも3年ぶりに来たのだが、野山が人工的な町に変わったのを見て不思議と悲しく感じた。
俺が「壇の山」に来たのは単にここまで散歩しに来たのではない。俺の幼なじみの夜猫よねの墓参りに来たのだ。
夜猫よねはいつも壇の山にいる元気いっぱいの同い年くらいの女の子だった。
俺が初めて壇の山にいった時から気の合う女の子だった。
夜猫は一緒にいてとても楽しかったけど「壇の山以外で遊ぶことは出来ない」と言い、何故か壇の山でしか会わなかった。
俺の年齢が上がっていくと同時に公園に行く回数も減り、会わなくなっていった。
と俺の日記には書いてあった。
と言うのも俺には5年前から記憶がないのだ。稲穂曰く、「JKJ」で夜猫が亡くなり、俺は記憶を消されたらしい…この話をするとき稲穂は必ず悲しげな表情をする。だから俺は「JKJ」についてはあまり調べないようにした。
この壇の山に「JKJ」で亡くなった夜猫の墓に行けば何か記憶がつかめると思ったのだが、墓が見つからなかった。というか、記憶を失ってから初めて夜猫の墓に行くので本当にあるのかもわからない。色々辺りを探していると、壇の山にある公園から出る兎野原とばったり遭遇した。
「おはよう」
俺は普通に挨拶をすると、
「お、おはようごじゃいます!」
兎野原は噛みながら挨拶を返した。そして咄嗟に持っていた物を隠した。気になるなぁ
「朝早くから何してたの?」
俺が聞くと、兎野原は
「ご、ごめんなさい。は、早く帰らなきゃならないので、ここで失礼します!」
と言いながら何かを落とし、足早にこの場から立ち去って行った。
「なんか落としたよ?」
俺が拾い上げ、渡そうとした時にはもうこの場にはいなくなっていた。足速いんだなぁ。
拾ったものを見ると、お墓参りとかで使われるような線香だった。
あとで返すとして、最後に公園の中を見てから帰ろうとしたその時、公園の真横に何故か西洋式の十字架のお墓が見えた。名前のところに「YONE」と書かれてあるところからおそらく夜猫のお墓だろう。線香やろうそくが新しいものであることや、ろうそくがつけっぱなしになっていることから兎野原が墓参りしたのは間違いないだろう。夜猫と兎野原は知り合いなのか?
兎野原に線香を返す代わりに夜猫についても聞き出してやろうと決め、俺はこの場を去った。
そういや、なんか考え事してた気がしたのに忘れたな…ま、いっか!
その後、何故か兎野原に会うことが無いままなんと3週間が経過してしまった。てか、ここまで噛み合わないのは絶対、裏で誰か仕組んでいるか兎野原が避けているのだろ?
と、時間が経つと何かどうでも良くなってきて兎野原の用事も忘れてしまった。
俺、マジで地頭悪すぎだろ…
夕凪「何か展開強引すぎるんちゃう?」
作者「仕方ないんや…尺がな…」
夕凪「さて、次回は凶歩大会開幕!」
作者「新キャラ登場&事件発生!?次回も是非見てくれよな!」
夕凪「気が向いたら↓の星も押してくだせぃ」