私と彼女の読書交換
「できた?」
「もうちょい、美春さんは?」
「私ももうちょっとかな?」
放課後、私達は国語の授業の時出された課題をしていた。
課題はお互いに本のレビューを書いて、ペア同士でお勧めしあう。
というもので、私も、今ペアを組んでいる浅田美春さんも、
本がなかなか決まらず放課後に終わらせることにしたのだ。
と言ってもペアの一人が書いて出せばいいのでやらなくてもいいが、
私も美春さんも放課後残ってやることにした。
まぁ一番の理由は、読む本がなく何か読みたいと思っていたからでもあるが。
それにしても、と私は向かい側に座る美春さんを見る。
「…どうかした?」
私の視線に気づいたのか、そう尋ねてくる。
「いや、もうちょいという割にはすごい手が動いてるな…と。」
そう言って私は忙しなく動く手を見て言う。
「あぁ、ちょっと本当にこれを書こうか今更迷って、心配しないで。」
美春さんは目を手元に向けながら私にそういった。
「わかった。」
私と美春さんは別に友達ではない。
私は髪が茶髪で仏頂面ということから不良に見られ話しかけられないし、
一人でも不自由しないのでこのままでよかった。
髪はちゃんと先生方には地毛と説明しているから認められている。
一方美春さんはいつも一人で本を読んでいて、あまり人と話そうとしない。
そんな私と美春さんだからか、ペアを作る際はいつも余り組として組むのだ。
いつもペアを組むので、いつしか自然とペアを組むときは美春さんと組んでいた。
それから私と美春さんは先生やクラスメイトからセットで考えられている。だが、
それでも話すのはペアになった時だけで、休み時間や放課後は話したことがない、
こうやって残って課題をやるのは珍しいのだ。
「終わったよ雪さん。」
と、物思いに耽ってると美春さんが終わったことを報告してきた。
「わかった、じゃあ交換。」
ハイっとお互いに交換して、本のレビューを読んでみる。
「“名前の無い華”
私はこの本を読んでずっと雪さんに対して抱えていた感情の正体を知ることができました。この本は簡単に言うと女性同士の恋愛小説で、主人公がとある女の子に恋を抱いてしまいそれに葛藤するというものです。私はこの本を読んで深く主人公に感情移入しました。そして読み終わった後、とあることに気づいたのです。私が雪さんに対して抱いてしまった感情。それは恋でした。正直最初はそんなはずはないと、お風呂に入る時も、食事をしている時も、寝る前も考えましたがどうしても雪さんの顔を思い浮かべると、胸の鼓動が早まって、話したい、会いたい、一緒にいたい、そんな事ばかり頭を埋め尽くしました。そして納得したのです。
好きなんだと。
正直この告白を書くか迷いました。最初は普通にレビューを書こうと思っていたのですが、放課後、二人きり、綺麗な夕日、そんな絶好のシチュエーションだったので、ついこの想いを書いてしまいました。私は、雪さんのことが大好きです。」
ゆっくりと顔を上げると、夕日に照らされてなのか照れてるからか、顔を真っ赤にした美春が両手に課題をもってそこから顔を出し、伺うように見ていた。
その仕草は、思わず『私も』と言いかけるほどには効果抜群だった。
登場人物
名前:浅田美春 性別:女性 年齢:13歳
黒髪ストレート、本を読むときや勉強するときなどは眼鏡を付ける。
物静かで一人で本を読むのが大好き。本を読んで雪に対する恋心に気付く。
名前:朝美弥雪 性別:女性 年齢:14歳
茶髪、ボブで毛先が外側にはねている。本を読むのは好きで、
主にSFや推理小説全般が好きだったりする。よく周りに不良と誤解されるがあまり気にしない。
美春が読み間違えて雪と読んで以降ゆきと呼ばれるようになった。
気が向けば続きができる可能性が微レ存 ?