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私はしがない新聞記者

 1702年12月15日早朝。江戸郊外の倉庫群に隣接した屋敷で首の無い遺体が発見されました。


 それから300年の月日が流れたある日のこと。

 私はしがない地方新聞の記者。新聞記者と言いますと、高給取りのイメージを抱いているかたも多いことかと思われますが、それはごくごく一部の大手の新聞社の話。私が勤めています地方の。それもまた地方の新聞記者の待遇は?と言いますと、その地域の最低時間給×7.5時間が1日の賃金。残業代などありません。休みは新聞休刊日+元日の年13日。とは言え急な事件が発生なんかしますと現地に入っての張り込み取材。移動に使うクルマは自前。取材に掛かった費用については払われますが、その間の手当てはありません。そんな不安定な状況の中、手にする給料は年200万そこそこ。通貨は勿論円であります。

 とは言え好きで志し、採用された仕事。書いた記事が褒めらえると嬉しいもの。充実した毎日を送っているのであります。

 そんなある日のこと。1人の人物が私の前に現れるのでありました。

 公家の服を身にまとったお年寄り。ケーブルテレビの不審者情報として取り上げられても不思議ではない出で立ちに、普段でしたら見て見ぬふりの一手となるのでありますが、そこは新聞記者。何かあるかもしれないと声を掛けたところ思わぬ言葉が返って来るのでありました。

お年寄り「私の名は吉良上野介。」

昔、「仙人」と名乗る名物のかたが、よく地方のテレビに出ていたな……。何か使い道があるかも?と話を聞いていると……。

お年寄り「私の冤罪を晴らしていただけないでしょうか。」

との訴え。

私「冤罪とは?」

と問う私に対しそのお年寄りは

お年寄り「忠臣蔵と言う話をご存知でしょうか?」

私「あぁ……あの四十七士の。」

お年寄り「その時の沙汰が、どうにも納得することが出来ないのであります。」

私「四十七士は切腹となりましたが。」

お年寄り「確かに彼らは切腹となった。切腹となったが、考えても見てほしい。四十七士の主君。浅野内匠頭が切腹となった理由はなんだ?」

私「江戸城内であなたを斬りつけたから。それがもとで幕府の裁定により切腹となった。言うならばあなたは被害者にあたりますね。」

お年寄り「だろう!!にもかかわらず私は……。」

私「まだ仇討ちが認められていた時代ではありますが、この件につきましては逆恨みによる犯行と。」

お年寄り「だろう!!で。更に納得することが出来ないことがもう一つあってな……。」

私「なんでしょうか?」

お年寄り「四十七士の子息はのちに高禄でもって他家に仕官を果たしたのに対し、私の実子は幽閉され、断絶の憂き目に遭ってしまったのか。どうにもこうにも腑に落ちぬ。」

私「確かに。」

お年寄り「で。お願いなんだが。私の冤罪を晴らしていただくことは出来ないだろうか。」

私「面白いテーマでありますね。」

お年寄り「やっていただけるか?」

私「はい。」

お年寄り「ならばすぐ江戸時代へ行こう。」

私「ん!?」

お年寄り「そうじゃ江戸時代に行くのじゃ。」

私「今の。では無いのですか?」

お年寄り「今。私の冤罪を晴らしたところでどうなる。家が断絶してしまうではないか。それまでの限られた時間で吉良家を守るのじゃ。」

私「え!?言っている意味がよくわからないのでありますが。」

お年寄り「そなたがこれまで培ってきた新聞記者としての実績を活かすのに絶好の機会であると思うのだが。」

私「確かに。」

お年寄り「なら行くの一手しかないじゃろう。そなたの引受先はもう決まっておる。」

私「江戸時代って、それこそあなたが悪人の烙印を押された状況下で。ですよね。」

お年寄り「勿論そうじゃ。」

私「あなたを悪者に仕立てた人物を特定し、もしその人物によっては……。」

お年寄り「その辺りを刺激しないように江戸の世論を誘導する能力が必要となって来る。」

私「確かに私の勤め先は一つのお得意様の機嫌を損ねただけで吹き飛んでしまう新聞社であるため、斬りこむことの出来るギリギリの線を常に求められていますので、本意不本意は別にして慣れている仕事の1つではありますね。」

お年寄り「それを見込んでそなたに声を掛けたのじゃ。やってくれるな。」

私「はぁ……。」


 こうして私は、名実ともに命がけの取材に向かうことになるのでありました。

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