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父と息子  作者: 社聖都子
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父と息子2

おれはその2週間後にスーツに身を包み会社に出勤することになる。ものすごく緊張したが、齊藤さんの言う通り部署の人はみな良い人だった。出勤して、部署の方に席へ通してもらうとカチコチになって座った。

おれ、何するんだ?今日。誰かに聞くべきか?

そう思いながら座っていると、齊藤さんが来た。齊藤さんの席は、初出勤のおれでも分かる。ドラマなんかで見るあからさまに偉い人の席として、チームの上座でチーム全員が見える向きに据えられた大きい机が齊藤さんの席だ。間違いない。

「おはようー!」

齊藤さんの声はよく響いた。

「おはようございます。」

社員の方の挨拶がこだまする。おれは立ち上がると齊藤さんの席のところまで行った。

「おはようございます!!」

緊張を吹き飛ばすように大声であいさつした。その後の静寂が身に突き刺さった。

「ぷっ!」

齊藤さんが噴出し、

「はははははは!」

ものすごく大声で笑った。社員の皆さんも笑った。

「ごめんごめん。豪快な挨拶で宜しい。」

齊藤さんはおれの背中を叩きそう言った。結構力強く、痛かった。

「うん、その調子で自己紹介しとこうか。みんな立ってー。」

齊藤さんがそう言うと、軍隊かと思うほどにきびきびと一斉に社員のみんなが立ち上がった。椅子を引く、ざーっという音が響いた。

「さぁ、遼輔君。自己紹介しよう。ちゃんと覚えてもらえよ。」

齊藤さんにそう言われ、正直緊張で心臓が口から出るんじゃないかと思った。

「え、え。あ。はい!え。あの。萩野遼輔と言います。よろしくお願いいたします。」

そう言ってお辞儀をするのが精いっぱいだった。

「終わり?ちょっと、覚えてもらえないんじゃない?」

齊藤さんがそう言ったが、

「いやいや、齊藤さん意地悪っしょ。最初のおはようございますで全員覚えましたし。」

と誰かが返すと、

「つーか、松野さんもそれ言っちゃいますからね。意地悪ですからね。」

と他の方も乗っかる。お辞儀していて景色は見えなかったが、すごく和気あいあいとしたいい雰囲気だと思った。

「てか、自分書類選考したんすけど、正直苗字採用したいくらいでしたよ。なんとなく写真の目の感じも似てるし、萩野さん思い出しちゃって。」

「おいおい!お前ちゃんと見たんだろうな。」

「いや、見ましたって。というか佐藤さん二次面接されたんですよね?」

「おれは苗字面接採用してねーから。」

おれはものすごく驚いて、齊藤さんの方を見た。齊藤さんも驚いた顔しておれの方を見ていた。

「君は、お母さんのことを言わないで面接したのか。」

齊藤さんが小声でそういった。

「はい、君の力で入ってこいと仰ってましたので。おれ…じゃなかった私は齊藤さんがもう皆さんにお伝えされているものかと思っていました…おりました。」

慣れない拙い敬語でそういうと、齊藤さんが手を何度か叩いた。

「あー、みんなに言ってなかったが、遼輔君、萩野さんのご子息だ。」

そう言うと、ざわざわしていたオフィスがシーンと静まり返った。

なー!!まじかよ!!面接とかいらなかったんじゃねーの!

一瞬の静寂の後、爆発するような熱気。母さんがどれほど仕事ができる人だったのか、一目でわかった瞬間だった。

「な?いったろ?萩野さんすげー人だったんだから。がんばれよ。」

齊藤さんはいたずらそうにおれにそう言った。


その日は、会社の人たちの計らいで、歓迎会を催してくれた。

「萩野君は、ビール?」

当然のようにそう聞かれたので、これは飲まなきゃいけないんだと思ったが、自信がなかったので、

「はい。お願いします。ただ、母もそうですが自分お酒をほとんど飲んだことがないのでちょっと飲めるか分からないです。」

そう伝えた。そうするとチームの人がぽかんとした目でおれを見た。

「萩野さんって家じゃ酒飲まなかったの?一切?」

そう言われたので、

「はい。おれ、あ、私の高校と大学の入学の日だけです。」

と答えた。すると、嘘だろー!?の大合唱。母さん、お酒飲めたんだ。とおどろききょろきょろとしていると、齊藤さんが、

「あー、萩野さんにつぶされたことがあるやつ、挙手。」

と言った。すると、歓迎会に参加していた20人くらいの人の内半数程度が手を上げた。

「強かったんだよ、萩野さん。強要はしてこないけど楽しそうに飲んでて、つられて同じペースで飲んじゃった後輩がつぶれるっていう景色よく見たよ。」

齊藤さんがそう言うと、

「いやいや、後輩って仰いますけど、齊藤さんも何度かありますよね?」

という突込みが。

「あー!取締役の恥ずかしい過去を暴露すると給料上がらねーぞ!」

「齊藤さんそれ、パワハラですからね。」

あははは。

そんなやり取りが本当に多くて、すごく仲の良いチーム縦の垣根がないフラットなチーム。そういう印象を強く受けた。すごく楽しい一日だった。


それから1か月くらいして、大体会社のことや仕事のことが分かってきた。

この会社がやっているのはイベントの運営。それはさすがに最初から分かっていたが、いろんなイベントを運営している。それは部署ごとに分かれていて、ここ、e-sports運用チームは、最近流行りのオンラインゲームの大会イベントを運営することを主な仕事にしている。

部署の人数はおれを除いて28人。齊藤さんの下に部長が3人いて、その下に課長が6人いる。部長1人当たり課長2人。課長の下に3人ずつ社員がついている。そういう構成だ。会社としては、部長の下に10人。うち課長2人。課長の下に4人。そういうチーム編成を推し進めていると聞いた。うちのチームは課長や部長の人数に対して社員の人数が少し少ない。おれは、そのうちの1チームに配属された。部長が児玉さん。課長が谷中さん。一緒のチームが、上田さん、田中さん、加納さん。チームのメンバーは主に営業1人企画2人に分かれていて、営業の人が話を持ってくる。企画の2人がプレゼン書類などを作る。チームでプレゼンして、もし仕事が取れたら運用に移る。運用に移るとそのイベントが終わるまでは営業も企画もなくみんなで運用する。大会が大きい時は、人数が足らないので、同じ部のもう1つの課と合同で運用する。それでも足りない時は他の部とも合同で運用する。e-sportsの大会を行う方の会社、要はゲーム会社さんは大会そのもので利益を出そうとはしていなくて、大会はゲームを盛り上げるためにやっている。なのでいかに盛り上がるかが大事。盛り上がりに対して費用をかける。この会社は、こういう風に盛り上げますよ!というプレゼンをして、その対価としてお金をもらう。部署としては、月に4000万円程度の売り上げが必要で、大会は小さいものだと100万円くらいから依頼がある。平均的には300~2000万円。大きいものだと過去に1個のイベントで1億5000万円という大会を請け負ったこともあるそうだ。1か月かけて地方大会から全国大会まで行い、そのすべての運用プランと各地方の人員確保や大会運用まで行ったらしい。また、その運用ノウハウをそのゲーム会社にすべて渡して、先5年間に渡り大会が行われるたびにインセンティブをもらう契約まで掴んだ。そのインセンティブ期間がまだ1年半残っていて、大会が行われる月は自動的に3000万円入ってくるので、その月のノルマはほぼその遺産で達成されるという驚異の成功事例だ。その仕事を持ってきたのが当時課長だった母さんで、母さんの課の部長が齊藤さん。その成功を受けて、齊藤さんは取締役になり、それから少しして母さんも部長になったらしい。このチームに配属された最初の金曜日に課の歓迎会を開いてくれて、そこでこの話を谷中さんから聞いた。ちなみに、部長の児玉さんは、その時母さんのチームメンバーだったそうだ。谷中さんも、おれも児玉さんから聞いた話なんでまた聞きなんだけどな。と言いながら話してくれた。


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