幼なじみ
何も変わり映えしない毎日がずっと続くと思っていた
僕、西野 奈央 高校2年生の人生は大きく変わりつつある
事の起りは、ほぼ毎日と言っていい程に
教室の窓から見える硬式野球部の練習風景を見ていた僕に、いい加減勇気を出せよ!と神様が起こした事なのかも知れない
野球部に所属する同じ学年の佐々木 涼真くんの事をずっと好きでずっと見ていたから
いつからなのか…
理由さえ分からないけれど、いつの間にか
佐々木くんの事が好きになっていた
相手は同じ性にも関わらず
いつも周りに人がいて、野球部のエースで、部活中も機敏に動き、後輩や同級生に指示する姿はカッコ良く、女子の注目の的でファンも多い
でも、普段は気取る風でも無く、時にはふざけたり馬鹿やったりとつい目が追いかけてしまう程、魅力的な存在
そんな存在の彼と勉強しか取り柄のない
垢抜けない地味な僕が
今は、階段の踊り場で佐々木くんに手を捕まれ
そして、僕の幼なじみで最強の暴君事
滝沢 京弥(同じく同学年)に
この奇妙な光景を見られている
僕の手を未だ掴んでいる佐々木くんと幼なじみが現れた事で驚いている僕は、幼なじみに聞こえる様に
そして、余計な事は言わないで欲しい!と言う願いを込めて「京ちゃん・・・!」と呼ぶ
すると、京弥がひょいと片眉を上げてニヤリと笑ったまま僕と佐々木くんを見たまま黙っている
ホッとしたのもつかの間
今度は佐々木くんが僕に
「京ちゃん・・・って西野・・滝沢と知り合いなのか?・・・」
すごく意外そうに聞かれ、佐々木くんを見ると、さっきまで笑っていた顔が嘘のように
少し眉間に皺が寄った表情をしていて、初めて見る佐々木くんのそんな様子に僕の方が逆に驚いてしまう
佐々木くん・・・何か怒ってる?
別にまだ京弥は何も余計な事言って無いのに…
とりあえず、この暴君事幼なじみの事を話そうと「あ、あの・・・」と言うと、掴まれた手に更に力が入れられ、ビクッとなりそれ以上話せなくなってしまった
何か・・・佐々木くんがいつもの佐々木くんじゃなくて
怖い・・・気がする
俯き、知らず知らず京弥の方へと視線が行ってしまう
京弥はそんな僕に呆れたのか
ニヤリ顔のまま佐々木くんに視線を移し
「あ。知り合いてか。それ、オレの幼なじみなんだよね~野球部エースの佐々木君?」
な?と最後は僕の方に確認をとる
ちょっと言いた方に棘がある様な気がしないでも無いけど・・・
京ちゃんの「それ」発言にますます佐々木くんの剣呑な雰囲気が増した気がした
京弥の言葉に佐々木くんは、幼なじみ?
と更に僕に聞いてくる
僕は俯き加減に頷き
「う、うん・・・家が近所で幼稚園からずっと一緒・・・で幼なじみ・・」
そうなんだな・・・と納得行ったのか曖昧な感じに聞こえ佐々木くんの顔を覗き見る
あ。眉間の皺がない、良かった・・・
「つかさ。奈央、いつの間に野球部エースの佐々木様と仲良くお手てまで繋ぐ仲になった訳?」
オレの約束無視して?
と京弥の暴君ぶりが発揮された
ひぃぃ!
お手て繋いでって!
しかも仲良くって違うから!!
一気に顔が熱くなる
僕が喋り出す前に、佐々木くんが京弥に向って、佐々木様って何?と一言
えぇ?
そこなの?
佐々木くん気になる所違うんじゃ?
あたふたする僕に京弥は、だってそうだろ?と更に毒を吐く
「クラス一の人気者でしかも野球部のエースで超可愛いマネの子とも付き合ってるし?そりゃあ佐々木様々じゃなくね?」
京弥は大袈裟な位、肩をすくめて見せた
京弥の言葉にやっぱり・・・と思う
マネージャーの子と付き合ってるんだ・・・
男の子が可愛い女の子と付き合うなんて当たり前な事なのに、ショックだな・・・
て!
そんな事じゃなく!
京弥はちょっと失礼過ぎる!まるで、喧嘩売ってるみたいに聞こえるよ!
京弥は喋ると凄い損してる
外見だけ見ると佐々木くんとは違う部類のかっこいい造りしてるし、目は切れ長の二重で、鼻筋だって通ってるし髪型もくせ毛が嫌で短くしてるのも似合ってるのに
喋ると俺様全開
佐々木くんが京弥の挑発に乗って喧嘩にならない様に僕が止めないと!
佐々木くんは京弥の失礼過ぎる言葉に
ふぅ~と息を吐き出すと
「なぁ。滝沢、俺お前に何かしたっけ?」
あ。声の感じからすると落ち着いてる感じだ
すると、京弥は「いや?」と言い
「オレにはして無いけどね~でも、オレの幼なじみにはしてるなー」
そう言いながら階段を降りて来て僕と佐々木くんの近くまで来ると、僕の手を掴んでいる佐々木くんの手を指さしながら
「いつまで掴んでんの?その野球部の握力で?」
と言うと掴んでいる手を京弥が無理やり引っ張り
僕の手は自由になった、見ると少し赤くなってる
僕は赤くなった手をもう片方で隠し見えない様にしたが、京弥は目敏く、赤くなってる!と赤くなった僕の手を引っ張り佐々木くんに見せた
佐々木くんは慌てた様子で
「悪い!西野!」
と僕に謝るので、僕は首を左右に振りながら大丈夫な事を伝えた
京弥は面白く無さそうな顔をして
僕の猫っ毛の髪をぐしゃぐしゃとかき回した
その手からは、京弥の所属する美術部独特の油絵に使う絵の具の匂いがした
「ちょっ!止めてよ!京ちゃん!油臭い!」
そう言うと頭にあった手は退けられ、僕は髪の毛を急いで整える
すると今度は僕の顎をクイッと持ち上げると
京弥はさも楽しそうに男にしては分厚い僕の唇を指で押しながら
「臭いね~そりゃ美術部だからしょうがねぇよな~てか。相変わらずのタラコちゃん唇」
ふはっ!
と笑いながらも人の唇で遊ぶ京弥に
僕は右手に持っていた通学鞄を思い切り京弥に投げつけ今日1番の声で、少し涙声になってたけど
「っっ!京弥の馬鹿ーー!!最低だ!美術オタクー!!」
と叫ぶと佐々木くんの横を通り過ぎ、階段を早足で降り廊下を走った
その後に2人がどんな会話をしているかも知らずに・・・