第二話 相合い傘
靴を履き替える。そして帰ろうと外に出ようとしたとき、雨が降ってきた。
「雨だ」
「雨だね」
「傘持ってるか?」
「ごめん。今日は傘持ってきてなかったの」
「良かった」
「え?」
俺は雨の当たらないところで傘を差す。
「あれ?入らないのか?入らないと濡れながら行くことになるぞ?」
「・・・」
霙は口を開き、固まった。さっきの俺ってこんな感じだったのかな。
「大丈夫か?口開きっぱなしだけど」
「・・・」
「もしかして、俺と相合い傘になるのが嫌なのか?…やっぱそうだよな。いくら幼馴染でも恋人がするような相合い傘は嫌だよな。ちょっと待っててくれ。先生に言って傘借りてくるから」
「ま、待って!」
傘をたたみ、職員室に行くため走って靴箱に行こうとすると霙がそう叫ぶ。
「あ、相合い傘で良いから、さっさと行こう?」
はにかみながら俺にそう言う。俺は戻って傘を差し、中に入る。霙が横に来たのを確認すると歩き出す。そして俺たちは相合い傘をしながら校門を出た。そして学校から徒歩10分程度のリモーノ・ファンタスティックに向かう。
「あの、真琴」
「どうしたんだ?」
「さっき傘持ってないって言ったら良かったって言ったけどなんでなの?」
「あれか?あれは二人で並んで歩くんだし、二人とも傘差してたら歩きにくいだろ?だから多少濡れても二人で一つの傘に入る相合い傘の方が歩きやすいから良かったって」
「そこまで考えたんだ…」
「あはは」
本当は可愛い霙と相合い傘してみたかったなんて口が裂けても言えない。あ、霙の肩濡れてるじゃん。本人気付いてないけど。このまま放置しとけばいずれ気づくし、霙が濡れないように傘を傾ておこう。
「ところで真琴」
「んー?」
「ゲームセンター行くって言ったけど、どこのゲームセンター行くの?昔行ってた所は潰れちゃったよ?」
「オイエンのゲーセンだ」
「オイエンってどこ?」
「嘘だろ!?知らないのか!?あの超有名な大型ショッピングモールだぞ!?」
俺も大型ショッピングモールって言っちゃった。でも、知らないのか。この町内で1、2を争うレベルの大きさの建物だぞ?
「う、うん。聞いたことはあるんだけど一回も行ったことないし、見たこともないの」
「さすがに聞いたことはあるよな。あと5分ぐらい歩いたらつくぞ」
そう言いながら、俺たちは赤信号で止まる。
「そんなに近いの?」
「結構近いぞ。むしろこれだけ近くてよく見たことなかったな」
「多分視界に入ってるけど見えてないんだと思う」
なるほど。それなら…って巨大なオイエンが無視されるってどんなことがあるんだよ!突っ込むのは心の中だけにしてとりあえず信号が青になったので俺たちは歩みを進める。
「ところで霙、テストどうだったんだ?」
「そう言う真琴は?」
「そうだなぁ。普通だったよ」
「そっか、私も普通だったよ」
「霙の普通はレベルが違うんだけどなぁ」
「そんなことないよ。まぐれで10位内にいるだけだから」
…俺知ってるんだよな。霙が必死に勉強してること。まぐれなんかじゃなく、実力で10位内に入っていることを。
「着いたぞ。ここがオイエンだ」
「わぁ、大きいね」
霙は見上げてそう言う。初めて見たなら第一声がそれなのはわかる。俺もここができて初めて来たときの第一声が「でっか」だったから。俺たちは雨が当たらないところに行き、傘をたたむ。
「リモーノ・ファンタスティックっていうゲーセンはこれの別館一階に」
「別館があるの!?」
「そうなんだぜ、とんでもなくでかいだろ?こっちだ」
俺は別館のある方に歩き出した。霙はその俺に並走している。
「ここだ。ここをまっすぐ行くとリモーノ・ファンタスティックだ」
「ねぇねぇ!さっさと行こうよ!」
霙の目がキラキラしている。尻尾があったら音が鳴るぐらい振っているぐらい嬉しそうだ。良かった。
「店内では走っちゃいけないから、歩いて行こうな?」
「うん!」
ほんとに子供じゃん。俺は保護者か。霙の保護者なら別にいいけど。そうして俺たちはリモーノ・ファンタスティックという名のゲームセンターに入る。
「ゲームセンターなんて何年ぶりだろう!」
「二人で最後に来たのは小2だったか?」
「小学3年生の12月24日、クリスマスイヴだよ!」
「お、おう」
記憶力すごいな。さすが天才さん。俺なんか小学校低学年の頃のこととかほぼほぼ忘れたよ。
「おっ、真琴先輩じゃないっすか。ちーっす」
そう言って近付いてきたのは中学三年生の後輩、野乃原 葵だ。性格は自由気ままで、左目に眼帯をつけていて髪はすこし長め、真っ赤なネイルをしていて胸はそこまでない。なんかこの説明と霙の説明合わせると俺、結構胸を見てる感じになるんだけど、俺だけかな?
波木中学校の校則では生徒のみでのゲーセンの立ち入りは18時までならOKとされている。ちなみにネイルは何故か校則で規制されてない(どうでもいいけど)。
「おやおやぁ?その人誰っすか?もしかしてモテなさそうな真琴先輩にもついに彼女ができたんっすか?いや、でももしかしたら無理やり連れてきたとか…」
「無理やり連れてきてないし、モテなさそうなは余計だ。幼馴染だよ。彼女ではない」
きっぱり否定する。チラッと霙を見るとニコニコしている。良かった、喜んでくれてる。
「霙、紹介するよ。これは野乃原 葵、波木中学校三年生。俺や新、霙の後輩だよ」
「ちーっす…って真琴先輩!?これ扱いって酷くないっすか?!」
「葵、紹介しても良いか?」
「しかもスルー!はぁ、紹介は大丈夫っすよ。新先輩から聞いてるんで」
「新居るのか!?」
「おいおい、なんで気を利かせて帰ってやったのに、なんでよりによって幼馴染連れてゲーセン来るんだよ」
新という名の女たらしが出てきた。そしてやれやれとジェスチャーしてきたのがちょっと腹立ったので頬をつねる。
「悪かったな空気読めないやつで」
「ひたいひたい」
「真琴先輩、こんな女たらしほっといてさっさと遊ばないと時間なくなっちゃうっすよ」
「そうだな」
俺は頬をつねっていた手を離し、ゲーセン内に向かう。
「お前ら俺の扱いひどくね!?」
「わりぃな新。今日はお前と遊ぶんじゃないんでな。霙、久々のゲーセン、楽しもーな」
「…うん!」
あらすじにある注意通りでよろしくお願いします