第十七話 ちょっとした恐怖体験
あらすじの注意通りでお願いします
「お兄ちゃん、晩御飯あと20分ぐらいかかるけど」
「あー、そう?じゃあ椅子座ってないでいいのか」
俺はリビングにあるソファに座る。今思ったら両親がいないのにこんなふっかふかのベッドに座れるなんて、死んだ両親に感謝だな。そう思いながら俺はテレビを付ける。へぇ、『アメリカでサイコキラーが捕まった』のか。
「そのサイコキラーの人、男女問わず成人を38人殺してるらしいよ。それでその肉と骨を料理してたらしいよ」
「うわっ...」
「怖いよね。死体が何も残らなかったから警察が証拠を掴みにくかったらしいよ」
「なるほど。こんなこと聞くのはどうかと思うけど、茜は、人をおいしく料理できるか?」
「うーん」
茜は料理をする手を止めずに考え込んだ。そんなに真剣に考え込まなくても良いのに。
「わから…ないなぁ。いくら私でも作ったことない料理の美味しさはわからないよ」
「お、おう。そうか」
「でも、そういう料理でも美味しくなる方法はあるよ」
「うえっ?」
思いもよらない回答が返ってきて、変な声が出る。え?人肉が料理して美味しく食べられる方法!?ま、マジかよ。嘘だろ?ちょっと待ってくれ、俺の中ではサイコキラーより怖いんだけど。
「それはねお兄ちゃん」
「はいはい」
「“愛”だよ」
「愛?」
「そう、愛。その人肉の料理に愛がしっかりと込められていたらきっと美味しいよ」
「そ、そう?」
「そうだよ。そして私の作る料理にもたーっぷり愛が入ってるから美味しいよ。おにーちゃん」
「お、できたのか」
俺はソファから立ちあがり、食卓の椅子に座る。ただ、人肉に愛が込められていれば美味しくなるということを言ったときに、何かいつもと違うどす黒いものを感じた。そして背筋が凍るような感覚に襲われたのだが、次に話した言葉に込められている明るい感情が凍っていた俺の背筋を溶かしてくれた。
「さっきも言ったけど、今日の晩御飯は―」
「白ご飯とカレイの煮付け、あと味噌汁だったよな。いつもありがとう茜」
「うん♪お兄ちゃん、ん」
茜は目を瞑り、頭をこっちに向ける。ああ、撫でて欲しいのか。俺にできることといえばこういうことだけだからな。こんなことならお安いご用だよ。俺は茜の頭を撫でる。すると茜は「ふふっ」と笑いを漏らす。やっぱり、茜は頭は良いけど精神的に幼い部分があるんじゃないか?俺が居なくても生活ができるかしんp…いや、むしろ心配なのは俺の方だな。茜は精神的に幼くても、なんでもできるからな。
「あれ?お兄ちゃん食べないの?」
「あっ、ごめんごめん。食べるよ」
「それじゃ、せーの」
「「いただきます」」
「美味い」
「ありがと、お兄ちゃん」
この会話も一体何回目なんだろうな。茜が作った料理を食べて美味しいって言う、これが日常になっちゃった。俺だって料理は上達していってるんだけどね?茜の料理は次元が違う。茜の料理は食べた人全員が美味しいって言うようなレベルだ(?)。もう、言葉に表せないよ。
「カレイの煮付け、中学校の給食で一回だけ食べたことあったけど、全っ然美味しくなくて嫌いだったんだけど、茜の料理だったらなんでも食べれそうだよ」
「あはは、買い被りすぎだよお兄ちゃん」
「いや、それぐらいなんだってマジで」
そう言いながら、俺はバクバク食べる。全く、箸が止まらねぇ。店長の料理と勝負したら、どっちの方が美味しいんだろう。今度食べ比べてみようかな。
「ごちそうさまでした」
「はやっ!」
「美味しいからな。ニュース見てるわ」
俺はさっきまでいたソファに座る。そしてさっきサイコキラーの話題をしていたニュースを見る。へぇ、『78歳の男性が交通事故。ぶつかられた車の運転手の男性(23)が死亡、助手席の女性(24)が重症。』か。年老いたら事故る危険が高くなるんだから運転を控えるか、免許返納しろよな。それのせいで死ぬ人のことを考えれないのか?
「こういうのいつ起きるかわからないから怖いよね」
「ああ、この町にそんな人が居ないことを願うばかりだよ」
「ごちそうさまでした。お兄ちゃん食器片付けてよ」
「あー、悪いな」
俺はテレビの電源を消して食卓の上に起きっぱなしの食器をシンクの水の張った洗い桶に入れる。
「洗い物は俺がやっておくから、茜は勉強しなよ」
「ありがとうお兄ちゃん」
「ああ、未来の天才さんのお手伝いができるなんて光栄だよ」
「もう、お兄ちゃんたら」
ペシッと俺の背中を叩いて、茜は2階に上がった。まあ、自分の部屋に向かってるだろうな。茜はしっかりしてるからなぁ。そう思いながら食器を洗剤を付けたスポンジで洗う。
「にしても、二人分でこれだけの洗い物があるんだから両親が居たら四人でこれの倍か。いや、父さんが結構食ってたからな。大体2.5倍だな」
うへぇ、きつっ。これをすることになる母さんの苦労が簡単に思い浮かぶよ。
「あー、明後日学校行きたくねぇ」
あの写真が出回ったんだからな。学校では問い詰められるし、下手すりゃ先生に呼ばれるかも。明日のバイトに支障が出なかったら良いけどな。そう思いつつ、俺は洗い物を終わらせる。