43:お詫び
それから数分の間、休む間もなくドワーフは土球を私達へと打ち込み続けていた。
「も、もう無理・・・」
「ふはははっ、もう終わりか!?」
私が疲れてきて、そう漏らしたと思ったドワーフが嘲笑った。
「もーーーーっうるさい、なっ!!」
私は剣を刃先から腹へと切り替えし、受け流しの応用で礫をその腹で流し、鍔部分に引っ掛けるようにしてそのまま勢いを殺さないように体ごと回転し、ドワーフへと打ち返した。
私からの攻撃はアストの魔法で追い風になっているため威力も上がっている。
「何ぃっ!?」
ドゴォッ
「ちっ、避けやがった・・・」
「イ、イオリ!? 彼を傷付けないようにと・・・」
アストがこの期に及んで無理を言ってくるが、無理なものは無理!
こんなのやってられない! 反撃なしで対処するなんて、もーーーー無理っ!
大体なんなんだよ! 私らが何かしたって言うのか!?
話も聞かずに、ばかすか打ってきやがって!
「ちょっとくらい、仕様がないんじゃないかな?」
「待て待て待て。イオリ、ちょっと落ち着け!」
私が手元に風を巻き起こしながら呟くと、アストが宥めてきた。
「お! まだやるか!?」
「あなたも嬉々として応戦しないでください!!」
ワクワク感を前面に出して構えるドワーフにもアストがつっこんだ。
忙しいね。
「・・・いくぞ」
「おう! 掛かってきな!」
二人の間が張り詰めだし、じりじりとした空気が流れ出す。
アストも止められないと悟ったのか、何かあった時のためにと状況をしっかり見定めるよう努めることにしたようだ。
三人の間に緊迫した空気が流れる。
ドクン、ドクン、ドクン・・・。
「裂風・・・」
「ロックボ・・・」
「ふぁいあーぼーる!」
その時、発した二人の声の他に可愛らしい声がドワーフの背後から聞こえた。
「「あ・・・」」
パチッ、パチパチパチッ
「んあ? ・・・ぅあぢぃっ!!」
いつの間にかカムイ達がドワーフの背後に回っており、ニアの魔法がドワーフの背中目掛けて放たれていた。
ドワーフは自分の背中に着火した炎に気付き、炎を消そうとあたふたとするが、手を回すにも筋肉が邪魔してるのと、絶妙に届かない場所が燃えているため、端から見るとカチカチ山状態でタップダンスを踊るおじさんだ。
「おじちゃん、おねえちゃんたちいじめるのはやめて!」
ニアが一所懸命訴えるが、ドワーフはそれどころではなかった。
「あち、あち、あぢぃーーーーーっ!!!」
*
「わはははははは!!」
それからちょっとして、ドワーフの大きな笑い声が辺りに響いていた。
「いやぁ勘違いしていた! 悪かったな!」
「はぁ・・・うっ」
勘違いでぶっ飛ばされそうになるなんて勘弁してほしい。
誤解だと分かったドワーフ族の男性は、カラカラと笑いながら、バシバシとアストの背中を叩いている。
少し強くないか? アストが踏ん張れずに倒れそうになってるじゃないか。
「おじちゃん、イオリおねえちゃんたちはわるい人じゃないんだから!」
心外だ! という風にニアがドワーフに怒ってくれている。
「ああ、そうみたいだ。
嬢ちゃんもすまねぇな。てっきり最近ジャックレイブで問題になってる誘拐犯が目の前にいるのかと思ってな!
炎も消してくれて助かったぜ! わははは」
背中の炎は私が水魔法で消した。
多少意図的に大量にぶっかけた。このくらいやっても罰は当たらないはずだ!
ドワーフもびしょ濡れだが全く気にせず豪快に笑っている。
それはさておき、攫われてると思ってニアを助けようとしてくれたところを見ると、この人はいい人なんだろう。ちょっと直情的なところがあるだけで。
しかし、あの攻撃は危なかった。
武器に魔法を乗せずにあの破壊力って、ヤバいだろう。
あの大きな斧を軽々と振り回す程の力だ。当たらなくて本当に良かった。
「俺ぁヴェイグルドってんだ! 今ちっと、あちこちの坑道を巡って採掘場の状態を確認して回ってんだ」
「伊織です。
こっちがアストで、ニア、その頭に乗ってるのがランです。あと、カムイ」
『おい!なんだその付け足したような紹介の仕方は!』
カムイが喋り出すとヴェイグルドさんがポカンとした。
「そいつぁ喋るのか?」
「はい。精霊ですから」
「精霊!? こいつが!?」
「それで、状態っていうのは?」
「お前な・・・ちったぁ、驚くくらいさせろよ。ああ。最近ちょっとな、いくつかの小さな坑道が崩落したりしてんだ。
まだでかいところは問題はねえんだが・・・
小さいっつっても、保存中の坑道が崩れてっから、マズイんだよな。今後の採掘に響いちまう。
この分だといつでかいとこまで崩れちまうか分からねぇもんで、こうしてあちこち調査して回ってんだ」
ヴェイグルドさんはカムイを観察しながらもちゃんとした受け答えをしてくれた。
私から無視されていじけるカムイをニアとランが慰めている。
ふむ。土の精霊に愛されてる土地で、その手の問題が出てくるっていうのは結構問題なんじゃないのか?
土の精霊って言ったら〈ノーム〉とかだろうか? 見てみたい・・・
「ヴェイグルドさん、土の精霊っていうのはあちこちにいるんですか?」
会えるのであれば、ランみたいに話ができればと思い聞いてみたが、そのヴェイグルドさんは何やら渋い顔をしていた。
「あの、ヴェイグルドさん?」
「あー、そのヴェイグルドさんっての止めてくんねぇか?
なんかムズムズして落ち着かねぇ。
ヴェイグルドで構わねぇから」
「じゃぁ・・・ヴェイグルド」
「ああ、それでいい」
さっきまでの行動が嘘のように、親しい仲であるかのごとく気さくに笑いかけてくるヴェイグルド。なんかおかしな人だな。
「土の精霊がいるかだったな。
この国は昔から土の大精霊様の加護を受けてるせいか、土の精霊ってのは多いんだ。
ただ、その精霊をここ最近外で見かけることは少なくなっているな。
こういった坑道内には少なからず精霊がいるもんだが、ここには見当たらなかったな・・・
それが原因かは分からねぇが、地震なんてのが増えてきやがって、地盤の緩くなった坑道があちこちで崩れてんだ。
今、作業してる坑道や採掘可能な坑道ってのは今のところ問題はなさそうなんだが、こういう作業し終わった保存期間へと移行した坑道ってのが崩れる危険性が高くなってる。
だから、こうして診て回ってるんだがすでにいくつか崩れててな。
んで、今また一つ崩れたとこだな」
「この国でそういう事態になっているとは。
フィッツレイシアにはなんの情報も入ってきていなかったのだが」
そんな隣国の状況が全く寝耳に水だったとアストが衝撃を受けているが、そんなアストにヴェイグルドは言う。
「国の情勢なんてものがそうそう他国に知れ渡ってたまるかよ。
まぁ、それも時間の問題かもしれねぇがな」
崩れた坑道を見ながら、どうしたもんかと深い溜め息をついた。
時間の問題とはいえそんな情報を私達に喋っていいんだろうか?
精霊の力が充満した採掘可能な坑道は無事で、これから成長させていくための坑道には精霊の力が弱くて崩れてるって感じなのかな?
それにしても。
「地震は以前からあったんですか?」
もしかしたらそれも〈世界の異変〉とかいうやつなのかと思い、ヴェイグルドに問いかけてみた。
「いや、昔は地震なんてものはなかったみてぇだな。
まぁ、大精霊様が動き回る時には地が多少揺れることはあったらしいが、それも大昔の話だ。最近じゃ大精霊様が動き回ることもないみてぇだし、そもそも大精霊様が起こす地震てのはこんな被害は絶対起きねぇもんだ。
だが、明らかにそれとは違う地震の回数が増えてきたんだ。
俺の子どもの頃にもあった地震だったから気にしてなかったんだが、その頻度も年々増えてきて、こうやって自分達の生活に影響してくるとやっぱりどうにもな」
確かに坑道で採掘することで得た資源でこの国は発展しているのだから、その大元が無くなってしまうような事態は受け入れられるものではないだろう。
「ヴェイグルドおじちゃんは一人なの? 一人だとあぶなくないの?」
「んあ? はっはっはっは! おじちゃんはな、強いし、坑道については人より沢山知ってるんだ。
どこが危なくてどこが安全かすぐに判断できる目は持っているし、無茶はしねえから大丈夫だ!
でも、心配してくれてありがとうな」
「ん!」
*
さて、一悶着あったものの、とりあえず音の原因は分かったしそろそろ、先に進もう。
「じゃぁヴェイグルド、私達はこれで」
「おいおい、何言ってんだ!?」
立ち去ろうとする私に、ヴェイグルドからの制止の声が掛かる。
「何って、私達はニアを送り届けなきゃって言ったじゃないか」
「そうです。音の原因は分かりましたし、私達は先へ進まないと」
「バカ言うなよ。勘違いで怪我負わせそうになっておいて、はいサヨナラってそうはいかねぇよ」
いや、サヨナラでいいんだけど・・・
「お前ら今からどこに向かうつもりだ?」
「ええと・・・?」
「タナリムです」
さっきの騒動で街の名前がスポンと抜けてしまった私の代わりにアストが答えてくれた。
ごめんね?
その答えを聞いたヴェイグルドは、ニカッと笑った。
「そうかそうか! じゃぁ、ちょぉ~どそこに俺ん家があるから、泊まってけ!」
「え!? 丁度って・・・でもヴェイグルドは調査の最中なんじゃないの?」
「俺も一旦調べてきた内容をまとめて報告しなきゃいけねぇからな」
誰に? なんか依頼されて動いてるのかな?
結局私達は、半ば強引にヴェイグルドに連れて行かれる形でタナリムへと向かった。
*
〈タナリム〉
王都ほどではないが、多くの職人が工房を構え、至る所に大きな岩や鉱石が置かれており、あちこちから作業の指示を出す工房員の大きな声が賑やかに聞こえる。
自分達が作り出した武器や防具を自慢し出したかと思えば、自分の方がいいものを作ったとケンカが始まっていたりするが、日常茶飯事なのかそれを気に止める者は誰一人としていない。
この街ではアクセサリー工房は少ないようで、武器などを販売する店も多くはない。
外への販売の多くは王都で行われているらしく、ここでは作業をメインに行われていた。
工房は大から小までの大きさがあり、そんな中にヴェイグルドは大でも小でもない工房を一つ構えていた。
「おう! 戻ったぞ!!」
バンッと音を立て扉を開け、ドカドカと入ってきたヴェイグルドに一瞬、中にいた作業員は驚き、手を止めたものの、ヴェイグルドの姿を確認すると、すぐに作業の続きへと戻っていった。
「ここはちっせぇが俺の工房だ。俺も自分の作りてぇモンを作るからよ、弟子ってのは取ってねぇんだ」
「え? じゃぁここにいる人達は?」
「見てもらえなくても構わねぇっつーから、そんならいいぜって置いてやってるやつらだ。俺の作業とか横で見るくらいしかねぇがそれでもいいってんだから物好きなやつらだよ。あんまり増えると困るからもう断ってんだがな」
「へぇ。確かに物好きだね」
そうまでしてヴェイグルドに付いて教わりたいなんて。見て覚えるのを許してるんなら、もう弟子も同然だよね。
ん!?
「ヴェイグルド! ヴェイグルド!」
「なんだよ、そんな大声出さなくても聞こえてるって」
「ねぇ、ヴェイグルド! あれ! あれ精霊!?」
「んあ? ああ。鍛冶好きの精霊だ。ああやって鍛冶やってると集まって見学してんだ」
「へえ! あれも土の精霊?」
お弟子さん達が鍛冶をしている横で何匹かのコロコロした小人がいた。よく見れば天井にも何匹かいるようだ。
見た目はこっちの方がドワーフと言ってもいいんじゃないかと思える姿形だ。鉱石を打つ作業をじーっと見ている。
「そうだ。鍛冶には鉱石が必要だからな。うちで本格的な鍛冶が始まると結構集まってくるぞ? 鍛冶の時にどれだけあの精霊が集まってくるかでも、出来栄えが変わってくんだ」
「へえ! すごいね! でも、あまり見かけないって言ってなかった?」
「外には、な。外には鍛冶好きの精霊達はいねぇからな」
「あぁ、そういうことか」
鎚を打つリズムに合わせて、精霊達の首もリズミカルに動いていて面白い。
「お前らこっちだ、こっち!」
ズンズンと工房の中を突き進んでいくヴェイグルドが早く来いと急かしてくる。もうちょっと見ていたかったのに。
いいのかな? と思いながら足早に付いていくが、お弟子さん達はチラリと視線を向け私達の姿を確認するだけで、誰も引き止める者はいなかった。
工房を抜けると、その先にヴェイグルドの住まいがあった。
「おーい! 帰ったぞー!」
家に入って、声を掛けるも誰かが出てくる気配もない。
さっきから誰も相手してないけど、ヴェイグルドってそういう立ち位置なの?
そう思っているとカタンと音を立て、ヴェイグルドに比べると細身の若いドワーフが現れた。
「おう、ヴィーリいたのか。今帰ったぞ!」
「帰ってきて早々騒がしいな、親父。俺はちょっと道具取りに寄ったんだよ。
・・・ところで、そっちは?」
ヴィーリと呼ばれた男性は息子さんだった。
言われてみればヴェイグルドにどことなく似ている。
年の頃的にはアストと同年代くらいだろうか?
「こんにちは」と頭を下げる。
「ああ、客だ! 母ちゃんはいるか?」
「客だ! って・・・紹介くらいちゃんとしろよな。
今、隣のグローアおばさんと買い出しに行ってるみたいだよ。
もう少ししたら戻ってくるんじゃないかな?」
「そうか。じゃぁ、表で待っとくかな。
お前、こいつらを中に案内しといてくれ!」
ヴェイグルドはヴィーリと私達を置いて表の通りまで戻っていった。
「「「・・・・・」」」
ヴェイグルドぉぉぉ!! 挨拶も済んでない初対面の人と置いていくなぁ!!




