35:放っておけない
「走風駆」
『疾駆』
私とカムイは身体補助魔法を使い、王都軍と暴走している魔獣がぶつかるであろう場所へと飛ばした。
この補助を行うことで、着地時の衝撃〈吸収〉と、前に進む際の地面反力を〈強化〉することで、1歩で5mは進むことができる。
もちろん最初はこれをするのにバランスが崩れたりして走るなんてできなかったし、バランスを取るために横の補助まで魔法でやってたら魔力切れを起こしたりした。練習に集中してたらいきなりクラクラし出したから何事かと思ったもんだ。
苦労したけど、自転車やスケートと同じようにコツさえ掴んだら補助なしでも真っ直ぐに進めるようにもなったし、今では離着時の瞬間にだけ魔法を発動させればいいので消費する魔力も大分減った。
でも魔力が自動回復するとは言っても、こうして持続的に魔法を使っていたら減っていく一方なので、商隊長さんからエナジーボールをいくつか買って補充しておいた。
もちろん、救援活動しているメンバーにも必要だろうし、フォルティボールは村の人達を優先すべきだろうからエナジーボールを数個だけ買わせてもらった。
助けてもらったお礼に代金はいらないって言われたけど、そもそも私だってタダで乗せてもらっているんだから、それはそれ、これはこれでちゃんとお金は払ったよ?
『イオリ』
「うん」
前方に森が見え始めたところで、その手前で土煙が立ち込め何かが戦っていたのを確認した。ここまで3時間くらい飛ばして来ただろうか。めっちゃ時間短縮できた。
魔法を解除し、それが見える、自分達が見つからないであろう距離まで走って行き、岩場に身を隠しながら様子を窺った。
大小の200体くらいだろう魔獣の群れに、一部隊くらいの人数が衝突していた。
あちこち見回してみても、クラスメイトの顔は一人も見当たらない。村長さんの聞き違いとかだったんだろうか?
というか、何人か覚えのある顔がいる。私に気さくに話し掛けてくれていた人に、訓練してくれた人、あっちには一樹と遊んでた、もとい訓練してた人だ。あっちも、あっちの人も知ってる。
・・・これ第10の人達だ!
あちこちで奮闘しているものの、魔獣の何体かは森へと抜けてしまっているのも見受けられるし、回復が追い付いておらず、どちらかと言えば防戦に近いように見える。
あの森の先に魔獣が抜けても大丈夫なんだろうか。
「カムイ、ちょっと一駆けして森の向こう側を見てきてもらってもいい?
誰かいたら見られないように気を付けて。
魔獣と間違われて討伐されちゃったら大変だからね」
『おい、魔獣と間違うなぞおかしいだろう!
それに俺様はそうそうやられはしないからな。
ちょっと行ってすぐ帰ってきてやるからお前こそ寂しくて泣くんじゃないぞ?』
*
なんだあのニヤニヤは。
これで向こう側の様子も分かるし、こっちもなんだか危ないような気がするからいざとなったら行けるようにしておかなきゃ。
助けないと言ったものの、まさか第10部隊が来てるなんて。
この人達には全く嫌な思いはさせられてないし、むしろ助けられた部分もある。
あ! あれは。
「お前達! 踏ん張れ! ここで大物だけでも仕留めないと辺りの住民や自分達の家族が犠牲になってしまうぞ!」
「「「「おう!」」」」
アスト隊長も来てたのか。いや、隊長なんだし当たり前か。
しかし、皆傷だらけになってきている。
大体国境付近が一番被害が出ているって知ってるはずなのに、一部隊しか来てないってどうなの!?
不規則な魔獣の動きに次第に陣形も崩れ森へ抜ける魔獣も徐々に増えて来たようだ。
『イオリ。戻ったぞ』
「カムイ、あっちはどうだった?・・・カムイ?」
ジロジロと顔を見られている。なんなんだ。
『なんだ。泣いてないのか』
ぅおいっ! この短時間で何で泣くんだよ!
「そんで! どうだったの!?」
『うむ。森を抜けた先にお前の同胞達が揃っていたぞ?
別の隊も一緒だったようだが、同胞の何人かがこちらへと来ようとしていたがそいつらに止められていたようだし、森を抜けてきた魔獣を同胞達が対処していた』
「あっちにいたのか。それでその別の隊ってのは戦ってはいた?」
『いないようだったな。何やら指示は出していたようだが』
やっぱり自分達は戦わないつもりだったか。
じゃぁ、なんでこの人達はこんな前線で戦ってるんだ? 皆と分ける意味は?
『む、イオリ。アイツら抜けるぞ』
「え? あ!」
陣形が崩れた上に怪我して倒れた人の所に開いた穴から魔獣が雪崩のように一気に森へと駆け出した。その勢いに隊員達の動きも遮られ対処できていない。
「お前達! あちらに向かえーっ! こっちの大きいのは俺が抑えておく!」
大多数は指示に従った。アスト隊長も無茶なことを言っている。おそらく命令を受けた人達もそれを分かっている。辛そうな表情をしていた。
だが、ほとんどの魔獣が抜けてしまった以上ここに残っていてもどうしようもないだろうしな。
「我々だって・・・死んだら、承知しませんからね!」
おおおぅ。こんなベタなやり取りを目の前で見ることになるとは思わなかった。
しかし、アスト隊長も無理をする。
ああいう甘いとこが上から気に入られないとこなんだろうなぁ。下の人からしたら、いい先輩、いい上司と思うけどさ。
でも無茶し過ぎだよ。
アスト隊長一人で三体の魔獣をどうするんだよ。
何か秘策でもあるのか?
多くいた魔獣の群れの中でより大きかったものを足留めできてはいるけれど、このままだと魔力切れを起こしてもおかしくない程の風魔法を使っている。
「あ!」
飛んでいった鳥型魔獣が何故か戻ってきて背後からアスト隊長にその鉤爪を食い込ませた。
マズイ! 様子を見すぎた!
『おい! イオリ!!!』
私は思わず岩蔭から飛び出し、アスト隊長の元へ駆け出した。
アスト隊長はすでに傷だらけだったのに、あんな状態でさらに怪我を負ってしまっては耐えるのも難しいだろう。
展開していた魔法が一瞬持ち直したものの、その間にも攻撃を受けているのだろう、壁が次第に消えていき、さらに三体の魔獣が怪我を負ったアスト隊長へと牙が向く。
「や、め、ろぉおおおおおっ!!! 火炎球!」
魔獣の足元から抜け、魔獣4体の頭部目掛けて炎をぶつける。
アスト隊長に向かっていた攻撃を剣で弾き返し、怯んでいるところに、さらに距離を空けるために〈炎輪〉を使った。
「イ、リ?」
「すみません! 遅くなりました! アスト隊長、少しの間だけ耐えてくださいね!」
「え? う、ぁっ」
アスト隊長の腕を肩に回し、〈走風駆〉でその場から離れた。
「先にあっちを片付けるので怪我、我慢しててくださいね?」
「?」
私が突然現れて困惑してるのか、怪我で意識が弱くなってきているのか、ただ私の言ってることが理解できないだけか、複雑な表情で見られていたが今は隊長を構ってられない。
攻撃を受けた魔獣が私を敵と認識したようで、こちらに向かってくる。
さっきまでの〈意地でもこの先に進む!〉みたいなのはどこ行ったんだよ。
トッ
「!」 チャキッ
「大丈夫です。この子は何もしません」
「は?」
ムスッとした顔で現れたカムイに驚いてアスト隊長が剣を構えたので大丈夫だと諭したが、やっぱり魔獣に見えるよねぇ。
「じゃぁ、いってきます」
「待て! イオリ!」
あの体であんなに叫んだら危ないでしょうに。
アスト隊長をその場に残しヤツらの元へ戻る。
『助けないんじゃなかったのか?』
「そのつもりだったけど、あの人達は別。
カムイが嫌なら無理しなくていいんだよ?」
『別に無理はしていない。お前がいいなら、いい』
ん? 人族助けるのが嫌なのかと思ってたんだけど・・・そういうことじゃないの?
魔獣がこちらに来るのを迎え撃つようにして、立ち止まった。
『あれは、アルメイドバグ、アドヒーラックス、ストーンリザード、レッドラークだ。
アルメイドバグLv.23は、甲殻が固く腹側からしか攻撃が通らないが、それを守るように隠す。
アドヒーラックスLv.22は、体から粘液を出してくる。
ストーンリザードLv.19は、見た通り石のように硬い鱗を持っている。
レッドラークLv.19はこの中では唯一のこの国の魔獣だな。さっきのタイチョーとやらがあの鉤爪でやられていたな。コイツ以外は土属性の魔獣だから、水魔法は効果が薄いぞ。
全てCランク以上だ。いくらなんでも一人じゃ厳しいぞ?』
「うん? カムイ手伝ってくれるんでしょう?」
『・・・ふん』
じゃなきゃこっちに来ないだろうしさ。
「よし、いっちょ頑張りますかー!」
『ああ』
さて、ダンゴムシとタヌキネズミと石トカゲと真っ赤な鳥ね。
なんていうか・・・○ウム? いや、子ども○ウムを一回り大きくしたくらいだし、どちらかと言えば見た目もダンゴムシ寄りなんだけどさ! 森にお帰り! この先はお前の世界じゃないのよ! なんて名シーンを思い出すわぁ。 本当に帰ってくんないかな?
タヌキネズミはタヌキなのかネズミなのか分からない外見だが、大きさはタヌキよりもはるかにでかい。ていうかカムイよりでかいな。
石トカゲは、体が石のように見える鱗で覆われている。ワニくらいの大きさがあるのにどうみてもトカゲなんだよな。あれは剣通るかな? 風の剣ならいけるか?
赤い鳥は、さっき隊長に攻撃してたように鉤爪に気を付けた方がよさそうだ。翼を広げると2.5m程になる。ブラックオウルみたいに攻撃範囲に来てくれるならいいんだけど。
『俺様は上だな』
「えぇっ、う、上!? えと、じゃ、じゃあ下のトカゲで!」
『トカゲ??』 それでは伝わらなかったのか、カムイに「あれ」と指差せば『ああ、あれか』と理解した。
『じゃぁ、他はその後だな』
「ラジャ」
間近に迫った4体の魔獣に攻撃体勢で構え、私はストーンリザードに、カムイはレッドラークに向かって行く。
他の2体もこちらに向かって来るが、無視してそれぞれの示した相手を見据える。
ストーンリザードはその体が自慢なのか小細工なしの体当たりで飛び掛かってくる。魔法を纏っていない剣で受けてはみたものの、やっぱり刃は通らず弾かれたがそれは予想通りだ。
「まあね、一応ね、試してみなきゃだったし?」
ターンして飛び掛かってくる相手に、風を纏わせながら剣を走らせると、今度はその体に一筋の亀裂が入った。
〈キシィッ! キシイイィッ!〉
「そんなちょっと切れただけで慌てんなって」
ストーンリザードは傷を見たいのかグルグル回りながら声を上げていた。
その隙を狙い、追撃しようとしたその時。
ゴロゴロゴロゴロ
「あぁっ! もう! 邪魔ぁっ!」
アルメイドバグが転がりながら突っ込んで来た。
それを躱しながら、ストーンリザードへと向かったが、一瞬目を放した隙にその姿が消えた。
気配察知で振り向くと、岩に擬態していたストーンリザードが背後から迫っていた。
「くっ!? あぁっ! そういえばそこに岩とかなかった!」
察知するのがちょっとでも遅かったら攻撃を受けていた。
ゴロゴロゴロゴロ
「またかよ!」
アルメイドバグの攻撃は細かい動きはできないようで避けるのは簡単だったが、大きさがあるためどうしてもストーンリザードから目が離れてしまい、擬態を許してしまっている。
辺り一帯には丁度同じような大きさの岩が多く、擬態時に気配も弱めているようで、上手く対応できないでいる。
攻撃時には気配察知できるので当たりはしないのだが、これではいつまで経っても終わらず、カムイになんて言われるか分からない。
「目が離れた時に見失うなら、見失わなければいいんだよねぇ?」
再度転がってきたアルメイドバグを気配だけで感じ、構わずストーンリザードに向かうことにした。
ぶつかる寸前で、〈走風駆〉を前に進むためではなく、上に飛ぶために使った。
ストーンリザードは素早くその場からズレ、さっと擬態する。
が、上に飛んだ私には全部丸見えだった。
「バーカ! 旋風迅・乱!」
擬態したばかりのところにいくつもの風の剣をお見舞いする。
たまらず擬態を解き、逃げようとするがそうはさせまいと、剣を尻尾に突き立て動きを封じる。
「疾風刃・円」
幸い、トカゲの尻尾切りみたいなことはできないようで、その場で必死に逃げようとバタバタしていたがそれも虚しく丸ノコ状態にした〈疾風刃〉の餌食と化した。
*
さて、あいつを下に引きずり降ろすにはどうするか・・・。
レッドラークへと走り出した俺様だが、途中でアドヒーラックスへと方向を変えた。
ずんぐりした図体に短い手足、そのわりにちょこちょこと素早い動きで向かってくるアドヒーラックスの相手へと切り替え、は、しない。
こいつも意外と跳躍力があったはずだ。踏み台にするついでに〈疾駆〉を使い、その勢いを殺しておく。
〈チィィィッ!〉
踏みつけられ腹這い状態に倒れたアドヒーラックスを尻目に、当初の標的だったレッドラークまで跳び、首元に噛みついた。
〈ピィィーーーッ! ピィィィーーーッ!〉
仰向け状態になり、上手く飛べず俺様を上に乗せたまま地面へと落ちていくレッドラーク。
このままではマズイとその鉤爪を立てようとしたが、すんでのところで俺様が離れた。
レッドラークが開放されたと安堵したのも束の間、さらにアドヒーラックスを足蹴にして俺様は跳んだ。
それを何度も繰り返され、レッドラークは体のあちこちから血を流し、次第に思うように飛べなくなっていた。
『ようやく、降りて来たな』
飛べなくなった鳥など、あとはどうにでもできるが早めにケリをつけないと、いい加減アイツがうざったくてしょうがない。
何度も踏みつけたせいで、イライラがMAXになっているのかチィーチィーチィーチィーとうるさいしな。
もう一度跳び、レッドラークの背中へと降りる。
『虚脱』
レッドラークは残っていた力も失い、そのまま墜落するように地面へと向かう。落ちる間際に〈疾駆〉を使い駄目押しに叩き付けた。
『よし、一匹終わりだな』
次話からまた2日更新に戻しますのでよろしくお願いします。
今月中は時間不定期のままです。




