01:召喚1
適度に楽しんで書くつもりなので適度に楽しんでもらえたら何より。
「じゃぁな、旅をするのにはこれくらいあれば後はもうどうにか一人でやってけるだろう」
「お前には任務が課せられてるんだから易々と戻って来るんじゃないぞ」
そう言って数人がかりで連れてこられ、半ば放り出される形で城から追い出された私。
「はぁ・・・もうそろそろな気はしてたけど、やっぱいざとなるとどうしようかな・・・」
スカートに付いた砂埃をパタパタと払い、投げ付けられた袋を拾った。
すでにその腕には、銀掛かった紺青色の丸い毛玉が抱えられていた。
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ジリリリリリリリリ
「う、うーーーーん」
リリリリリリリッ・・・
・・・・すぅ、すぅ
長年住み慣れてきた部屋でいつものように鳴り響く目覚まし時計を、迷いのない慣れた手付きで止めた。伸ばした腕はするすると布団の中へと戻り、伸びていた体を丸め、布団を巻き付けながら、至福の二度寝へと誘われようとしていた。
ダンダンダンダンッ ガチャッ
「伊織! いつまで寝てるの! 早く起きて学校行きなさい!! ほら伊織!!」
「・・・うう~ん、も~お、起きてるってばー」
「じゃぁ早く着替えてご飯食べて!」
「ふあ~、んん~、はいはい」
背伸びをしながら、母さんに返事を返す。
「返事は一回!」
「は~い」
「伸ばさない!」
「はいっ」
高校二年生の初夏。
すでに、冬服から合服に変わり、もうそろそろ夏服へ衣替えという時期であるが、まだ肌寒い日もある。パジャマ替わりのジャージを脱ぎ、制服へと着替える。シャツにスカート、リボンを着け、紺色のベストを着た。クラスの半数はこのベストももう着ていない。私は……なるべくギリギリまでベストを着ていたかったので着ている側に入っている。
肩甲骨まで伸びた髪を梳かし、きゅっと上で一つにまとめた。
「よし」
最近では化粧をしてくる女子も多いものの、私は今のところ興味がない。支度なんて簡単なものだ。
階段を駆け降り、リビングへ入ると、もう既に家族は皆食卓に着いていた。
綺麗に巻いた玉子焼きに豆腐とワカメの味噌汁、鯵の焼き魚に炊き立てのご飯。食後用のお茶の葉もしっかり準備してある。朝の忙しい時間に巻いた玉子焼きを作る母さんとか、朝はギリギリまで寝ていたい私は感心してしまうよ。
「おはよう、父さん」
「おー、おはよう。眠そうだな~! 昨日も遅くまでゲームしてたんだろ?」
「うん。だってボス戦長かったんだもん」
「あ、ディアボロスでしょ! あいつ攻略めんどいもんね」
「そう。哲生はもうクリアしてるもんね。くっそう…」
「伊織姉も哲生兄もゲームにそこまで時間かけるとか意味分かんない」
「いいよ別に、深月に分かってもらえなくても」
「そうそう」
「別に分かりたくないし!」
「漫画やらゲームやらばっかしてないで早く寝ろよー。目悪くするぞー」
「大丈夫大丈夫、視力いいし。親譲りじゃん。
まぁ、しょうがないよ。面白いのが悪いんだ」
そんな会話をしていると朝はバタバタと忙しい母さんが焦れったくなったのか、ズオォォォォという見えない効果音を背負って睨みを利かせた。
「もう! い い か ら! 早く食べなさい!!」
「「「「はーい」」」」
父さんまで子どもと同じ扱いだ。
*
ここは海に面し、緑にも囲まれた自然豊かな土地でこの地域一帯で小学校から中学校まで大体同じメンバーで過ごし、高校生になるといくつかある学校にそれぞれ散らばっていく。
私は地元の高校に通っており、中学までの約1/4程の慣れ親しんだ顔ぶれがそのまま地元校に進んでいる。
家ではボケることが好きで工作やらスポーツやらとなんでもやるような世間でも割と人気者の父さんに、料理に裁縫にと得意な母さん、姉妹二人に挟まれ大人し目だが私と趣味が合う弟に、なんだかんだケンカも多いが部屋に入り浸って話したりもする妹といった、ふざけ合う程明るく仲のいい家族に囲まれ幸せではある。―――のだが、学校ではと言うと…
「ねぇ、昨日のドラマ見た?」「今日、帰りにさー」「見てこの写真めっちゃ上手く撮れたと思わない!?」「なーちょっと 一狩り行こうぜー」
私はこの雑多な会話のどれにも参加していない状態だったりする。
今度のきっかけはなんだったか。
ゲーム好きな私が、同じくゲーム好きの男子の輪に入りながら遊んでたんだっけか。
その中に好きな男子がいるのか、それともただ男子の中に入っていること自体が癪なのか。
小さな頃から男子でも女子でも関係なく遊び回ってた私は小学生の時から無視されたり物を隠されたり落書きされたり、かと思えばある程度期間が過ぎれば何事もなかったように話しかけて仲良くなったり。今はもちろん男子と遊びに行くなんてことはなくなったけど、趣味の話はやっぱり男子との方が盛り上がるんだよなあ。そりゃ私だって話に付いてこれる女子がいるなら問題ないさ。
ゲーム? パズルとか? 育成とか?
漫画は恋愛ものの少女漫画なら! みたいな感じのトークじゃないんだよね。
アクションとか謎解きとかRPGとかさ。やり込み系が楽しいもの。
それなのに、話の合う方に行けばこれだもの。女子ってほんと、めんどくさい。まぁ、その女子も一部の話ではあるのだが。
別に私は勉強ができないわけでも、運動ができないわけでもないし、ある程度は誰とでも話せるから、一人にされようが今までも頑張って学校来てたけどさ。
それでも小学生の頃なんかは本当に学校も行きたくなくて憂鬱な時もあって悩んでいた。そんな時、母さんはあんたがその子達に悪いことをしたわけじゃないんだから負けずに頑張れって言ってくれた。
いじめについては親に直接言うことはしていなかったのに、様子が変だからと問い詰められバレた。それで、自分でどうしようもなくなったら任せろ、いつでも学校に乗り込んでやるから、と言ってくれたことで頑張れた。一人で泣くことも多かったけどさ。今では、誰かが見ててくれる、知ってて応援してくれるってことはそれだけで心強いものになっていたんだと思える。
しかし高校に入って仲良くなった人までもそうすることが決まってるかのように、慣例化してるのがまたなんともね。
この歳になってもこんなことが続いてるのも、主犯格である〈田渕〉ってのがなぜか同じ高校にまで進学してきたからでもある。そんなに嫌なら放っておいてくれたらいいのに、とも思うが向こうはどうしても何かしたいらしい。
そんな日々を過ごしていたからか次第に人の動きの予測をしたり表情の機微や感情の変化に敏感になった。ゲーム脳だからか、そういう経験値でもあるのかなとも思ったりする。いいのか、悪いのか、人間もそういうスキルを持ってるのかもしれない。
私の周りの何人かの女子を巻き込んで始まったそれだが、そういうことに興味ない女子とは日常会話くらいは喋るし、他の男子とも普通に喋るくらいはする。またそれが輪を掛けてるのかもしれないけれど、もういちいち構ってられないと、最近ではどうでもいいと思えるようになってしまった。
私も慣れたといえば慣れたけど少なくとも煩わしさは付き纏う。諦め、もあるのかもしれない。
もう最近では、友達というものを深くは信じていなかったりもする。喋るけど友達ではない同級生。一緒にいるけど本当に友達なのか分からない同級生。
家族だけは裏切らないってやつ。
ああ。いっそのことどこか違う場所に行きたい。
「まじで!? あれ難しくなかったか?」
「いや、あそこに隠しアイテムがあるからそれ回収して挑めばいいんだよ~」
「またお前裏技見っけたのかよ!」
「あったり前だろお~、やり込み度が違います!」
私の近くで割りといつも一緒に趣味の話をする男子のグループがゲームの話で盛り上がってたりする。私は今日はそれに混じらず、いい感じに日光に暖められながら窓際の席でボーッと外を眺めていた。
その時、空にピキと小さな亀裂が入ったように見えた。
ん? と思った時にはすでに閉じてしまったようで、眠すぎて一瞬寝てたのかとも思ったが、そこに黒い点が見えていた。
それは、スーッと降りてきた。近付くにつれそれが人だと分かった。
ファンタジーでいう神官とか宰相とかの全身が隠れるくらいの足元まである豪奢な白地のローブに、額には宝石がついてるサークレットがある。肩甲骨くらいまであるロマンスグレーの髪を下で一つに束ね、口髭と顎髭を口の回りにぐるりと生やした、ブラウンの瞳の初老のおじさまといった、なんだか威厳を携えてるような男性だ。
ぽかーんと見つめていると、その人がゆっくりとベランダに降りてきた。
えー、ていうか私の目の前なんですけど。
それに気づいたクラスメイトから次第にクラス全体が、しん、と静まり返る。
え? とか、は? とか微かに聞こえる。
「◎~★※~◇▽※、☆▲@~≡※!!」
は? なに言ってるか分からないんですけど?
と思うとほぼ同時に、その人が持っていた杖で地面をトンと叩いた。
途端に目も開けていられない程の眩い光が教室を覆い、全員が目を瞑った。
城を出るまでやや説明回。
設定部分なので波はない。でも大事な部分だと、思っている。