06 オーク狩りの後 前編
無事オークを倒した4人は、思わぬ壁にぶち当たっていた。
「重いね」
4人がかりでも運べない。
持てる分だけ切る、運び屋を呼ぶなど案が出るが、報酬が大幅に減ることが予想されて中々決まらない。
そこへ、トコトコと近づいてくる者がいた。
「ダッグ!」
シイフがいの一番に気づいて手を振った。
「ダッグの旦那、なんか泣いてないっすか?」
「ホント? ……ふふっ。あれ、涎だよ」
ダッグは4人の横を通り過ぎ、オークの周りをうろうろする。
「素晴らしい。とても良い状態だ。早く肉屋に持っていこう」
「それなんだがよ。俺達じゃ重すぎて運べねえんだわ」
ゲスールは渋い顔で言う。
「そんなことか」
ダッグは前足をオークの額にペタ、と付けた。
肉球の痕がくっきり浮かんでいる。
「『浮遊』の魔法をかけた。これでかなり軽くなる」
シイフが試してみると、軽々と背負うことができた。
問題も解決したので、4人と1匹は肉屋に直行する。
ダッグとテッタが貰った分を除いても、オークは60万ジーになった。
値段が高い理由は傷が少なく、若い雄だからとのことだった。
「たった1日で大金持ちっすね~」
「稼げたけどよ、今回はシイフが死にかけた。当分オークには手を出したくねえぜ」
「悪いなダッグ。他に好物とかないか?」
「ふむ。鹿も食す」
「よし! 今度の狩りは鹿にしようぜ!」
「シイフはホントに犬が好きなんだね」
「筋金入りっす」
「……」
ダッグはゲスールに近づき、前足をかけた。
ゲスールの頭の中にダッグの声が響いてくる。
『先日、森の奥で王級に成長しうるモンスターが生まれた。逃げるばかりではなく、今のうちに強くなっておいた方がいい』
(なっ……)
王級。
単体でも強いが、群れを指揮して街を襲うモンスターがそう呼ばれる。
『さて、こちらが本題なのだが、オークを狩って来たら魔剣を贈ろう。その名もオーク・イーター』
(そっちが本題なのかよ! 普通逆だろ! そいつはどれぐらいで成体になるんだ?!)
『楽しみにしている。む、想像しただけで涎が』
(聞けよ!)
ダッグは軽快な足取りで去っていった……。
「この後どうするの? 狩りに行く?」
シロノはゲスールに質問した。
「いや、十分稼いだから解散にしよう。俺はギルドに報告してくる」
「あっしは肉の下ごしらえするっす!」
「俺はどうすっかなぁ。なんか疲れたし、ゆっくり寝るか」
シロノは街で買い物をすることにした。
まだ朝の早い時間だが、往来は人で混雑している。
魚を売る声。
野菜を売る声。
鎧に身を包んだ騎士の姿。
(あの鎧かっこいいなぁ。ボクも着てみたい)
今なら買えちゃうぞ? と浮かれるシロノ。
そんなシロノの視線に気づいたのか、騎士が近づいてきた。
「あたいに何か用かい、子猫ちゃん」
兜でくぐもってはいるが、女性の声だった。
シロノは正直に鎧を見ていただけと伝える。
「騎士になりたいのかい? もったいないねえ。せっかく可愛い顔してるのに」
女騎士が言うには、日々の厳しい訓練で自然と体中の筋肉が鍛えられ、そこらの男よりも雄々しい体になるとのこと。
それはちょっと嫌かな、とシロノは思う。
女騎士はその後、もっとお洒落にした方が良い、お勧めの服屋はどこだ、おいしいレストランはあそこだとお節介を焼き、「変な男が寄ってきたらあたいに言いな。とっちめてやる」と男らしい台詞を残して警備の任務に戻っていった。
特に予定もなかったので、シロノは試しに勧められた服屋を覗いてみる。
赤、青、緑に黄色。
色とりどりのドレスや帽子が目に飛び込んでくる。
「いらっしゃいませ!」
金髪の女性店員が笑顔で迎えてくれる。
「お客様は冒険者さんですか?」
「分かるんですか?」
「はい。うちでも扱っている商品ですから。丈夫で長持ちだと好評です。失礼ですがパーティでの役割をお聞きしても?」
「後衛で狙撃をしてます」
「それでは弓を扱う女性に人気のものなどいかがでしょう?」
店員が見せてくれたのは胸当てが付いたワンピースと、腿まであるロングブーツだった。
「これ、めくれたらパンツ見えちゃいません?」
「そこがポイントです!」
「へ?」
宣伝トークが繰り広げられる。
「ちらっと見せて、相手の気を引くんです。そこを前衛が刺す。これが意外と有効みたいですよ」
「モンスター相手に効くかなぁ」
「あ、モンスターは赤い下着じゃないとダメみたいですね」
「効いちゃうんだ……」
「騙されたと思って1着いかがですか?」
「う、うーん。じゃあ、赤いパンツと1着ずつで」
(この方法で倒されるのって、死んでも死にきれないよなぁ)
せめて最期に見るのならと、シロノはなるべく可愛いデザインのものを選ぶのだった。




