53 アンヌヴンの魔法使い4 顛末
ミーノスは竜巻を目くらましにして、一度シロノ達がいる場所に転移した。
ダッグやラグネル達もいて、アンヌヴンの魔法使い2人も倒したようだ。
他に魔法使いはいないので、シロノ達も取り逃がしたのだとミーノスは判断する。
「あ、ミーノスさんだ。おかえり。温めておいたよ」
ズイ、と白い板のような物を差し出される。
その上に乗っている焼肉の木箱を持ち上げると、熱々だった。
「『保温』を使ったのか……いや、それだとここまで熱い理由にならぬか」
「『灼熱』っていうみたい。あっためるのに便利なんだって」
「そ、そうか……すまぬ。こちらは取り逃がしてしまった。『マナ喰らい』というオークを操る魔法使いで、そやつには魔法が全く効かなんだ」
「はて? ブオウは死んだはずだが」
ダッグの言葉にシロノとリブも首を傾げる。
「ブオウとはオーク・キングのことか?」
「左様。私はオークを愛する者。彼らの言葉も理解できる」
「ぬ? それは妙だな。我の前に現れたオークは人の言葉を話していた」
「ミーノスさん。そのオークって、胸に穴とか空いてませんでした?」
「いや……傷跡もなかったはずだが」
「うーん。別のオークかな?」
「そうポンポン『マナ喰らい』が生まれるとも思えん。理屈は分からんが生きていたというのなら対策しなくてはならん。趣味じゃないが篭手でも買うか」
「また『石の雷』で倒せばいいんじゃないの」
「ん? んー、まあ、そうなんだが……私はあまり投擲は得意ではない。それに、ただ避けるしかできないというのも癪だからな」
リブはきゅっと拳を握り締める。
その姿がゲームに負けて悔しがる時のレムに似ていて、シロノは思わず頭を撫でてしまう。
ミラルダは気絶しているエリトをシロノの前に運んできた。
「シロノさん。魔銃でこいつのマナを吸い取ってしまってくれませんか」
「いいよ。はい、『塩の矢』。握らせて、適当な所で引き金を引かせればいいから」
「ありがとうございます」
顔色の悪いエリトから、どんどんマナが搾り取られていく。
シロノは「氷の矢」をマステマにも握らせようと、ラグネルに近寄る。
ラグネルは首を横に振った。
「シロノちゃん。この子はもう、死んでるんだよぉ……」
「え? 気絶してるだけじゃないの?」
「心臓を串刺しにしたからねぇ。助かりっこないさ」
「うーん。まるで生きてるみたいだけど……ミーノスさん、この男の子の魂を剣に吸収させられませんか?」
「……可能なはずだ」
「いや、それは困るね」
マステマが目を開いた。
シロノは飛び退き、マステマの額に「氷の矢」を向ける。
マステマは両手を上げた。
「抵抗はしないよ。降参する。もう帰る力しか残っていなくてね。このお婆さんがここに連れてきてくれそうだったから、死んだ振りをしていただけなんだ」
「どこが弱点なの?」
「それは言えないよ」
「ふーん」
「一なる刃」が光の玉になり、14本の牙に戻った。
そして、ふわふわとシロノの周りに漂い始める。
切っ先はマステマの頭、首、体と、全身くまなく照準をつけている。
「用心深いね。まぁ、君のそういう所は、好ましいと思うよ」
マステマの言葉に、リブの額に青筋が浮かんだ。
「貴様ぁ……私の前でシロノを口説くとは、死にたいらしいな!」
リブの背後に黄金の魔法陣が浮かび上がる。
「僕は主にこの身を捧げていてね。他の誰かにうつつを抜かすことはないよ。とうか、悪いんだけど急いでもらってもいいかい。あまり時間が残っていないんだ」
「リブちゃん、ここは私に免じて許してやってくれないかい」
「……ふん、仕方ない。今はその言葉を信じてやろう」
ラグネルはマステマの指示に従い、氷漬けの男の上にそっと横たえた。
その隣に、ぐるぐる巻きに縛られたエリトも置かれる。
リブは質問を投げかける。
「ひとつだけ教えろ。お前らは私達に報復をするつもりはあるのか?」
「ないだろうね。トップの人達はこれで結構のほほんとしていてね。次頑張ればいいよって言うだけかな」
リブの頭に目の前の少年の声が響いてくる。
『ところで、あなたは僕達、アンヌヴンに戻る気はあるのかい』
『誰かと勘違いしてないか』
『再生のリブ。アンヌヴン結成初期のメンバー。金色の魔法陣を見せたのはまずかったね。それで確信したよ』
『何百年前の話をしている……お前もあれか。若作りしてる性質か』
『おば……トップの人達と一緒にしないで欲しいね。膨大な知識と記録の図書館みたいな物がうちにはあるだけだよ。時間も推してきたんだけど、僕からも1ついいかい』
『お前の主を教えれば答えてやらんでもない』
『貴婦人』
『あいつか。聞いて後悔したぞ……まあいい。何が知りたいんだ?』
『記録では、あなたは師匠が作った秘薬を飴玉と勘違いし、それを盗み食いして永遠の若さを得たことになってるけど、本当なのかい』
『盗み食いではない。私はちゃんと、この飴食べていいかと確認した。あれは師匠がボケてたせいだ』
『あの人ならあり得そうだね……ありがとう。あなたの時代の記録は物凄く適当だから参考になったよ』
マステマは首飾りの石を握り締めた。
3人が青白く輝きだす。
「それじゃあ……次の任務では会わないことを願うよ」
それだけ言うと、マステマ達は姿を消した。




