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05 犬とオーク

 コン、コン。


「ふにゃ?」


 ノックの音で目が覚めた。

 外はまだ日が昇り始めたばかりだ。


「シロノさーん。あっしっす。お迎えにきやしたー」

「はーい。着替えるからちょっと待ってー」


 目をこすりながら肌着の上に長袖、長ズボンを着る。


「おはようテッタ。随分早いね」

「すいやせん。兄貴達が張り切っちゃって。あ、顔まだ洗ってないっすよね。『洗浄』」


 風が吹いて、顔を洗った後の爽やかな気分になった。


「ゲスールの兄貴が『今日はこき使ってやるから覚悟しとけよ!』って言ってたっすけど、何したんすか?」

「あはは、ちょっとね」

「と言っても、朝ご飯食べれば機嫌直ると思いやす。シロノさんの分もあるっす」

「わ、ほんと?」

「森の手前にまず集合っす」


 テッタと2人森まで行くと、切り株にゲスールとシイフが腰掛けていた。


「おはようシロノ! 昨日はみっともねえトコ見せちまったが、今日もよろしく頼むぜ」

「てめえシロノ! 昨日のアレは何だったんだ! 今日の狩りは気合入れてけよ!」

「おはよう。今日もよろしくね。さっそく狩りに行くの?」

「いや、まず飯だ」

(さらっと流すなんて、シロノさんはやっぱ肝が据わってるっす)


 テッタは鞄から作ってきた朝食を取り出して配った。

 パンに焼いた猪の肉を挟んだものと果物が渡される。

 猪の肉は脂が少なく、さっぱりしていて食べやすかった。

 果物は甘酸っぱく、果汁が多い。


「お、野良犬じゃねえか」


 シイフの声が弾む。

 クリーム色の大型犬がトコトコ近寄ってくる。

 犬は1メートル離れたところで立ち止まり、4人の顔をじっと見つめてきた。


「なんだ。肉が欲しいのか? しょうがねえなあ、ちょっとだけだぜ?」


 シイフはちょっとと言いながら残りの肉を全部犬にやろうとする。


「それには及ばない」

「しゃ、喋ったっす!」

「落ち着いてほしい。私はダッグ。オークを愛する者だ」


 ダッグはぺこりと頭を下げた。


「オークを愛するだあ?」

「左様。オークの肉はうまい。まず、噛んだ時に広がる肉汁の匂い。それだけで頭の奥が心地よい浮遊感に包まれる」

「その話、長くなりそう?」

「君が望むなら、1日中でも語ることができる」

「おいしい調理方法とかも知ってるっすか? 料理の幅が広がるから聞いてみたいっす」

「待て、後にしろ。ダッグさんよ。こちとら喋る犬なんざ初めてだ。警戒するなってのは無理なんだがな?」


 ゲスールは剣を抜いた。

 シイフは残念そうに肉をパンに戻した。


「普段なら君達にオークを振る舞い、その素晴らしさを理解してもらうのだが……非情に残念なことに、昨日食べてしまった」

「……それで?」

「見たところ君達は冒険者だろう。私は群からはぐれたオークの居場所を知っている。情報の代価として肉を分けてはくれまいか?」


 シロノはテッタにそっと話しかける。


(ねえ、オークって何?)

(森の少し奥に出るモンスターっす。あっしは見たことないっすけど、立って歩く大きな豚らしいっす。たまに肉屋に並ぶんすけど、高いっす)


「オーク狩りの依頼ってわけか。なんで俺達なんだ? 冒険者は他にもいるだろ」

「なに、たまたまだよ。強いて言うならそこのお嬢さんの腕を見込んで、かな」

「へ? ボク?」

「肉屋が褒めていた。左目を1撃。狙ってやったなら大したもんだ、とね。昨日猪を持ち込んだ白いお嬢さんとは君のことだろう?」

「ええ、まあ」

「ちょっと相談させてくれ」


 ゲスールは強引に会話をうち切った。

 相談タイムの始まりだ。


「なあゲスール、ちょっと撫でてきていいか?」

「ちゃんと許可取ってからにしろよ?」

「おう!」


 シイフはダッグの元へ走った。


「いいの? オーク狩りするか話し合うんでしょ?」

「シイフは犬とか猫に目がねえんだ……」

「そ、そうなんだ」

「シイフのことは放っておいて、オークだ。正面から馬鹿みたいにやり合ったら骨折程度じゃすまねえが、俺達にはシロノの魔銃がある」

「昨日の猪みたいにいきやすかね?」

「まあ無理だろ。だから罠を使う。テッタ、ロープはあるな?」

「あるっす」


 ゲスールの作戦はこうだった。

 まずシロノが隠れながらオークを撃つ。

 身軽なシイフがオークを挑発して囮になり、逃げながら罠に誘う。

 オークが来たらテッタとゲスールがロープを引っ張り、オークを転ばす。

 すかさずシイフがオークの喉を切り裂いて任務完了、という流れだ。


「上手くいきそうじゃない?」

「俺もそう思う。それで報酬なんだが、安くても50万は固い」

「そんなにするっすか!」

「ダッグに渡す分があるから、多少は減るだろうがな」

「あ、それならあっしも少し欲しいっす。オークの肉は高くて手が出ないんすよね」

「程ほどにな。他に良い案はあるか?」


 しばらく話し合った結果、ゲスールの作戦で狩りをすることになった。

 シイフに撫でられてひっくり返っているダッグに取り分の肉について尋ねると、意外と少なかった。

 本人曰く「また狩ってきてくれればいい」とのこと。

 4人がダッグの言う場所へ行ってみると、オークが1匹、泉で水浴びをしていた。


「俺の『索敵』でもオークは近くにあれ1匹だぜ」

「それはいいけど……あのオーク、なんかすごくご機嫌だね」

「鼻歌が聞こえてきそうっす……」


 オークは遠目にも分かるほどリズミカルに体を揺らしていた。


(やりづらい……)


 少し罪悪感を感じるシロノだった。


「調子狂うが、作戦通りに行くぜ。シイフ、さっき目印付けた木まで誘い出してくれ」

「あいよ」


 ゲスールとテッタは罠を張りに行った。

 あまり時間も経たないうちにオークが岸に上がり、ズボンを履き始める。


「やべえ。シロノ撃て。どっか行っちまう」

「え? まだ早くない?」

「逃げられるよりましだ。ロープ引っ張るだけだし、そんな時間かかんねえだろ」

「じゃあ、お腹でいいかな?」


 ぐーっと背伸びしているオークの突き出た腹に、シロノは容赦なく撃ち込んだ。


「ピギ!?」

「んじゃ行ってくるわ! おらあ豚野郎! 覚悟しやがれ!」


 腹を押さえてうずくまるオークに、シイフは石を投げた。

 石は見事に頭に命中し、オークは鬼のような顔でシイフを睨みつける。

 

「ピギィィィ!」

「げ」


 オークがツルハシを投げた。

 ツルハシはあっという間にシイフに迫る。

 だが、カチンと甲高い音を立ててツルハシは明後日の方向に飛んでいく。


「逃げるよシイフ!」

「助かった!」

「ピギィィィ!」


 2人はゲスール達が待つ罠めがけて全力で走った。

 しかし、オークはどんどん追いついてくる。


「今だ!」

「はいっす!」

「ピギ!?」


 オークはロープに足を引っかけられ、盛大に転ぶ。


「やれ、シイフ!」

「おう!」


 首にナイフを刺すため、シイフはオークに駆け寄った。


「ピギィィィ!」


 その巨体に似合わない反射速度で立ち上がったオークは、ナイフを無造作に叩き落してしまう。


(嘘だろ?!)


 立ち上がったオークは、シイフより2回り以上大きかった。

 荒い鼻息がシイフの髪を揺らす。

 オークが拳を振り上げるのを、シイフは他人事のように眺めることしかできなかった。


「逃げろシイフぅぅぅ!」


 ブォンという音。

 ゲスールの予想に反して、オークの拳は空振りに終わった。

 運よくシイフが腰を抜かしてへたりこんだのだ。

 もう1回。

 オークは腕を振り上げようとするが、それはシロノが許さなかった。

 顔のど真ん中に突き刺さった氷の矢は脳に達し、オークに致命傷を与える。

 オークの巨体はグラリと、ゆっくりシイフの上に倒れていった。


「げふ!」

「兄貴ぃぃぃ!」

「お、重い……早くどけてくれえ……」


 危ない場面はあったが、こうして初のオーク狩りは無事(?)に幕を下ろしたのだった。

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