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46 魔物大発生1

 朝、シロノ達は食事を済ませ、ギルドへ向かった。

 ギルドの中はシロノ達以外に冒険者の姿はない。


「今日はボク達が1番乗りかな」

「良い依頼が取れるわね」


 受付の3人は、珍しく机に突っ伏している。


「おはようマシブさん。今日は依頼をこなしにきたよ」

「……ん? お、おお。おはようさん。ちょっと緊急事態が起きてな。こちとら徹夜で、さっき一段落したんだよ。とある筋から連絡があってな、今日の夕方あたり魔物大発生スタンビートが起きるらしい」

「ちょっと、それ本当なの?!」

「何ですか。その魔物大発生スタンビートって」

「お前さんはまだ生まれてなかったか? 魔物がある日突然、大量に街に押し寄せてくるんだ。十数年に1度の周期で起こる災害だな」

「規模はどのくらいなんだ? 軍が出張るなら、私達は街から出られないのか?」


 マシブは羊皮紙を出し、絵を描き始める。

 右側に丸を、左側に大きな四角を描く。


「この丸が街で、四角が西側の森だ。これ全部が子鬼……ゴブリンだと思ってくれ」


 マシブの描いた絵を信じるならば、ゴブリンの群れは街の10倍はある。


「マシブ、世話になったな。街の無事を祈っているぞ」

「いきなり逃げようとするんじゃねえ! たかがゴブリンだ。お前なら楽勝だろうが!」

「素振り何万本になると思っている。それに数が多すぎる。あっという間に群れに飲み込まれるだけだ」

「作戦はあるんだよ! 兵士が防衛線を張る。魔法使いが後ろから攻撃魔法をぶっ放す! 俺らは打ち漏らしたのが街に入るのを防ぐ。簡単に言うとこんな感じだぜ!」

「勝算はあるのか? 半端な魔法では焼け石に水だぞ」

「当てはあるぜ! 引退した後も趣味で魔力を磨き続けてるパン屋の爺さんとか、怒ると怖ええ花屋の看板娘とかな!」

「頼りになるのか? それは」

「とにかくお前等も強そうな奴に片っ端から声をかけてくれ。街の存亡に関わってくるから、マジで頼むぜ!」


 拝み倒すマシブに根負けする形で、シロノ達は街の防衛に参加することを承諾する。

 テーブルの周りに座り、どうするかを話し合う。


「知り合いって言っても、ボクあんまりいないよ?」

「私もよ。大抵は研究員か、冒険者になってるから、改めて声をかけられる人なんていないわ」

「シュナ、お前の知り合いは呼べないか?」


 暗にマイア達を呼べないかと尋ねるリブに、シュナは首を横に振った。


「……ここは、知らない人が、多すぎる。呼ぶのは、不安」

「仕方ないか。後はマリンくらいか?」

「なら、俺がちょっと行ってきますよ。街のためなら、あの人もタダで薬をくれるかもしれません」


 ミラルダはギルドから出て行く。


「強そう、強そう……あ! ダッグはどうかな」

「どんな方なの、その人」

「喋る犬だよ。けっこう強いと思う」

「シロノさん、今はふざけてる場合じゃないのよ? 真面目に考えてちょうだい」

「あいつはどこにいるか分からん。見つけたら声をかけよう」

「ちょっとリブさん、本気?」

「少なくともお前より戦える。分身はするは、槍は使うはとやたら器用な奴だからな」

「器用で片付けていいのかしら……」

「そうだ。山賊の人達もいるよ。あの人達も戦えるんじゃない?」

「あいつらか……人手は多い方が良い。ダメ元で声だけでもかけてみるか」

「あなた達の交友関係が恐ろしいわ」


 シロノとリブは騎士の宿舎に山賊達の協力を要請しに行き、テオとシュナはギルドでミラルダが戻るのを待つことになった。

 宿舎に行くと、騎士達が慌しく動いている。

 運が良いことに、クーをすぐに見つけることができた。


「お! 今日はスカートかい。青もいいね。似合ってるよ」

「ふふふ。ありがと。クーはもう魔物大発生スタンビートのこと知ってる?」

「今朝聞いたよ。兵士を集めたり、小隊を編成したり、大忙しさ。今回は作戦が簡単だからまだマシだけどね。シロノ達はギルドのお使いかい?」

「ううん。この間捕まえた山賊に手伝ってもらいたくて来たんだ」

「パーの一族だっけ? 牢屋の中でも毎日訓練してるって評判だよ。反省もしてるし、自警団を作るとか言ってるから魔物大発生スタンビートの間は仮釈放されるかもね。よし、ちょっと団長に聞いてみるよ」

「ありがとう」

「良いってことよ。あたいとシロノの仲じゃないか」


 キラリと白い歯を光らせながら笑う。

 2人は待っている間、第2騎士団の女性達にしきりに声をかけられた。

 握手を求められたり、肩車をされたりして、休む暇もない。

 そんなことをしているうちに、10人程の山賊を連れてクーが戻ってきた。


「許可が下りたよ。逃げられたら罰金、山賊は賞金首になるから間違っても逃げんじゃないよ」

「お前ら! 姐さんに迷惑かけんなよ!」

「「押忍」」

「あれ? お頭さんがいないけど」

「あいつは反省の色が見られないし、隙を見て逃げそうだったからダメだったよ」


 受け取りの羊皮紙にサインをして、ギルドに戻る。

 ギルドは人だかりが出来ており、入れそうになかった。

 服の裾を引っ張られる。


「……いた」

「シュナ。テオは?」

「……ん」


 シュナが指をさす。

 ゲスール、シイフ、テッタ、そしてミハエルとテオ、ミラルダと喫茶ガーウェンの店主がいた。

 合流すると、ミラルダがラグネルを紹介する。


「ラグネル婆さん。俺の剣の師匠とも言える人です」

「こんなお婆ちゃんだけど、まだまだ若い子には負けないよぉ」

「あとはダッグがいれば良かったんだけど、誰か見てない?」

「いえ、残念ながら見ていません」


 シイフが手を上げた。


「ダッグなら用ができたとか言って、今朝森に走ってったぜ。手伝うかって聞いたんだけどよ、命を懸ける覚悟はあるかとか言うから、無いって言ったら置いてかれちまったぜ」

「師匠のことなんで、オーク絡みじゃねーすかね。街が大変だっつうのに、何やってんだか……」


 ポーは呆れている。


「いないものは仕方がない。今いるメンバーで何万いるか分からんゴブリンどもを相手にするしかない。マシブの作戦では歩兵が押さえている間に魔法で蹴散らすつもりらしいが、上手くはいかんだろう。どこかの戦線が崩れ、ゴブリンが大挙してくるはずだ。私はこんなところで死ぬつもりはない。危ないと判断したら即座に逃げる。悪いが、守れるのはせいぜいシロノとシュナぐらいだ。お前らも引き際を見誤るな。街が落ちても生きてさえいればやり直すことはできる。命を懸けても失いたくないものがあるなら、それを守るにはどうすればいいか考えろ」


 全員がリブの言葉に黙り込んでしまう。

 ゲスールがテッタの肩に手を置く。


「お前がいねえと飯も満足に食えねぇ。仕方ねえから、いざって時は俺が背負ってやらぁ」

「あ、兄貴……」


 シイフが立ち上がる。


「俺だって死ねないぜ。俺がいなきゃ腹を空かせる野良猫達がたくさんいるからな」


 ポーも拳を握り締め、宣言する。


「俺らは所詮ろくでなし。でも、誰かを守るために棒術に打ち込んできやした。ここで逃げたら、二度となりたかった自分になれねえ気がしやす。ゴブリンに命をくれてやる気はさらさらねえ。1人でも多くの一般人を守りながら、安全な場所へ落ち延びようと思いやすぜ」


 ラグネルはぽんとミラルダの肩を叩く。


「この子に奥義を全て伝授するまでは死んでも死にきれないわねぇ。私が年長者だし、元第2騎士団団長として、後詰めは任せてちょうだい。老いたとはいえ、剣は曇るどころか冴え渡るようになったからねぇ」


 ミハエルは気だるげに話し始めた。


「悪いけど、マナ切れになったら撤退させてもらうよ。魔法の撃てない魔法使いなんて邪魔なだけだしな」

「ミハエル先輩、私もお供します!」


 テオは目を輝かせながらミハエルに詰め寄る。

 ミラルダは剣を抜いて空に掲げた。


「俺の命はシロノさんに捧げています。必ずお守りしてみせましょう」


 街の外へ行くと、屋台が所狭しと並んでいた。

 まるでお祭りのように冒険者や兵士で溢れかえっている。


「商人は逞しいな」

「軽くつまみながら、連携とかお互いの役割分担なんかきめませんか? いざと言う時にノリでバラバラに動くのも悪そうですし」

「ミラルダの言うことも一理あるな。腹ごなしをしながら話し合いでもするか」


 現在は正午過ぎ。

 魔物大発生スタンビートまで約4時間を切った。

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