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42 少し早いお昼ご飯

「お帰りなさいませニャン!」


 屋敷に帰ると、ニャウが出迎えてくれた。

 丸い大きな目をぱちくりさせる。


「その方はお客様かニャン?」

「ああ。冒険者のシャナという。しばらくうちで面倒を見ることになった。さっそくで悪いが、何か食事を作ってくれないか」

「了解ですニャン。シャナ様は苦手な物とかあるニャン? 茹でたお芋と魚を焼く予定だニャン」

「……」


 ふるふると首を振るシャナ。

 食堂でそれぞれ座ると、さっそくリブが話を切り出す。


「女神とは何だ? 魔女が辿りつく極致か?」

「……私は、たぶん、皆の願い」


 シャナは胸に手を当てる。


「……お菓子が食べたいなぁ。それが、最初に聞こえた声……気がついたら、お腹を減らしたドラゴンの前に立っていた。それが、マイア……他にも、色んな人をお腹一杯にしてあげた」

「マイアに出会う前の記憶は無いのか?」

「……ない」

「うーむ……ならば、何故お前は『砂糖』を司る女神だと名乗った? 記憶が無ければ、自分が何者かなど分かるはずがない」

「……ん」

「む?」


 シャナの手が、ズブズブと胸の中に沈み込んでいく。

 ズルリと引き抜いた手には、白い本が握られていた。

 リブとシロノは本を貸してもらい、ページを捲ってみた。

 銀色の文字がびっしりと書かれているが、読もうとすると視界が揺れ、ピントが合わない。

 しだいに目の奥が痛くなってくる。


「くらくらするよ。リブは読める?」

「私も同じだ……なんだこれは。呪具か?」

「……ある日、ぽろっと出てきたの……私にも1ページしか読めない」

「なんて書いてあるの?」

「……女神の1柱、砂糖のシャナへ……10歳の誕生日おめでとう」

「へ?」


 シロノは目が点になる。


「……他には眷属の作り方……加護の与え方とか書いてある」

「ほぉ、加護か。神らしくなってきたな」

「どんなご加護なの?」

「……虫歯にならなくなるのと、太らなくなる」

「えーと、それってすごいの?」

「馬鹿にできんぞ。虫歯は他のことに手がつかなくなるくらい痛む。太らないのは普通にすごいな」

「え……虫歯ってそんなに痛いの? シャナ、ボク虫歯になりたくないよ」

「……ん」


 シロノの頭上にサラサラと白い砂が降りかかる。

 砂はすぐに、光の塵となって消えた。


「……リブもしとく?」

「是非頼みたいところだが、見返りは何だ? 眷属にならないといけないなら断る」

「……平気。加護は私の親切」


 リブの頭にも加護が降り注ぐ。

 リブは体のあちこちをまさぐったり、魔法を使って調べるが、特に変わったところはないと分かると落ち着いた。

 扉が開き、ニャウが料理を運んできた。


「お待たせニャーン」


 テキパキと配膳していくニャウ。

 ほくほくのじゃが芋と、香ばしい匂いのする焼き魚、それと野菜のスープが並べられる。


「……ありがとう」


 シャナは水の玉をニャウの口に放り込んだ。

 ニャウは初めこそ驚いたが、すぐに眼を瞑り、コロコロと水の玉を舌の上で転がし始めた。

 しばらく味を確認した後、ごくりと飲み干す。


「こ、こりは……ちょー美味いニャン。今まで舐めてきた花の蜜なんて目じゃないニャン!」

「……もっと飲む?」

「は! し、失礼しましたニャン。あまりの美味さについ取り乱してしまったニャン。さあ、冷めないうちにお召し上がりになって下さいニャン!」

「ニャウ、よだれ出てるよ」

「し、失礼しましたニャーン!」


 ニャウは逃げるように退室してしまう。

 シロノ達は温かい食事に舌鼓を打ち、食後のお茶を楽しむ。


「さて、人心地ついたところで本題に入ろう……シャナ、お前を封印したのは何者だ。そいつも神なのか?」

「……違うって、言ってた。確か、大賢者……とか、いずれ神を超える王者、とか言ってた」

「名前は聞いてないの?」

「……ギャ、なんとか。長くて忘れた」


 リブはシロノの膝によじ登った。

 足を組んでふんぞり返る。


「そいつは魔法使いだな。大賢者なんぞ名乗るのは魔法使いしかいない。私の時代にも、己の欲のために禁忌とされた魔法に手を出す輩はいた。恐らくその類の奴だろう。ギャで始まる名前の魔法使いについては、今度シダに聞いてみよう」

「マリンも何か知ってるかもね……そうだ、シュナって何歳なの? やっぱり年齢を聞いたら怒る?」

「……13歳。封印されてた時間を抜けば、だけど」

「なんだ。女神というから百年は軽く生きているかと思っていた。ちょうど良い、シロノにはその年頃の友達も必要だと思っていたところだ。お前さえ良ければ私達と行動を共にしないか。もちろん、神の使命やら他にやりたいことが出来たら無理に引き止めたりはしない」

「……ん。よろしく」

「よろしくね」


 3人はお互いに握手を交わす。


「それじゃあ、シュナも冒険者の登録しない? パーティ申請もしちゃおうよ」

「……面白そう」

「受付で女神と名乗るんじゃないぞ。そうだ、シュナは何が得意なんだ?」

「……ロキナに回復と防御の魔法を教わった」

「マシブに聞かれたらそう答えれば良さそうだな」


 3人はギルドで手続きを行った。

 登録は滞りなく行われ、シュナはシロノ達のパーティの一員になった。

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