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36 王級2

 ロッセは地面に正座をする。

 騎士の1人が拳を振りかぶった時だった。

 遠くから戦闘の音が聞こえてくる。


「この件は後にしましょう」

「だな。全員、迅速に移動を開始しろ」


 全員は森の中を駆けていく。

 すぐに鎧を着た熊を発見した。


「あれか!」

「わー。意外と速いねー。シロのんとリブちゃんは付いてこれるー?」

「このペースなら、なんとか」

「私も平気だ。シロノを背負っても楽勝なくらいだぞ」


 十数分ほど森の中を走ると、簡素な小屋が何軒か見えてきた。

 シロノ達は近くの茂みに隠れる。

 運が良いことに、小屋の奥、村の広場まで見通すことができた。

 黒い甲冑に身を包んだ長髪の騎士が1人立っている。

 熊は急に止まり、キョロキョロと辺りを見回した。

 右を向いたまま固まり、ブルブル震え出す。

 空に向かって雄叫びを上げると、黒い騎士へ突進していく。

 黒い騎士は地面から剣を拾い上げ、熊を一太刀で両断した。

 カマデールが茂みから飛び出した。


「第1騎士団長として全員に告げる! 全速力で撤退せよ!」

「は?! いきなり何を……」


 戸惑うロッセを他所に、カマデールは剣を抜いた。

 髪の毛を掴み、短く切り裂く。


「ロッセ君は右、私は左、同時にいく。100数えたら逃げろ! 後詰めは私がやる!」

「だぁああ! わあったよ! 死ぬんじゃねぇぞ!」


 ロッセも剣を抜いて立ち上がる。

 2人は黒い騎士に同時に斬りかかっていく。

 ロッセの大剣が首を、カマデールの剣が脇腹の鎧の継ぎ目を狙う。

 黒い騎士は自分の剣を手放すと、2人の剣を手甲で受け止めた。

 そのまま刀身を掴み、2人を投げ飛ばす。


「団長!」


 アイリを始め、1番隊の数人がロッセの元に駆けつけようとする。

 それを、リブはナナで縛り付けた。


「お前らは足手まといだ。シロノとそこで見ていろ」

「リブちゃん、冗談は後にして! 早くしないと団長が!」

「シロノ」

「はーい」


 シロノは両手をかざす。

 魔法陣が両の手の平に浮かび、白い鎖が1本ずつ飛び出していった。

 鎖はロッセとカマデールに絡みつくと、目で追うのがやっとの速さで引っ張ってきた。

 2人はベシャリと地面に放り出される。


「ぐはぁっ。れ、礼を言うぜ2人とも……1番隊! 逃げろって命令されただろうが!」

「あ、これ僕らが頑張らなくても良かったかもー」

「ああ?! カマデール、なに元に戻ってんだよ! リブ1人に任せる気か!」


 リブはロッセの前に歩み寄り、ポンと頭に手を置いた。


「ここから先は魔法使いの領域だ。お前にはミラルダの代わりにシロノを守って欲しい……頼めるか?」

「くっ……信じていいんだな?」

「当然だ。あんなポンコツに遅れを取る私ではない」


 じっと見つめてくるロッセに、リブは不敵に微笑み返した。

 ロッセは立ち上がると、リブから離れてシロノの横に立つ。


「シロノ、いざとなったら、さっきのでリブを助けてくれ。お前らを担いで、オレが命に懸けても逃げ切ってみせるぜ」

「うん。そのつもりだよ」


 リブは黒騎士の元に向かう。

 黒騎士は剣を持っているが、両手をぶらんと下げて突っ立っている。

 リブは黒騎士の数歩前で立ち止まり、辺りを見回した。

 熊、猪、他にも大型の狼が何頭かいるが、全て事切れているようだ。


「おいポンコツ。お前の目的は『魔王の核』か?」

「……照合完了。白き豊穣の杖と確認」


 感情の無い声が兜の奥から聞こえてきた。

 リブの額に青筋が浮かぶ。


「その二つ名で登録した奴は誰だ。素直に答えろ」

「白き豊穣の杖の権限では閲覧できません。登録者の開示には1位の権限が必要です。白き豊穣の杖は3位です」

「その名で私を呼ぶことを禁じる。代わりにリブと呼べ」

「了解しました。リブっち」

「シダだな! 絶対シダだろ!」

「お答えできません。リブっち」

「ええい、石頭め……もういい。お前の目的は何だ。魔王は倒したんだろうな?」


 黒騎士はすぐ傍に横たわっている狼を指差す。

 胸の部分が切り開かれ、内臓が綺麗に地面に並べられている。


「魔王と思われる固体です。現在『魔王の核』を摘出中です」

「ここは見逃してやる。とっとと主の下に戻るが良い」

「拒否します。私の任務は『魔王の核』の採取です」


 リブは腰を落として構えを取った。


「馬鹿が! ならばガラクタにしてやる!」


 リブの正拳突きが黒騎士の腹に突き刺さる。

 黒騎士は大砲の弾のように吹き飛び、小屋の壁を突き破った。

 ガラガラと小屋が崩れ落ちる。

 ロッセはシロノに尋ねた。


「リブって本当に魔法使いなのか?」

「誤解されやすいけど、魔法で身体能力を上げてるらしいよ」

「いやいや。あれはかなりの達人だぞ」


 瓦礫を押しのけ、黒騎士が立ち上がる。

 腹の部分がひび割れ、パチパチと放電している。


「損傷率20%。任務遂行は不可能と判断。直ちに帰還します」


 黒騎士の足元に青い魔法陣が浮かび上がる。


「シダに伝えろ。私は怒っているとな」

「了解です。リブっち」

「リブっちもやめろ!」


 黒騎士はフッと姿を消した。

 ロッセ達が駆け寄ってくる。


「あいつはリブの知り合いだったのか?」

「知り合いの作ったゴーレムの1種だな。あれ自体は初めて見る」

「ちょっと心配だったけど、無事で良かったよ」


 シロノはリブの頭を撫でた。

 リブは胸を張る。


「引いてくれて良かったよー。正直死ぬかと思ったー」

「あいつは剣に特化して調整されたゴーレムなんだろう。剣の天才でも倒すのは骨が折れるはずだ」

「うえー」

「よくそんなモン殴り飛ばせたな」

「ゴーレムは融通がきかないんだ。教えたことしかできん。他の武器や素人の我流剣術にあっさり負けたりする。ただ、1度見た技は2度と効かないがな」


 リブは腰を屈め、狼の死骸に手をかざす。

 ぶつぶつと呟くと、狼の右目に光が灯る。


「……これか。シロノ、お前の魔銃で撃ち抜いてくれ」


 言うや否や、シロノは「氷の矢」を撃った。

 光が消え、穴の開いた目玉だけになる。


「なんでそんなことするのー?」

「魔法具にされると厄介なんでな。悪用される前に壊すに限る」

「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」


 シロノはリブと手を繋いで歩き出す。

 ロッセ達も続く。

 街に戻ると、入り口で騎士団が待っていてくれた。

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