33 第2騎士団
シロノ達はテオに泊まっている宿屋を教えて一度別れた。
テオもいきなりのことで旅支度の準備などできておらず、時間がかかるとのことだった。
止まり木亭の店主に近々利用者が増えることを伝えると、その日の夕飯は豪勢になった。
翌日、シロノはレムの声で目を覚ます。
「姉ちゃーん。起きてよー」
「ふぁーい」
目を擦りながら体を起こす。
リブはまだ安らかに眠っていた。
シロノは下着と服を着てドアを開ける。
「おはようレム。どうしたの?」
「マシブのおっちゃんが用があるんだって。急いで来て欲しいってさ」
「マシブさんが? なんだろう」
リブを起こし、朝食を摂ってからギルドへ向かう。
ギルドの前には騎士とマシブが立っていた。
2人が近づくと、騎士は兜を取る。
赤い短髪の凛々しい顔立ちをしていた。
「おはようさん、シロノ。あたいだよ」
「クー?」
「そうさね。あんたは相変わらず可愛いねぇ」
「朝っぱらから呼び出して悪いな! こいつがお前をご指名だとよ。んじゃ、詳しいことは直接聞いてくれ!」
マシブはギルドに戻っていく。
「ボクに用事ってクーだったんだ。一体なんの用?」
「その前に、こっちのお嬢ちゃんも紹介してほしいねぇ」
クーはしゃがむと、リブの頭を撫で始めた。
リブとミラルダを紹介すると、クーは用件を話し始める。
「訓練も兼ねて、これから森に入って魔物の間引きをするんだけど、シロノには護衛対象になって欲しいんだ」
「なんでボクなの?」
「第2騎士団は女だけなんだけど、ゴツイのばっかだからね。守りがいがないんだよ。その点、シロノなら満点てわけさ」
「女性だけですか。俺は遠慮したほうが良さそうですね」
「ミラルダ、だっけ。あんたは第1騎士団に紹介してあげるよ。カマデール団長なら悪くしないはずさね」
「は、はぁ」
一行は街の外へ行く。
街の外では門の左右に騎士が数十人ずつ整列していた。
金髪ショートヘアで目つきの鋭い大柄の騎士と、茶髪でふんわりとした雰囲気の小柄な騎士が指示を飛ばしている。
ミラルダは金髪の騎士を見る。
「彼がカマデール団長ですか。かなり強そうですね」
「あれはうちの団長だ。あんたはあっちだよ」
「え!? で、でもあの人はどう見ても男……」
「ちょっとやめておくれよ。団長の機嫌が悪くなって困るのはあたいらなんだから」
シロノは茶髪の騎士を見た。
(あっちはあっちで女の子にしか見えない……)
「団長! クー、護衛対象である冒険者、シロノと少女リブを連れてまいりました!」
「ん? ……おお! 聞いていたより愛らしいではないか! しかもこの子もまた堪らない。よくやったクー!」
「はは!」
「オレはロッセだ。よろしくな、シロノ、リブ」
ニィと唇を吊り上げるロッセ。
獲物を前にした獰猛な野獣のような表情だ。
シロノは差し出された手を握り返す。
すると、急に引っ張られて抱きしめられた。
「あ! 団長ずるい!」
「はっはっは! 聞こえんなあ!」
シロノを抱きしめたまま回り出すロッセ。
騎士達から不満の声が上がる。
ひとしきり愛でられてからシロノは開放された。
ロッセは次にリブの方を見る。
「私は遠慮するぞ」
「……」
目を細めてじっと見つめるロッセ。
腰の鞄からそっと何かを取り出した。
「ラフランの新作の菓子だ。美味いぞ」
「シロノの分もくれ」
「く……」
ロッセはもう1つ取り出した。
リブは菓子を受け取ると、ロッセに抱きつく。
「ふはは! ラフランがまだあったとはな! シロノ、後で一緒に食べるぞ!」
「くぅ、美少女に弄ばれるオレ……今日は最高の日だ!」
「団長ずるい!」
シロノは横に立つクーを見上げた。
「クー。第2騎士団て皆ああなの?」
「ちょっとはしゃぎ過ぎてるけど、可愛い物が絡むと基本ああだね。なんでだろうねぇ。類は友を呼ぶって奴かね」
「訓練のし過ぎで疲れてるんじゃない?」
「ああ、訓練は厳しいね。団長も普段は鬼のようなんだけどねぇ。今は見る影もないけど」
ロッセに開放されたリブがやって来る。
「おいクー。まさか全員に揉みくちゃにされないだろうな。さすがにこの人数は勘弁して欲しいんだが」
「そこは安心していいよ。あたいらは紳士だからね。愛ではすれども困らせない。そこは絶対の掟だからね」
「紳士、か……知り合いもそうだったが、心まで男になりかけてるぞ。あれか、鎧を着ると性格が変わるのか?」
「武器を持つと性格が変わるのはいるねぇ」
クーはそう言いながら、さりげなくシロノの頭を撫でてくる。
不満を上げる騎士達に向かって、ロッセは大声を出した。
「お前らの気持ちは痛いほど分かる! 飢えた野獣ども! よく聞けよ、お前らのために褒美を用意した! 午前の訓練の後は、この子達と一緒にセレーネ湖で水浴びだ!」
「「うおおおお!」」
剣を掲げる女性の騎士達。
どの腕もムキムキで立派だった。
「クー達って、ほんとに女性なんだよね」
「なに言ってんだい、当たり前だろ?」
クーはにっと白い歯を見せて笑った。
その辺にいる下手な男性よりも凛々しくて格好良かった。
『リブ、説得力がないんだけど……』
『いざとなったら逃げよう』
「まずは1番隊が護衛を行え!」
歓声と悔しがる声が同時に沸き上がる。
騎士が6人、前に出てきた。
1人が兜を脱ぐ。
紫色の髪で、顔の右側を髪で隠した優しそうな女性だった。
「1番隊隊長、アイリです。よろしくね、シロノちゃん、リブちゃん」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「他の子達はおいおい紹介するわね。本名が嫌だからって、あだ名で呼ばれたがる子もいるし」
アイリは手を上げ、指を2本立てた。
5人の騎士がシロノ達の周りに整列する。
ロッセの合図により、他の騎士達も動き出す。
駆け足だが乱れることなく1番隊の左右に並んだ。
「これより森へ進む! 魔物がいたら速やかに始末せよ! セレーヌ湖が我らを待っているぞ!」
「「うおおおお!」」
第1騎士団長、カマデールも大きな声で指示を出す。
「みんなー、お昼は焼肉だよー」
「「おー!」」
「1番がんばった部隊には、ご褒美でミラルダ君と川で水浴びだよー」
「「うおおおお!」」
「それじゃー出発しんこー」
「「うおおおお!」」
第1騎士団は風のように走っていった。
「ミラルダ、大丈夫かなぁ」
「聞き覚えのある悲鳴が聞こえた気がするな……」
シロノ達の不安を他所に、第2騎士団は森へ進み始めた。




